36-2 お願いエルフの最長老あれ貸して
「おぉおぉぉぉーっ、よく来たぇ~♪ まさかこんなに早く来るとはなぁ~、リィンベルも一緒とは嬉しいぇ~♪」
「お婆さま、ただいま戻りました。お約束のアレクと一緒に」
なるほど俺を連れてくるって約束したんですかね。
孫を可愛がるお婆ちゃんよろしく猫撫で声でキエ様がお嬢を歓迎していました。
相変わらずのエッチな服装、大きなおっぱいをぼよーんとさせて俺の視線を困らせてくれています。
とりま、目だけは合わせないでおきました、キエ様怖いです……。
「挨拶しなさいよ!」
「ライオンの檻でさ、やあこんにちはお久しぶりです、とかやるのシュールじゃん? 食われるだけじゃん?」
「そうかそうかぁ、わらわに食われたいのかぇ~」
「そんなわけねーじゃん! ちょっとぶりですキエ様、あんときはだしにしちゃってすみませんね」
首脳会議で古なる者を会場に持ち込んだ件の話です。
蒸し返すとキエ様から少しだけ余裕と笑顔が消えました。
「そのことはもういいぇ。……して、話はリィンベルから大まかに聞いたぇ。こちらの結論から言えばなぁー……」
「言っておきますけど、変な願い事だったら断りますからね」
一応ここは釘さしておかないといけません。
なにせ相手は老人、同じ話をする達人なのです。
「それも考えたぇー、けどさすがに釣り合わんぇ。アレクサントよ、そちは……そう、迷宮を1つ落としてくるぇ」
「迷宮ってお婆さまっ、それはさすがに無茶よ!」
そうかそうきましたか。
迷宮を落とせば釣り合います。
「そうすれば我が国の領土が広がるぇ~。実はなぁー、宝石鉱山の眠る土地があるでなぁー……けどなぁー。どうやってもなぁ、これまで、攻略出来なかったんだぇ~」
「宝石鉱山ですか……」
鉱山のあるエリアを解放すればノウハウをこちらに提供するそうです。
しかしこれだとフレスベルばかりが得をするような……。
「それをそちと、わらわと、リィンベルと、ちょうどここに滞在しているある者とで攻略してしまうぇ~」
「滞在って誰が来ているの? お婆さま、もったいぶらないで教えて」
「ひぇひぇひぇ……それはなぁー、2人もよく知ってる相手だぇ~」
「俺たちがよく知ってる相手……。ああ、アストラコンさんとか?」
ところがエッチなお婆さまが、必要もないのに俺にその美貌と、おっぱいを近づけて来ました。ほんとどっちも必要ないです。
で、言うのです。
「隠れ里のゼルヴ3姉妹だぇ」
ああ、西に旅したとき出会ったあの腹ぺこちゃんx3か。
・
話通りのメンツで迷宮を下りました。
散発的に現れるスケルトン、スライム、ゴブリンとホブゴブリンの群れをボルト魔法やマジックブラストで吹き飛ばして進んでいました。
まず編成ですが、前衛・俺。はい終わり。
他の連中は完全なるサボりモードで戦ってくれません。なるほど最初からそういうことか……。
「いやおかしいでしょっ、何で戦わないのさアンタらっ?!」
「リィンベル、次はこの菓子を食べてみるといいぇ~、そちの大好きな甘いやつだぇ~」
「で、でも……あたしアレクを手伝わなきゃ……。あ、ほんとに甘い……」
後衛・のんきにお菓子を食べてくっちゃべるエルフ様ども。
なんか荷物多いなって思っていたら、ほとんどが遠足のおやつ的なものでした……。
あ、今倒したジャイアントオーガ、あれエリアボスだったっぽい。
流れ作業で倒されるボスキャラがいてもいいよね。
「今のボスだよね。ならなら、ここでちょっと休憩しようよ」
「賛成、休憩、シートを並べよう」
「重箱も並べよう」
するとゼルヴ3姉妹が流れるようにキャンプモードに入りました。
