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35-4 公城の地下に眠るもの 500年前の真実

 じきに会談が始まるところでした。

 そこで俺たちは大公様の部屋に押し掛けて、グリムニールの手紙を見せました。


「王墓に行けか。グリムニール殿もなかなか無茶を要求するものだな。……まあいいだろう、好きに探るといい。ただし王墓は危険だ、注意するようにな。……マハ、アレクサント殿をご案内せよ」

「はい父上。それでは早速行ってまいります。お仕事がんばって下さいね父上」


 すると鮮やかにも最短で許可が下りていました。

 王墓ってそんな簡単に入れちゃっていいものなんですかね? こっちは助かりますけど……それに危険って一体……。


「危険とはどういうことです?」

「そのままだ、装備をちゃんと持っていくといい。貴殿の実力ならば心配はないが、念のためマハのことを頼むぞアレクサント殿。ではすまんが仕事だ、行ってくる」



 ・



 こうして大公閣下は会談に出かけ、俺とマハくんは王墓を目指して地下に下ることになりました。

 公城最下層に小さな聖堂があるのですが、それはフェイクだそうです。

 長い髪の公子が壁に仕込まれたからくりを動かすと、下りの隠し階段が祭壇前に音を立てて現れるという……なかなか冒険心くすぐられるギミックを見せられたところです。


「どうぞアレクサント先生」

「うわ大公家すげーな……」


 その先は果てしない下りの螺旋階段でした。

 その1本道をカツカツとマハくんと肩を並べて歩いてゆきます。

 照明は殿下の持つランプ1つ。なかなか墓荒らしらしいムードが出てきたじゃないですか。長い長い道を進み続けました。


「ここ苦手なんです……。暗いし、遠いし、すごく怖いところです……」

「そりゃ墓場だからね、気持ちの良いもんじゃない。……おっと、階段はここで終わりか」


 恐らくここが王墓です。

 螺旋階段の先は広い地下通路が広がっていました。

 いえ、この景観見覚えあります。最近となっちゃかなりごぶさたで懐かしいくらいで、これって……王墓っていうよりさ……。


「迷宮……?」

「はい、魔物も出るのでがんばって進みましょう」


 殿下がランプの火を消して上り階段の手前に置きました。

 どう見たってここは迷宮、王墓への来訪者に対してたいまつ式の照明で歓迎してくれていました。

 迷宮ではなく墓場としてもう1度とらえ直すと、何とも不気味な話です……。


「ふーん……けど基本1本道なんだね」

「はい、もっと奥に行くと歴代王族のお墓参りが出来ますよ」


 たまの分岐は用途不明の祭壇部屋に繋がってました。

 それとやっぱりここ迷宮、大公様が装備持ってけって言っただけあって魔物が出ます。現れました。


「――はい撃破、思ったより大したことないね」

「カッコイイです先生っ、やっぱり先生強い……憧れちゃいます!」


 言葉と容姿だけ見ればマハくんってばめっちゃヒロインです。

 ちらほら現れる魔物たちを一気に吹き飛ばすと、黄色い声にも近い反応を示して下さるのでした。

 でもなぁぁ……これが女の子だったらなぁぁ……。


「それより絶対に離れないで下さいね殿下。怪我なんてさせたら、軽く鬱になるくらいめんどくさいことになりますんで」

「はいっ! でもボクも冒険科に入ったんですよ、どうか安心して下さい、ちゃんと戦えますから!」


 マハくんはその性格もあってか、ヒーラータイプを重点的に専攻したもようです。

 彼の支援魔法により身体能力、防御力がぶち強化されています。悪くない、それだけ楽ちんに大進撃できました。


「頼もしくなったねマハくん。あ、ドロップは帰りに回収するから悪いけどお願いね。公子様でもちゃんと荷物持ちはしてもらうよ」

「先生のお力になれるなら何でもします。何でも……何でも出来ますから……っ」


 墓場ということもあって霊タイプばかりでした。

 こりゃ墓参り大変だな大公家。……ツッコミは入れないからねマハくん。


「盗掘対策には最適だろうけど、いやそもそもここ城の地下だし……何ここ。ふぁいあーぼると~7連打」

「は、はわぁぁぁ……」


 ガスト、ワイト、クローカー、スケルトンども7匹を、連続にして即発動ファイアボルトでチカチカチカッと撃破しました。

 マハくんの素直極まらん感嘆が心地良いです。

 うちのひねくれ者となるとこうはいかない、ツッコミや皮肉が言われるところです。


「あ、ところでマハカーラの墓はどこにあるかわかってる? ほら大公家初代の、たぶんそこに行けってグリムニールさんは言ってる」

