34-17 ドッカン!
「どっこいしょっ! おっけー、アレックス運んで運んでー!」
「絶対はしゃいでるでしょダリル」
ダリルが庭の岩を台車に乗せてくれました。
いやそれ男の俺の仕事なんじゃないかな……。って言いかけて止めました、楽できたし別に良いよね。
「え、そうかな? だって楽しそうじゃん! 成功したら画期的だよ! 新しい未来なんかが拓けちゃうよ!」
「そうだね。ダリルの工房が早速大活躍出来るかもしれないんだ、俺も正直ワクワクしてるよ。……上手くいけばだけど、上手くいくと思う」
2人してニヤニヤしながらダリルの鍛冶工房を目指します。
到着すると[材料:庭の岩]を何でも精錬装置に突っ込んで、錬金術の魔力をかけました。
後は錬金釜と同じ要領です。
さあ出来た、装置のふたを開ければイメージ通りの土管が完成していました。
「お、重いな……」
「あっ手伝うよ、アレックスって腕力とか全然無いし、力仕事ならダリルちゃんに任せて!」
2人がかりで石の土管を取り出します。
それから形状を入念に確認……うん、問題なさそうです。これならば湯を運ぶという用途に十分でしょう。
「へ~~ドッカンってこんなふうになってるんだー」
「だからドッカンじゃなくて土管だよ、何度目だよ。って、何するつもりだよダリル……」
しかし横を振り向いたらあらビックリ、ダリルが鍛冶ハンマー振りかぶってスタンバってましたとさ。
巻き添え食らっちゃたまらない、ただちにその場を離れます。
「強度の確認に決まってるじゃん。いくよっ、ドッカンッ!!」
ハンマーの金属音、石の硬い音が鍛冶工房に響き渡りました。
土管は崩れません。つまり十分な強度を持っているということでした。
「乱暴だなお前、ってそれ叩き過ぎだろっ?!」
「念のためだよ。1発じゃわからないし、えいっ!!」
ガンガンガンガンガンッ! 軽い恐怖を覚えるくらい積極的なドツキってやつが生まれたての土管を虐待中です。
さすがに連続攻撃を食らった部分がボロく剥離したものの、そこは石ころ頑丈です。
……でもこの土管はなんか心配だし、庭のオブジェとして別部署の採用といたしましょう。
「よしっ、問題無しっ!」
「よしじゃねーよ、どんだけ体力有り余ってるんだよお前。……じゃもう1つ作るぞー」
手順は同じです。
新しい土管を再度製造して、今の土管と試しに繋げてみました。
筒の片方を細く整形してあるので接続は簡単です。多少の誤差も十分許容範囲でした。ダメだったら現地で削ればい。
「おぉ~、こうなるかぁ~♪ すごいねアレックスってっ、何でこんなこと知ってるの?」
「ただの思い付きだよ。さ、あとはこれをどんどん作って現地で繋げてくだけだ」
こうも都合良くいくとは気分が良いです。
俺はついつい上機嫌でダリルに笑いかけていました。ここに投資した身としては嬉しい結果なのです。
ところがダリルの方はなんというか、突然素に戻るのだけの理由が浮上したのか、その明るい笑顔をいきなり止めてしまうのでした。
「ていうかこれ、鍛冶師の立場無くない……?」
「いいのいいの、ダリルは石工じゃないじゃん。金属装備のパーツだなんて俺作れないし。ダリルは凄いよ、俺たちの誰にも出来ないことが出来るんだから」
俺らしくもないフォローをしてみると、あっさり彼女の機嫌が戻りました。
元職人科の身として実は本心だったりするんです。今のダリルが誇らしいです。ダリルは職人として凄いんです。
「よし、それじゃみんなに声かけて岩を集めさせよう。目標土管100個、俺が50作って、アクアトゥスさんとアインスさんで残り50仕上げてもらおう」
「え、100って多くない……? まだ温泉掘り当ててもいないのに……」
「余ったら余ったで開拓の水路周りに使えるし、足りなくなるより良いでしょ」
「……あははっ、あははははっ、アレックスさ、アレックスこそ今絶対はしゃいでるでしょ! らしくないもん!」
そうかもしれません。
だってこうして指摘されたって、俺は自分の笑顔を抑えることが出来なかったのですから。
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目標の土管50個が完成しました。
おかげで今、工房の外はちょっとしたドカーンなストーンヘンジ、来る人来る人みんなが奇異の声を上げてくれます。
さて残りはうちの優秀な錬金術師に任せて、これの運搬周り含めて任せちゃいましょう。
「じゃ、ちょっとぶっ放してくる」
妖魔の瞳の杖スタッフオブガイストを背負って、俺は工房を出ます。
向こう側に人が集まる前に片付けておきたい秘密の仕事なのです。
オールオールムより継いた超魔力を見せれば、また余計な詮索を受けるに決まってますので。
「ウルカ、ここはいいですから兄様のご支援をお願いします」
「おっけ~、何か面白そうだし行ってくる。せんせーが変な動きしたら、ちゃんと報告するね、ボクのアトゥ~♪」
ところが余計なのが付いて来ました。
工房に交代のアインスさんとアクアトゥスを呼んだら、当然ながらウルカも付いてきたってディスティニー。
アトゥとウルカはちょっと前まで川遊びしてたみたい、だって今も水着のままだし。
「じゃあ自分も行くっス。力仕事と同じく先輩の監視を含めて」
「えー、アシュリーまで来るの? まあ重たい仕事変わってくれるのは助かるし、ウルカと一緒だと虐められそうだから――あ、地味に嬉しいや、むしろ必要不可欠」
まあ今日は気分が良いからいいや。
アシュリーとダリルを連れて、俺たちはドロポンストリートを北西へ北西へと進んで行くのでした。
ここまで来たらもう今日のうちに源泉をぶち抜いておきたいものです。