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35-1 はじめてのダンパとそばかすの王子様 1/3


前章のあらすじ


 オールオールムの遺産の一部と共に、アルブネア新領地にエルザとレアが来る。

 さらにマハ公子とちゃっかり出世したロドニー近衛兵長までもが現れ、開拓地はいよいよお祭りムードを高めてゆく。


 オールムの遺産の中にはスレイプニルの石段と名付けられた転移装置があった。

 これを用いてアレクは開拓地とアトリエを繋ぐ。さあ距離と場所の問題はこれで解決した、さらにはダリルの鍛冶工房まで開拓地に建ててしまう。


 またある日アレクサントはリィンベルと密約を交わした。

 互いの長い寿命がいずれ望まぬ離別を生む、だから仲間たちを不老に変えてしまおうと。


 開拓地繁栄のためのさらなる1手として、リィンベルの提案により温泉採掘計画が浮上する。

 そこでスペクタクルスの力で源泉を特定し、石の土管による給湯システムを作りだし、アレクの力ずくのごり押しアースグレイブで湯を掘り出す。


 その後、露天風呂が半日の突貫工事で完成した。そこには誘惑と危険がいっぱい、アレクサントは筋肉化モショポーの裸体を目撃し、これのさらなる改造人間化をもくろむのだった。


――――――――――――――――――――――――――

 公国の秘密編

  建国者マハカーラ・アバロンの遺言と、眠れる大地

――――――――――――――――――――――――――


 そこは夢の大地でございました。

 ポロン公国とフレスベル自治州を抱える、大陸中央高地と呼ばれるこの土地は、たびたび言われますが迷宮という特異なるシステムの上に成り立っているのでございます。


 人々はその正体不明の脅威と恵みに群がり、その夢に抱かれて生きてまいりました。

 己の足下に、何が眠っているのかもつゆさえ知らずに。


 さて、かのアバロン大公家にはある秘密がございました。

 そしてそれこそが大公家の存在意義、初代大公マハカーラ・アバロンの独立決起の理由そのものだったのでございます。


 それでは皆さま、大公家の秘密の物語の、はじまり、はじまりでございます。


――――――――




35-1 はじめてのダンパとそばかすの王子様 1/3


 ホントは行きたくないんですけど、行かないわけにはいかないので公都公城に上りました。

 スレイプニルの石段を使えば都までひとっ飛びです。

 後は月と日没に見守られながら、城までのかったるい馬車のひとときとなりました。


 それが終わればすぐさまだだっ広い会場に通されて、社交好きの紳士淑女の世界というやつを見せつけられることになっていたのでした。


「もぐもぐ……これ美味いな。お、これは魚か? もぐもぐ……おお、なかなかいける、さすが大公家のダンパ、全部美味いな~」


 それはダンスパーティというやつです。

 しとやかなワルツが宮廷楽師のリュートに奏でられ、ビシッと決めた紳士と、ヒラッとしゃれ込んだ淑女がクルリクルリのウフフフフでした。


 で、俺? もちろん踊るわけありませんよ。

 けど来たかいちょっとありました。

 立ち食いメニューがなかなか……社交ってやつがめんどいけどこれがなかなか、なかなかのものですよ。

 おかげで口の中が脂っこくなっちゃってもう大変。あ、あの煮豚また食べようー。


「ごきげんよう、男爵殿」

「おおこれはごぶさたしております、子爵殿。お噂は聞いておりますよ、ははは」


 ちょっと耳を立てると別世界としか思えないやりとりが聞こえちゃいます。

 やっぱり正解でした。アルフレッドに全部押し付けて大正解、こういう上辺と虚栄だけのやりとりとか俺には無理無理無理、絶対無理です。

 それに性格悪いの自覚してますし俺。


「美味い、おお美味い。あ、手で食ってたや」

「こちらをどうぞミスター。ワインの方はいかがでしょうか」


 そしたら不作法を品の良いボーイさんに見られてました。

 小さなフォークを手渡されて、さらには赤と白とロゼワインを乗せたシルバートレイを近づけてくれます。


「じゃあちょうだい、普段は飲まないけど口の中脂っこくなっちゃって……はいごちそうさんっ」

「……良い飲みっぷりですミスター」


 勝手にグラス受け取って一気飲み、元のトレイにそれを戻してやりました。

 不作法にまゆしかめられたかもしれません。まあいいじゃないですか、俺ただの平民だしー。


「ねえねえ、ところでこの後どんな料理来るの?」

「迷宮産天然鹿肉の煮込みと、国内有名農園直送のローストチキン、あとは甘く美しい色とりどりのゼリーと、砂糖菓子の盛り合わせもそろそろ姿を現すと思いますが……申し訳ございません、全て厨房次第です」


