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34-13 風量明美なアルブネア新領に最も有効な1手、ただし駒はまだ無い

 ところが真面目な話って長続きしないんですよ。

 結局限度がありますし、考え尽くせるところまで行き着いてしまうと停滞しちゃいますから。

 だからお嬢がそういう行動に出たことも、さほど驚くべきことではありませんでした。


 ブロンドの美しい金髪エルフ様が俺の抱擁を完全に押し退けて、なぜかその無い胸を張るのでした。


「ならあたしからも別の提案があるわ」

「え、急になに? いやまだ身体冷えてるでしょ風邪ひくよ?」


「そこよっ、そこなのよっ!」

「え、どこさ?」


 お嬢の震えももうすっかり止まっていましたし、まあ良しとしましょう。

 わざと後ろを振り返り何かを探して見せて、ちょっとだけおどけてやります。


「アレクはここをもっともっと賑やかにしたいんでしょ。なら良い方法があるわ。……ここに温泉を作りなさい! そうしたら公都から馬車でたった3時間で行ける保養地が生まれるわ」


 ボケをスルーされた気がします……。

 いやそれより温泉……おお、温泉かぁ……。


 珍しい植物を見物し、釣りをして、その後は温泉宿でグミの実でもオヤツにして旅の疲れを癒す。

 これまでずっと手つかずだったこともあって緑豊か、そこに適度な勾配も加わってまさにここは風光明媚、水も自然もこうして俺たちがエンジョイしてるくらい清らかです。


「首都の近場に観光名所か、アリだな。公都は貧富の差こそあるが世界中の富が集まる、金の余っている人間も多い。……うん、よし乗った! どうやりゃ温泉なんて作れるのかわかんないけど名案だ、どうにかして見せるよお嬢!」

「ふふんっ、あたしだってちゃんとここのこと考えてるんだから。無茶な話だけど……アレクならきっと出来るわ、これが実現したら絶対に凄いことになるわよ!」


 さすがは根っからの商売人です。

 細かい段取りはお嬢とアルフレッドに任せれば良いでしょう。

 出来ることなら今すぐこの場に温泉が沸いて欲しい。

 抱擁と興奮が身体を温めてくれたものの、まだまだ肌寒く温もりが恋しいのです。


「あっ……アレクアレクっ、急に雨が止んだわ!」

「そうみたいだね。いやはや長い集中豪雨だったこと」


 するとそのときいきなり風が止み、騒がしかった雨足がピタリと合唱を止めてました。

 暗い雲に陰っていた陽射しがゆっくりと元へと戻ってゆき、暖かな日光が雨上がりの世界を包み込んでいきます。


「やっと帰れるな……」

「そうね、ちょっと残念だけど……あ、違うわよっ!? もっとリゾート温泉地化計画のことっ、しっかり話していたいって思ってただけだからっ!」


 言い訳する彼女を置いて、このまま中にいたって身体が温まらないので率先して外へと出ました。

 暖かな陽射しがただただ超気持ち良いです。


「でも……やっぱり無茶なお願いだったかしら……。いくらアレクでもそんなことさすがに……無理かしら……」

「大丈夫、温泉のことは任せて。不可能を可能にする力、それが錬金術だよ、絶対に実現させてみせるよ。……せっかくだし近日中にね」


 お嬢は小屋の入り口で立ち止まっていました。

 おかしいなって思ったらそうでした、お嬢はサンダルを川に忘れて来てしまっていたのです。

 それでもウキウキと商売の話をしたがる彼女がかわいくて、ちょっと大げさに宣言してしまっていました。


「じゃ、帰ろうか」

「あ、アレク……」


 裸足のまま歩かせるわけにはいきません。

 かといって自分のサンダルを貸したら俺が痛い。足に怪我とかしたくないです。

 だから腰を落として背中を彼女に向けました。


「早く早く、裸足で歩いて帰りたいなら止めないけど、でももし怪我なんてされたら他の連中に俺が怒られるだろうね。お嬢ってやたら愛されてるから」

「あ、あぅ……も、もうっ、自然体で恥ずかしいことするわねアンタっ! もし誰かに見られたらどうするのよっ!」


 いやこの姿勢続けるのちょっとつらいんですけどお嬢。いいから恥ずかしがってないで早く早く。


「良いから早く乗ってよ」

「ま、待って……まだ心の準備が……すーはぁー、すーはぁー、ぅ、ぁぅぅ……」


 さっきまで俺にもっと過激なことされてたのに、今さらじゃないですかねそれ。

 あ、これって乙女からすれば美味しい展開なんです?


「はーやーくーっ、出発しちゃうよー」

「ま、待ってっ、ああもう待ってっわかったわよぉっ!」


「おっおわっ?!! ……あああ危ねぇ~、お嬢ってば大胆なんから」

「ホントに行こうとするアレクが悪いのっ! もう責任とって屋敷まで運びなさいよねっ!」


 あーあー、最近似合わないことばっかしてるな。

 なんて思いながらもお嬢の軽い体重を背中に抱えると、あながちこれが悪い気しませんでした。

 雨上がりにキラキラと輝く林道を、真夏日の暖かい陽射しと虹に照らされながら歩いていきます。


 2人分の体重で水たまりを踏み、緩やかな坂道を1歩1歩登ってゆくと、どうしてか領館に戻るのが惜しいようなもどかしい感情を抱くのでした。


「アレク、やっぱりあたし下りようか……? この先の坂道ちょっときついし……」

「ぜんぜん平気、ぜんぜん大丈夫、ふぅふぅ……はぁはぁ……」


 やばい、やっぱ重い、やばい、平地ならまだしもこの坂はっ……。


「あのさ、おんぶじゃなくて、少しだけ、抱っこに変えてもいい……?」

「いっ?! 良いわけないでしょっ! もし誰かに見られたらそれこそ言い訳出来ないじゃない! いいわよもう下りるぅーっ!」


 良い子ちゃんなので自分で歩こうとしてくれました。

 でもそうはさせません。


「いいやそうはさせない、こうなったら何が何でも下ろさない! 絶対にあそこまでお嬢を運ぶよ! ダメだったらゲームオーバーね!」

「いきなり変なルール設定しないでよっ!」


 あの坂を越えたら……。

 あの坂をもし越えたら……。


 お嬢を投げ捨てて井戸水をかぶりにいこう。

 これは断じてフェミニズムではなく、何となくの男の意地なのです。

 目的入れ替わってる気もしますけどそれも良し、不老薬と温泉作りのためのウォーミングアップと考えましょう。


「ねぇ、だいじょうぶ……?」

「で、でぇじょうぶでぇ……ゼェゼェ……ハァハァ……」


 補足、その後なんでか知らないけどお嬢の機嫌が数日間MAX状態を維持しました。

 なるほどお嬢がへそを曲げたらおんぶ、次からこれでいきましょう。


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