「そ……それなんですが……1番下……って聞いたような……」


「へぇ、さすがマハカーラ・アバロン。じゃあそこまで案内頼むよマハくん」

「い、行ったことなんてボクらありませんよっ! 奥の方はすごく危険だって、父上が……」


 ここには大公家の直系しか入れないそうです。いえ正確には大公家の者1名につき、護衛者1名のみ。まるで迷宮の入場制限でした。

 公国の再深部が未攻略迷宮だったなんて聞いてません、ちょっとした都市伝説クラスの出来事じゃないですかこれ。


「大丈夫大丈夫、よゆーよゆー」

「前見て下さいっ、強そうなのが……あれってリッチって怪物じゃ?!」


 殿下の言葉通りのものが行く手に現れました。

 霊体にして魔導師、難敵と名高いリッチタイプです。その昔は錬金爆弾のジェムで吹っ飛ばしてたっけ。


「マジックブラスト」

「えっふわああーっ?!」


 イアン学園長から教わった歩きながら魔法術(ムービングマジック)からの、マジックブラストでリッチを吹き飛ばします。

 エネルギー攻撃を受けた霊体は修復不能なダメージを受けて、実体を失い不思議な指輪をドロップしました。


 黒く歪んだ指輪:を入手です。

 さあそのまま下へ、下へ、歴代王の墓を素通りして、ただただあの女の墓を求めて迷宮を進んでいきました。



 ・



 やがて最下層最深部、マハカーラ・アバロンの墓にたどり着きました。

 ボス? さっきのリッチがピークだったっぽい。


「本当にたどり着いてしまうだなんて……。すごい……ここって……ここって、え……何だかすごく変ですよ先生っ?!」

「そうだね、変だ、変過ぎ」


 再深部祭壇とでも呼べる場所、そこが彼女の墓所でした。

 ところがおかしいんです。

 美しい副葬品の数々が棺の四方に並び、いやそもそもその副葬品がどう考えたって絶対おかしい状態にあったのです。


「あ、甘い」

「それ食べちゃダメですよぉ先生っっ?!!」


「そうは言うけどいける気がしたし、いけたし」

「だってそれ初代様への捧げ物じゃないですかっ?! 食べて平気なんですか先生っ!?」


 ブドウ、オレンジ、桃、リンゴ、その他あらゆる果実がそこに飾られていました。

 たちが悪いのはそれなのです。その全てが模造品などではなく、全て新鮮な本物なのでした。


「うまい」

「だから食べちゃダメですアレクサント先生ーッ!」


 ブドウもリンゴもちゃんと食えます。

 普通に甘くて美味しいです、贈呈用のいいやつの味がします。

 ほら、どう考えたっておかしな話でしょ。食うな? うんごもっとも。


「ごめんごめん。でもあんまり辛気くさくしたり、シリアスにしてると出るよ」

「で、出るって……」


「マハカーラのお化けだよ。でもそれはそれでちょうど良いかな、亡霊でも並べればどれだけマハくんと似てるか比較しやすいし」

「おおおおお化けの話は止めて下さいっ、ここ王墓なんですよっ、もし、ご先祖様に見られていたらっ」


 マハくんの狼狽を軽くスルーして、俺はマハカーラの棺に近付きました。

 俺という問題児がそれに近付いたことに、殿下も殿下なりにまずいと思ったんでしょうね。慌てて隣に飛び込んできました。


「待ってっ、何をする気ですかっ?!」

「亡霊なんて存在しない、いたとしたらソイツは厳密な意味で死んじゃぁいないんだ。……だから中を確かめる」


 俺は俺にしては強い意思で断言していました。

 確認しなきゃいけないんです、本当に死んだかどうか、それだけでもわかれば納得できる。

 それが惨めに朽ちた骨であってもかまわない、あの美しいマハカーラの末路を見届けたい。


「いくらアレクサント先生でもダメです、それは死者への冒涜です! 止めて下さい……それだけは……ボクはご先祖様に顔向けが……」

「グリムニールがここに来いって言ったんだ、ならこのまま引き返すわけにはいかないよ。見るしかないんだ、本当にあの女が死んだかどうか、確認しなきゃいけないんだ。悪いけど見なかったことにしてくれマハくん」


 マハ公子は俺の正面に回り込んで立ちふさがっていました。

 それをスイッとかわしてその背後に回り込んで、ちゃっかり目当ての棺に手をかけます。


「あっああっそんなっ、ダメです先生ーっ!!」


 重いはずの石棺はまるで自ら開封を望んでいるかのようでした。

 まるで羽毛のように軽く、それは俺の手によって押し開かれてゆく。

 死んでいればよし。けれど死んでいなければ……。


 俺は彼女に対する好奇心をさらに抑えられなくなるに違いない。


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