 ゼリーいいね、肉もいいね。砂糖菓子とかも気になるね。うんうん、来て良かったです。

 俺が返答に満足すると、ボーイさんは次の紳士淑女を探してその場を去っていかれました。


 ああそれでですね、今さらですけど、これただのダンパじゃないんですよ。

 いわゆる初日の歓迎会ってやつでして、俺たちの本題は明日から始まるやつにあるのです。

 ぶっちゃけるとアルフレッドとアトゥが俺の奇行に気をもむくらい、かなり格式の高い方々が出席するやつだったりする。


「げ、キエ様だ、隠れとこ……」


 半数は外国人でした。その中にうっかり聖域のエルフ・キエ様の姿を見つけてしまい、立ち食い飯が恋しかったけど向こうの死角に逃げ込みます。

 俺、アルブネア子爵家家老という肩書きでここに来てるんで、悪目立ちは避けたいのです。

 キエ様に見つかれば結果は見えてます……。

 この礼服仕様のローブは着慣れませんが、いつもの格好じゃない分だけバレにくいと願おう……。


 ところで場所を移したことでアルフレッドとエミリャ・ロマーニュの姿を遠巻きに発見することになりました。

 ちょっと観察してみればあの雌狐め、ヤツにぴったりくっついて離れません。

 どうやらアルブネア子爵夫人ポジションに居座ろうとしているようですね、ああもう気の利いたサポートなんてしちゃって気にくわない。


「アルブネア子爵殿、しかし貴公は傑物ですな。聞けば連邦国の実家を出て、我が身だけで迷宮を踏破して身を立てたそうではありませんか」

「ははぁ~、とても私どもには真似出来ませんなぁ~、うちの息子にも少しぐらい見習わせたいくらいで、はっはっはっ」


 で、何してるかって言ったらすり寄られてる。

 出世頭のアルフレッドに今さら取り入ろうと、あれこれおべっかを使っている貴族紳士たちが目に入りました。


「いや、あれは私だけの手柄ではありません。あれは……恩師と友の協力あってのものです。けして私1人では……」

「ふふふー、そうおっしゃられる子爵様のところもー、なかなか好調だと聞いておりますよ~?」


 ほらこうやってエミリャ・ロマーニュめ、アルフレッドをフォローして媚びているんです。

 エミリャのこの返しにその子爵様も機嫌を良くして、今度はエミリャ・ロマーニュとの会話にのめり込みます。ああやっぱ気に入らない……。

 だってアルフレッドが苦労してた方が見てる方は面白いじゃないですか。それを全く……エミリャ・ロマーニュめ……。


「ふんっ……成り上がり者が……」

「連邦国の親元で慎ましく暮らしておけばいいものを……何を好き好んで冒険者などに……」

「聞けば悪名高い魔導師を近くに置いているそうだぞ。確か……確かなんだったかな……。名前がよく思いだせん」


 一方それを良く思わない方々もいました。

 俺の真隣だというのに気づかず、グチグチと陰湿な目をアルフレッドに向けるのです。

 ……あと俺の名前はアレクサントですって。


「私はキサマ・ウツケと呼んでいるところを見たぞ」

「おお自分もそれを聞いたな。キサマ・ウツケ……むむむ、名前からして怪しいですな!」


 何でだよ。間違ってない気もするけど違うよ何でだよっ。


「アルフ様、そろそろー、あちらの方にもご挨拶にいきませんとー」

「……おお、そうだったな、そうだった。申し訳ありません、まだあちこちに挨拶回りを残しておりますので、また後ほど……」


 そこで巧みにエミリャ・ロマーニュがアルフレッドに助け船を出しました。

 しかし謝罪してその場を離れたものの、少しも休む暇もなくまた別の紳士たちに絡まれるはめになったみたいです。まあ大変ですねぇアルブネア子爵様はー。あーらくちん。


