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34-14 大見得切ったもののさっぱり方法がわからない、錬金術の限界を越えた案件 1/2

「うーーーん……」

「どうされましたか兄様?」


「うーーーーーーーん……?」

「……あの、兄様?」


「はぁ……うーん……」

「兄様っ!」


 大見得切ったもののどうすれば良いのかわかりませんでした。

 どうしたら錬金術の力で温泉を生み出せばいいんでしょう……。


「ん、今なにかした?」

「はい♪ 兄様がうなってばかりでアトゥに全然気づかれないので少し……妹なりの欲求ならぬ欲望を満たしました♪」


 頬がどうしてかスースーします。

 まあいいか、そんなことより温泉作りの方です。

 ちょうど一緒に調合中なので彼女にも聞いてみましょう。


「そう。それより俺さ、温泉作ろうと思うんだけど」

「……。兄様らしいスケールの大きさです、アトゥにはとても考えもよらないご発想ですね」


 元ネタお嬢だけどね。

 ……でもお嬢経由で例の報告が彼女にも届いているでしょうし、リィンベルという名を出すのは止めておきました。


「でさ、錬金術で温泉を作る方法に心当たりない?」

「はい、もちろんありませんよ。そもそもそんなものを作ろうと考えた者が、この歴史上1人としておりませんでしたので。お力になれず申し訳ありません兄様」


「ま、だよねー」


 するとエントランスの2階側にアインスさんが通りすがりました。

 今日は錬金術師としてではなく、ダリルが抜けたこともあって屋敷のメイドさんをしてくれています。


「ねえねえアインスさん」

「あ……はい、お呼びでしょうか、ご主人様」


 だいたい俺のポジションってエントランス1F部分なので、アインスさんはすぐに下へと目線を向けてくれました。


「錬金術で温泉作ろうと思うんだけど、良いアイデアない?」

「…………はい、わかりません。申し訳ありません、ご主人様」


 ダメ元でしたけどやっぱダメでした。

 さあどうしよう、お嬢には近日中って言っちゃったのに。


「だよね~。仕事の邪魔してごめん、また何かあったら声かけるよ」

「兄様ならきっと何とかされます。そうしたら一緒に入りましょうアインス、期待してくれて良いですよ、アトゥ自慢の兄ですから」


 なに勝手にハードル上げてくれちゃってんのアトゥ……。

 ところがそれにアインスさんが嬉しそうに微笑んでうなづくのです。


「フレスベル旅行、楽しかったです。私、応援してます、がんばって下さい、ご主人様」

「あ、うん、任せて。近日中にね~」


 するとアインスさんは90度その身を旋回させて、どこか足取り軽やかに仕事へと戻ってゆくのでした。


「さて。ああは言ったもののさあどうするか……」

「聞かれてもアトゥは困ります。誠心誠意今も考えてはおりますが……まるでわかりません」


「じゃあ根本的な話からいこう。……そもそも源泉がどこに存在するかもわからない。もしかしたらここには無いかもしれない」


 ところで話が少し飛びます。

 迷宮はただ穴を掘った先にあるわけではないのです。

 迷宮の入り口はここではないどこかに繋がっていて、詳しいメカニズムは全然わかんないんですけど、とにかくアルブネア領に穴を掘ること自体は問題ないのです。


「ただ、この領の周囲に温泉地と呼べるようなものは無かったはずです」

「うんそうだね。でもだからこそ生み出すことのメリットが大きいんだよ」


 近辺の温泉需要を独り占め!

 まさに生み出せば保養地としての未来が拓けます。

 金持ちや貴族様方が別荘を建てたいとかも言い出すでしょう、ああ、考えただけでも金になりそうでよだれが……。


「無い物は生み出しようがありませんよ兄様。……でも、真顔でそんな夢物語を語る兄様がアトゥは大好きです。無邪気な少年のようで、意地悪でずる賢く偏屈者な兄様が……ポッ……。ぁぁ……一瞬でも良いから兄様とお風呂をご一緒したい……。そこから兄妹の情が大人の関係に、発展……ああっ?!」

「はいはい、本音は隠そうね。でもどうしよう、そこら中に穴掘ったらそのうち当たるかな?」


 オールムの持っていた前世の記憶をたどっても、温泉の堀り方なんて全然出てきません。

 ああ、ならどうしたもんだろうか……。


「掘るって、開拓地中をですか……? ん……アトゥは事故が起きそうな気がします……」

「じゃあどうしろと。温泉に反応する都合の良いセンサーでも作れと? そんなのあるわけないじゃん、さすがにそんなご都合主義な機械なんて――」


 そこで何か引っかかりました。

 センサー? 機械、ご都合主義……あーー。


「悪い、あったわ……。俺には作れないけど、確かにあったわ……。そうとなればアクアトゥスさん釜の方を仕上げるよ」

「え、あっはい兄様っ」


 小瓶を釜へとぶち込むとアトゥとダブル錬金術によるエーテルの完成です。

 やっぱり俺にしか作れないとまずいので、最近はこうしてアクアトゥスさんとアインスさんにレクチャーしています。

 そのエーテルの小瓶を拾い上げてエントランスの階段を踏みました。


「兄様、それを持ってどちらへ行かれるのですか? 一応貴重品ですし早いうちに梱包しておくべきだと思うのですが……」

「いいのいいの、気になるならアクアトゥスさんに任せるよ。じゃ」


 彼女に後を任せて、俺ははやる足に任せて自室に向かいます。


「ああ兄様ッ、抜け駆けはダメですっ、アトゥをおいてっちゃイヤですよーっ!」


 結局アクアトゥスさんも主張を取り下げて付いて来ちゃいましたけど。

 まあそうこうして自室へと戻ると、俺は棚よりあるものを取り出します。

 それをテーブルの上に乗せて、持ってきた出来立てのエーテルをぶっかけました。


「それはスペクタクルス……。そうでしたそれがありましたね。ですが、そう上手くいくものでしょうか……」

「ものは試しだよ。ダメだったら他の方法を探れば良いし。じゃ、今度は庭先まで行こうか」


 すぐにUターンして領館から庭へと出て、そこからさらに領地が見渡せる見晴台まで移動しました。

 心なしかアクアトゥスさんもときおり気持ちをはやらせて、寡黙なその性格に反して期待の微笑をかいま見せるのでした。


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