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2-02 兄と妹の公都での市民生活 3/3

 ……………………。

 …………。


 そうしてこうして、一日があっという間に過ぎていきました。

 お礼にアクアトゥスさんの買い物に付き合っていたら、アトリエに帰宅した頃には紅い西日が射し込んでいました。


 二人して2階へと上がり、一緒にソファに腰掛けて歩き疲れを癒します。

 無言のひとときがずっとずっと続き、夕日がかげって薄暗くなってきてからようやくポツリと、アクアトゥスさんがつぶやき出しました。


「その杖……強化合成してみてはどうでしょうか……」


 ちょうど昼間の話を思い出して、ベッドわきからダリルの杖を手に取った頃のことです。


「え、出来るの? てかなにそれ?」

「私もしたことはないのですけど……お婆様がされてるのを見ました……。手順そのものは……通常の錬金術とそこまで変わらないと思います……」


 強化合成とか響きがすごくゲームっぽい。

 それだけあって何だかワクワクしてくる。

 錬金術の技術なんだろうから、すごい裏技感もすごい。


「釜に強化したい装備と……培養液として中和剤とポーションを注ぐそうです。それでそこに、装備カテゴリー以外の固形物を投入する……はずです、確か……」


 中和剤っていうのが錬金術の基礎素材です。

 ポーションだってこの中和剤に薬草を混ぜて作ります。

 それだけあってこの中和剤の品質が、そのままアトリエ生産物の品質に直結したりするわけです。


「すみません……どんな合成素材を入れるのが良いかまでは……さっぱりわからないですけど……でも兄様が、兄様が試行錯誤していけばきっと……素晴らしい結果になります……」

「それはいいこと聞いた、今度試してみるよ。上手くいったらアクアトゥスさんにも教えるね」

「はいっ、兄様……っ!」


 疲れてたみたいだけどアクアトゥスさんも元気が出てきたみたいだ。

 強化合成かぁ……ワクワクするなぁ、なにそれメチャクチャ楽しそう! なに混ぜようかなぁ!


 ゲーム的に考えるなら……これは杖だし魔法強化っぽい感じの何かがいいのかな……?


「ところで……晩ご飯はどうされますか兄様……」

「ああそういえば。あれ、アクアトゥスさんは寮に戻らなくてもいいの?」

「……えへ」


 なぜそこで恥じらうし。


「一応……外泊許可は取ってあります……」

「いやなにその用意周到さ……え、外泊許可って……え……?」


 そりゃ兄妹だし問題ないっちゃないよ?

 実家に戻るようなもんだしそりゃ許可下りるかもしんないよ?

 いやでも、でも、なにこの用意周到さ!?


「お風呂セットも用意してあります……ポッ……♪」

「はははっこやつめっはははっ!」


 あーーー……。

 さすが我が妹(仮)レベル高っけぇなぁぁ……。


「それで……晩ご飯はどうされますか……?」

「うん、じゃ作って。あとで送ってくから一緒に食べたい」


 でもちょっと学習してきたよ俺。

 戸惑った態度を見せればつけ込まれるってことに。


「はい……兄様♪ それから一緒にお風呂に入って……同じお布団で仲むつまじく愛を……つむぐのですね……兄妹らしく……」

「しないしない、そんな兄妹いないない。てか鼻血でてるし……いや、なにがなんでも食われる前に兄(仮)は妹(仮)を送り返しますよ?」


 ……うん、冗談だよね。

 きっとからかわれてるだけだそう信じたい。

 信じる心、それ勇気、愛! いやここで愛は出て来ちゃダメだー帰れ帰れ。


「つれないです……」

「つれたら困るでしょつれたらさ……」


 でも。

 こんな時だけど……アクアトゥスさんには感謝している。

 彼女のおかげで錬金術に出会えたのだから。

 秘密の楽しい世界を、彼女は惜しむことなく俺に教えてくれるのだから。


 それにこうやって……。

 兄妹の情とかはいまいち浮かばないんだけど、それでも人並みの暖かい生活をくれる。

 思えば父と暮らしていた頃に、こんなものなんて無かったかもしれない。


 つまり彼女にも感謝しなくちゃならない。

 自分には感謝しなきゃいけない相手が山ほどいるんだと気づく。


「あ、あの……ぁ……なん…ですか、兄様……。そんなに見つめられると……恥ずかしい、です……」

「ありがとうアトゥ、キミにはいつだって感謝してる。これからもよろしくね」


 なら思ったことを声に出そう。

 彼女の好きそうなやさしい声で、今回ばかりは兄のふりをしたっていいだろう。


「ぁ……兄様ッ……ぁぁ……そのお言葉を、そのお言葉をアトゥは聞きとうございました……っ。兄様、兄様、兄様ッ……ご不便がございましたらいつでもおっしゃって下さい……。兄様が、本当の兄様を取り戻すその日まで……アトゥは誠心誠意、兄様にお仕えいたします……」


 ……や、よくなかったかも。

 さすが我が妹(仮)といったところか。


 どうしよ、返事しにくい……調子づかせちゃったコレ?

 うーんあざといエロゲ的……そもそも兄に仕える妹ってナンダソリャ。


「……あの、いきなり何をされてますかアクアトゥスさん?」


 兄(仮)の戸惑いもよそに、妹さんはおもむろにベッドメイクを始めました……。


「兄様……とってもいいムードですし……もう寝ますか……? ぽふぽふ……」


 で、それが終わると布団に入って、こっちに向かって中を開いて、ポンポンとシーツを叩きます。


「いっつも唐突だよねチミ。うん、ベッドは一つしかないし絶対送り返すから。つか兄はもうツッコミ疲れたから、お腹すいたから、ご飯作るよっ。アクアトゥスさんはそこで寝ててね」


 濡れ場フラグを全力でへし折って、兄(仮)は背中を向けます。階段を下りて行きます。


「あっダメです兄様っ、そんな強引にしちゃっ! あっああっ、待ってお願いっ!」


 なんて声出すんだよぅ……。

 2階の方からご近所に誤解されかねないお言葉が高らかに響きます……。

 ああでももうツッコまない、無視無視。


「ぅぅ……兄様のいじわる……無視はイヤですっ兄様っ!」


 はい。そんなこんなな感じです。

 その後は兄妹(仮)で仲良く晩ご飯を作って、そりゃもう平穏で暖かな夜を過ごしたのでした。



 …………。

 ……。



 ……………………。

 …………。



 ……いや、ちゃんと送り届けましたよ?



本作とは関係ありませんが、なろうコンに送った短編に公式からの感想をいただきました。

ってことでさらっと宣伝です。オススメ、って言うと評価のハードル上がりますがオススメ。

【ある狩人の少年と鷹の王者の物語】

http://ncode.syosetu.com/n6306dt/


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