 その他にここから目に付くものといえば、あのナイスミドル、アバロン大公様のお姿でした。

 こっちは王とは思えないほど活発です。

 流れる川のように次々と諸外国のお偉いさんを接待して回っているという、スーパー社交能力を現在進行系で発揮されていました。

 それも仕方ありません。今回の歓迎会は相手が相手です。

 大公様とはいえ高いところでふんぞり返ってるわけにはいかないのでした。


 あ、そういえばマハくんはどこでなにしてるんだろう。

 当然いると決まっているはずなのに、なぜか姿が見えませんでした。

 ん、あれ? なんだあの人だかり……もしや期待のゼリーあるいは肉料理が来た?!


「最近全くお姿を見せていただけないので、勝手ながらずっとずっと貴方を心配しておりました」

「やはりおおやけの場に来たならば、殿下のお尊顔を見なければ落ち着きませんなぁ~」

「マハ公子様っ、今夜も見目麗しいことですのね。年がいもなくわたくし、公子様のお姿を探してしまいましたわぁ!」


 あ、違ったや……。

 肉とかゼリーじゃなくて殿下でした。そういうことだったんですね。

 なにせマハくんって小柄ですし、ちょっと取り囲まれると見えなくなっちゃいます。


 人と人の隙間からチラッとのぞき見れば、正装をしたマハ公子様がそこに立っていました。

 王子様のコスプレ似合いますね~この子。まあ女子学生服とかドレスの次に?


「公子様っ公子様っ、砂糖菓子はいかがですか! 厨房まで行ってマハ公子様のために貰ってきましたの!」

「これこれ殿下が困るではないですかお嬢さん。殿下、よければ俺とワルツを踊ってはくれませんかな……?」


 次にマハくんから見て2、3つ年上の女の子がきゃーきゃー黄色い悲鳴を上げて菓子を持ち寄り、そこにイケメン貴公子様が割って入って……え?

 なんかとんでもないことを言った気がするのでやっぱり聞かなかったことにしました。

 アイツー、きっとホモだなー。


「おおそこにおられましたか殿下、この爺の話を聞いて下さい。この前曾孫が生まれましてな~」

「その話はこの前もしただろう卿よ! 殿下をあまり困らせるな、ほら殿下の目を見ろ、俺と踊りたいと言っている」


「嫌がってるようにしか見えんぞ! そっちこそ好色な目でマハ公子殿下を見おって気色悪い!」

「ふっ、それはそっくりそのまま言葉をお返ししよう。貴公が殿下の似顔絵を多数所持していることは、俺の耳にもしっかり届いているぞ。……余暇が出来たら今度見せろ」


 うわ……なんだこれ……。

 諸侯の姫君、奥様、そこまでは良いけどなぜかナイスミドルな叔父様と、貴公子と、お爺ちゃんから婆様までオールレンジにモッテモテです。

 ははぁ~、公子という地位に、この容姿とおやさしい性格が重なるとこうなるんですねぇ~。

 社交界チートだこりゃ、シンデレラも嫉妬ものだよ。


「殿下!」

「こっち見て殿下ーっ!」

「殿下ッ、俺とワルツを!」

「ああマハ殿下ぁぁーっ♪」


 うわ~、大変なんだねぇマハくんってー。

 よーしならこっちにも関わらんとこー、ひらりとローブをはためかせて背中を向けます。


「た、助けてアレクサント先生っ!」

「……ぐげっ」


 ところがどっこいなんたることでしょ、渦中の人に気づかれちゃいました……。

 いやでも後ろ姿なら他人のそら似で通せるかも……。

 可能な限りの横目で殿下のコソコソ姿を確認すれば、まるで少女マンガのモテモテ乙女のような瞳で俺を見つめ、助けてとその手を差し出しています……。

 ああああ100%バレてるぅ……。もうこうなったらしょうがないので振り返ることにしました……。


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