35-2 真夜中に2人っきりで訪れる、公子殿下のお部屋 1/2
歓迎会がたけなわとなり、ちょっと早めに抜けることになりました。
でまあ……約束もしてましたし、逃げるチャンスも無かったことですし? その行き先というのが……殿下のお部屋だったという約束……。
ちなみにさっきのザルツランド第1王子エルムエルが現れた辺りでもうお察しかもしれませんが、今回の歓迎会は、東の連邦国をのぞく各国首脳部を対象にした大がかりなものでした。
明日より会談が始まります。初日は細かいことを各国間で協議するそうです。
俺が城に上ったのは明後日の会談2日目のため、逆に言えばそれまで出番なんて全く無いのでした。
「あ、貴方をここにお招き出来るだなんて……。嬉しいようで恥ずかしくて……でもでもやっぱり嬉しいです、アレクサント先生ーっ!」
「落ち着けマハくん……気持ちはわからないでもないけど、ほら、俺たち……友達じゃん……?」
前略、マナ先生。俺は今、公子殿下のお部屋にいます。
広い空間に銀のテーブル、ド派手な燭台、手短にまとめますが、なぜ~か薄暗くムードいっぱいな空間に仕上がってますよ! お聞き下さい、キングサイズのベッドまであるでよぉー!?
ええそうなのです。全てが快適に整っていました。
でも、でもね、今だけその快適さがすごくイヤ……だってうっかりくつろいだらその先は……。
「では歓迎会のものと同じで恐縮ですが……これでアレクサント先生と2人っきりの晩餐会です。ぁぁ……やっとあの約束が実現したんですね……。覚えておいでですか、ザルツランドまでボクを護送してくれたときのことを!」
長い緑の髪を指にからめて公子様がうっとり瞳を細めました。
そういう言い方止めようよ……わーマハくんなんか色っぽーい、早くも危険だこれ! ていうか護送したのは貢物の方だからね?
「マハくんは大げさだね。でも料理の食い直しが出来るのは嬉しいな、余計な邪魔多かったからあそこ……結局食いのがしたやつも結構あってさー」
晩餐会にしてはもうすっかり遅い時間でした。
年寄りや子供はもう寝てるような時刻で、下手したら夜更かし気味の大人ですら寝る支度を始める頃です。
……というか、俺ある問題に気づいちゃったんですよね。
城に泊まる予定になってたんですけどー。
何でかー、1度も案内が無かったんですよー。
じゃあ問題ね。……この後、俺は、どこで寝ればいいんでしょうかー? はいー考えようー。
「な……なんでそんなにあっちのベッドを見つめるんですか……っ、ボ、ボク……そ、そんなつもり誘ったんじゃ……」
「違う違う。客室用意してもらってないなー、あははーってね……。はぁ……」
「えっ……それって大変じゃないですか……。た、だったら……」
ダメだマハくん、その先を言っちゃいけない。
ところがそのタイミングでコツコツとノックが響きました。
「何だろうこんな時間に……。入って下さい」
殿下の特権階級にしては丁寧な言葉が入室を許します。
現れたのはどうやら彼の小姓、親しいらしくマハくんの態度は自然体のままでした。
まあそこはいいんですけどー! その小姓が……なんかちょ~~余計なブツを持って来てるんですよ……。
「こちらは陛下からの差し入れです。今夜は2人でゆっくり若き青春を楽しまれよ、とのことです」
シルバートレイの上にワインボトルが2つ、追加の枕が1つ、変な筒が1つ現れました。
あ、これ下手したら俺の客室全く用意されてねーな……。
言っても準備が間に合わなかったとか、足りなかったとか言い訳して、息子と俺をお泊まりパーティさせるつもりだったんじゃねーかな……。
いやそんなのおかしいでしょ大公様ーっ?!!
「枕とは父上も気が利きますね、さすがは父上です。でもそれはなんですか?」
「はい、2人だけ王様ゲームという遊具だそうです」
「ハハハッ、ハハハハハハハハ……それゲームになってねーからっ!! 持って帰って!! これだけは絶対持って帰ってもらうからね?!!」
2人で王様ゲームとかそれただの欲望のたれ流しじゃないですか。
なんでそれを男の子と、真夜中の部屋で、ワインと一緒に、枕2つ用意された部屋でしなきゃいけないんですか……。
こんなの間違ってます、今度大公様に会ったらきつい嫌みの1つも言ってやらないと……。
「ボク、先生の命令なら何でも聞けますよ……?」
「だから余計まずいんだってばーっ! はいワインと枕は確かにいただきましたっ、それは持って帰って、それダメ、それ絶対ダメ!」
枕をポーンとベッドにぶん投げて、ワインボトルとグラスもテーブルに並べました。
ソイツだけは持って帰れという断固とした意思表示です。決意と言い換えても良いです。その遊具は絶対に、今夜ここに存在してちゃいけないものなんです!
「フッ……明るく楽しいご友人を持ちましたね殿下。では私たちも今夜は完全に下がります。邪魔立てする者、聞き耳を立てる者は、けして近づけませんので、殿下の、なされたいようになさって下さい」
いえあの、そういう配慮俺困るんですけど……。
意味心な微笑みを浮かべて小姓が背中を向けました。
「ありがとうハンス……今夜はアレクサント先生と語り明かすよ」
「好き勝手出来るのは若いうちの特権です。どうぞつかの間のモラトリアムをお楽しみ下さい殿下……」
で、なんかカッコイイこと言って扉の向こうに消えていきましたとさ。
言葉を返すようだけど、好き勝手にも限度あると思うよ俺ー……?