ゼルヴちゃん1が麻のシートをしいて、ゼルヴちゃん2が背負った重箱を並べ始め、ゼルヴちゃん3が俺の手を引きシートの上に座らせました。
「いやあの……何でこんなガッツリした弁当持ってきてるし……ゼルヴちゃん、近い、周囲取り囲まれると暑苦しいから離れて」
「ふふふっ、なんだかピクニックみたいね。アレク、ゼルヴ様に迷惑かけちゃダメよ」
なら戦えよお前ら……。
「ヒヒヒッ……どうした坊や、思い違いがあったか? わらわは一言も言っておらんぞ、一緒に戦うだなんてなぁ~」
「じゃあアンタら何しに来たんだし……」
冒険者の経験もずいぶん豊富になりましたけど、こんなパターンは初めてです……。
まさか、いやまさか、そういうことなのかこれは……。
「入場制限をクリアするため」
「コモンエルフ3名以上」
「合計人数6名」
「それがここの入場制限」
銀髪のコモンエルフ・ゼルヴちゃんたちが言葉をハモらせてからくりを説明してくれます。
つまりあれか、自分たちは数合わせで参加しただけだと……。
「そういうことだぇ。グリムニールとわらわが和解したとはいえ、それでも合計2名。こうしてゼルヴが久々に里を訪れていなければ……ここには入ることすら出来なかったんだぇ~。坊やがいなければ、クリアも出来なかったと言えようなぁ~」
いやまだクリアしてないんですけど……。
お嬢はお嬢でキエ様にからまれて、あれ食えそれ食えとちょっかいを受けているもよう。
「迷宮は契機が訪れたそのときに踏破されるもの、なかなか風流なことだぇ~」
「なら戦わない理由を教えて貰えますかね。あ、どもゼルヴちゃん」
「いえ……」
「いえいえ……」
「どうぞどうぞ……」
ゼルヴちゃんからお茶をいただきました。
喉乾いていましたしそこは遠慮なくグビグビっといっちゃいます。はぁ、美味い。ほどよい渋み。
「ああああっカップそれ1つなのよ……! そんなに……口付けて飲んだら……もうなに考えてるのよっ!」
「そのセリフ最後の部分は、あっちのお婆さまに言ってやってほしいんだけど」
お嬢がかわいく頬を桃色にして恥じらいました。
たかが間接キッスに心揺れ動かすだなんて、なんて乙女なんでしょう。良いと思います桜エルフ耳。
「グビグビ……」
「ウマウマ……」
「不思議味……不思議……」
ゼルヴちゃんがその後、器用なのかそれが日常なのか互いに茶を注ぎあって回し飲みしていました。
気のせいかゼルヴちゃんx3みんな、誰さんの口付けたところをピンポイントに選んでるような……まあいいか、不思議味だそうだし。それにお嬢以外は全然気にしない話です。
「どうぞどうぞ」
「こちらもどうぞ」
「手作りです」
弁当のメインはサンドウィッチでした。
変な葉っぱでハム包んだやつでして、レタスとはなんか違うけどこれはこれで野菜と肉ウマです。
「酒とつまみはないのかぇ~?」
「そんなのあるわけないでしょ……っていうか、無視しないで下さいよ、ほら戦わない理由は?」
ところがおかしい、俺の質問に対してキエ様は不思議そうにこちらを見返します。
さらには薄く笑われてしまいました。
ゼルヴちゃんが余計なことしてさかずきを彼女に渡し、どっから出したよそれってボトルからトトトト……と酒気の強い酒が満たされていきます。
「いやなぜあるし、しかもこれ蒸留酒って……。そりゃ携行性はあるよ? でもこれ完全にもう、戦う気0のアイテムだよね……」
「それはそうであろ。そちは、わらわたちの助けなど最初から要らんぇ~?」
半分冗談、半分本気でキエ様が酒を口へと運びます。
あーあ、ついに飲ませちゃったよ……。
「いや要ります要ります超要りますって、もう俺疲れましたし。なにこの状況でアルコール入れちゃってるんですか……」