34-15 夢の開拓地に温泉を作ろう 諸般の問題編 2/2
合図をすると、食堂にレアさんとエルザさんが台車を引いて現れました。
それをナチュラル紳士なロドニーさんと、おやさしい殿下が手伝って机の上に大きな布袋が2つ乗せられます。
今さらだけど、マハくんって絶対モテるよねこれ……。男女のどっちに、とは言及しないでおくけど。
「ちょっと、何を売る気なのよ……」
「これ中身なんなんですか? まるで石みたいに重かったですよこれ」
「石っスか……?」
みんなの注目が布袋に集まります。
良い頃合いです、そこでレアさんとエルザさんに開封するよう合図を向けました。
「うん、これ」
その布袋の中にはルビーとサファイアがギッシリと詰められていました。
当然ながら誰もが驚き絶句します。なにせ大きな袋2つ分、量が量だったのですから。
それと俺たち以外にも、コレの正体を知っている2人がいました。お嬢とアクアトゥスさんです。
「こ、これってまさか……まさかあの黒い塔にあったやつじゃないの?!」
「オールオールムの遺産……そうでした、兄様はこれを公都に運ぶよう……レアさんに依頼していました……」
正解です。
レアさんが2人にお辞儀をして肯定してくれました。
悪の財宝を、温泉作りに使っちゃいましょう。
「そういうこと、これだけあれば今回の投資分くらいにはなるよ。さあこれで問題解決だ」
「……待て」
ところがアルフレッドがゆらりと立ち上がりました。
まゆをしかめて表情をひきつらせ、前かがみで俺を睨むじゃないですか。
「え、なに? 何で怒ってんのお前?」
「ク、クククッ……わからんか……。ならば聞くぞアレクサント……」
それに気のせいじゃなかったら、他の連中もひっそりと無言を決め込んで、俺ばかりをなぜか見つめていました。
「今までの会議は一体、何のためのやり取りだったのだ……? このっ、このっ男はッ……こんなものがあるならッ、最初から出せこのアホ錬金術師ッッ!!」
「あ、それ言っちゃう?」
亭主気取りのアルフレッドが机をガツーンッとぶっ叩きました。これはもうDVです。
「ちょっとどういうことよアレクッ!」
「兄様……貴方という人はどこまで……はぁ……」
みんなの目が冷たいです。
よりにもよってエミリャ・ロマーニュだけニコニコとしてますけど、それ以外は呆れを通り越したって態度でした。
あのマハくんでさえどうしたら良いのかわからないって顔してるんです。
「まあ黙ってたのは事実だけどそうじゃないんだよ。ほら、みんなで考えたら意外と他のところからzと人員引っ張ってこれたりしないかなって……内心期待してただけで、コレはただの保険、みたいな感じじゃダメ? あ、ダメだ?」
ため息、失望、呆れ、怒り、いろんな負の感情が渦巻いてるのが見えます。
いやそんなに怒らなくてもいいじゃん……?
「姑息っス」
アシュリーが一言を漏らして立ち上がります。
「何のために呼びつけられたんだ俺は……行くぞモンテ!」
「はい兄上、こんなことしてる場合じゃなかったでごじゃるな、開拓の指揮に戻るでごじゃる」
するとモンテとベッキオがつられて立ち上がり、なんか一緒に食堂を出てくじゃないですか……?
あれー、まだ会議終わってませんよー?
「あ~、そろそろ~、お洗濯物を取り込まないと~。アインスさ~ん、よろしければ手伝って下さいませんか~♪」
「はい、主人がご迷惑を、お手伝いいたします。ごめんなさい」
って今度はエミリャ・ロマーニュにアインスさんをさらわれました。
おのれエミリャ・ロマーニュ! 寝返るかッ! アインスさんもなぜ謝るし!
「殿下、そういえば勉強のお時間が過ぎていましたね。アレックスくんのことは残りの方々に任せて、おいとまいたしましょう。アレックスくん、いい加減にしたまえ……」
「え、あ、でも……。ぅ……すみませんアレクサント先生、もしみんなに責められてお辛かったら、ボクの部屋に来て下さいね……? 慰めますから!」
数少ない味方のマハ公子まで、ロドニーさんに連れ去られて行きました。
本当におやさしい子なのでしきりに後ろを振り返りながら。
「ま、まあこれで金の問題は片付いた。じゃあ残ったみんなで多数決とるよ。コイツを予算にぶち込むべきか否か。……ってあれぇ?!」
ルビーとサファイアの袋が閉じられました。
お嬢とアルフレッドは終始無言でそれを持ち上げて、それを元の荷台に戻すのです。
「リィンベル、商会に買い取ってもらうといい」
「そうね。これだけの大口となるとうちが適任だと思うわ。うん、じゃあそういうことだから、技術的な部分はアレクとダリルに任せるわ」
あの、みんな冷たくないですか……?
お嬢とアルフレッドがレアさんとエルザさんと共に、売却の段取りをしながら去っていってしまいます。
「はぁ……行きましょうかウルカ」
「うんっ、手伝うからアトゥの仕事終わったら泳ぎに行こうよ~、アトゥ~♪」
最後にアクアトゥスさんとウルカがイチャイチャと去っていくと、そこには俺とダリルだけが残ったという……。
まさかダリルまで愛想尽かして出てったりしないよね……?
「もう……。昔っからしょうがないやつだよねアレックスくんって! みんなが怒るのも当たり前だよ! もういい歳なんだからしっかりしなよ!」
ダリルも呆れていました。
彼女もイスを立ち上がって――でもどうしたことか俺の隣に座り直してくれます。
「え、ダリルは行かないの?」
「行かないよ! だってアレックスくん1人だと逆に心配だし、私が見守ってないととんでもないことになりそうじゃん! 温泉、宣言通り作ってみんなにおわびしよ、ねっ!」
なんて前向きな考えなんでしょう。
ダリルって良いやつです、メチャクチャ良いやつです。
「そうだね。でもおわびだなんて、それじゃまるで俺が悪いみたいじゃん」
「悪いよ!」
……断言されちゃいました。