2-02 兄と妹の公都での市民生活 2/3
それでまあ、だいたいの買い物が終わりました。
後の時間はどうしようかとブラリブラリ街を見物していると、なんか見覚えのある二人組を見つけました。
「ああああーっ、アレックスじゃん! やっほー久しぶりーっ、ほらほらここここっ、ダリルちゃんだよーっ!」
片方はまあうん、熱烈自己主張してるんで、割愛。
「やあアレックスくん久しぶり。……半年前の学園祭以来かな」
「街にいるなんて珍しいですねロドニーさん。てっきり兵舎の方かと……ああうん、ダリルも久しぶり」
大衆食堂のオープンカフェに珍しい取り合わせがいました。
この二人って貴族科と職人科だし、あんまり接点はなかった気がするんだけど。
「妹ちゃんも久しぶり! あれ、でもあの面白い人形は……?」
「……えと……洗濯……中、なのです……」
そうそう、アクアトゥスさんってビックリするくらい人見知りです。
兄(仮)の後ろに隠れて顔だけ出して、人見知り0のダリルの笑顔にモジモジ身体を揺らしていました。
卒業してからこの二人も接点がなかったので、疎遠な日々が人見知りを加速させたようです。
「あれって洗濯しても良いものだったんだね……僕としてはそっちの方に驚いてしまうよ」
「うんそうそう! 干されてる姿想像したら……ププッ、笑えるけどっ♪」
「ああ、それは何だかかわいいね」
ロドニーさんが優雅にお茶をすする。
軽装の軍服姿でそれをされると、ああくそメチャカッコイイ。久しぶりに言いたくなる、さすがロドニーさんだ。
ダリルの方はテーブルにひじとか付いちゃってだらしない。
そりゃ胸の大きい彼女がすると……ちょっと、魅力的だけど。
てか……。
「二人とも仲良かったっけ? なに、ロドニーさんこれ不倫?」
やっぱ変な組み合わせです。
「うんにゃー、たまたまそこでバッタリ行き合っちゃってさっ、顔見知りだったし声かけたのっ」
「うん、それで時間もあったしお茶に誘ったんだ。これがなかなかダリルくんも面白い人でね、さすがアレックスくんのお気に入りだと感心していたところだよ」
うわ、普通にコイツらスーパー社交的だし。
ちょっと一緒に迷宮探索した仲くらいでお茶誘うとか、俺には無理。
ほら、アクアトゥスさんも同じ感想の顔してる。
「アレックスたちは何してんの? なんか兄妹で超仲良さげな感じだったけど」
端から見ればそうかもね……ハハハ……。
「買い物……さっき……このようなものを……買いました……」
「あっこらアクアトゥスすわぁんっ?!」
アクアトゥスさんそれは止めて……。
俺の背負ってたカバンの中から、おそろいのマグカップが現れちゃいました。デデーン……!
「うっわ……」
「おやおや……ふむ……若いね」
ロドニーさんのやさしい微笑みと、ダリルの冷たいジト目が俺をじっくり深々と見つめます……。
「うふふ……優越感……」
喜んでるのは我が妹(仮)だけでした。
背中側から兄(仮)にだけ聞こえるかすれ小声で、なんかおかしな相手に対抗心向けてますよ?
だってダリルだし、ロドニーさんじゃん?
「いや、何か他に言って下さいよ二人とも……無言はつらいですって……」
「かわいい妹が出来て良かったね、アレックスくん」
「うんうん、やっと再会出来た兄と妹じゃん! ちょっとくらい兄妹の限度を飛び越しちゃっても……仕方ないよねっ!」
「……! そう……思われますか……? やっぱり……ッ」
ピョコリとアクアトゥスさんが、背中という巣穴から首を伸ばしちゃいました。
「仕方なくねーよっ?! やっぱりでもないしっ!?」
変な方向に勘違いしないよう、念のため釘を刺します。
「あ、そいやアレックスって迷宮潜ってるんでしょ。アシュリーから聞いたし、なら装備とか新調したら?」
そこに別の話題が飛んできました。
でかしたダリル、その会話乗ったっ!
「うん、悪いが金がない」
ただまあ……その予定とかは、まだなかったのです。
そりゃ新しくしたいとは常々思っていたんだけど。
「え、そうなの? だって意外と繁盛してるじゃん、最初は正気かコイツとか思ったけど」
「あはは……ダリルは容赦ないな。いやぁ、本職が冒険者なら真っ先に新しい装備そろえたけど……他に投資したい部分もあってね、もうしばらくはダリルの杖を頼らせてもらうよ」
そう伝えるとダリルが機嫌を良くして笑った。
ぷるんとその胸を揺らして背筋を伸ばし直す。
「嬉しいこと言ってくるなぁ……。アレずぅ~~~っと使ってくれてるよね。ここまで大事にされるとメチャメチャ嬉しいかも」
「お金がないだけだけど、でもあの杖とも三年の付き合いになるかな。そう思うとなかなか手放しづらいよ」
ダリルにも本当に世話になった。
何とか彼女にもお返し出来ればいいのだけど。
「うん……なるほど……」
ところで俺たちのやりとりをよそに、ロドニーさんがあごを撫でた。
それから何かを決めたのか俺に目を向けて口を開く。
「それなら僕のお古を使わないかい? ほら、迷宮で服の下に何も入れてないんだろう? それじゃいくらなんでも危ないよ」
「それは……わかってるんですけど……」
それだけ軽装の方が動きやすいしいいんだけど、斬られたらやっぱ死ぬかなー?
「だからお古の鎖かたびらをあげよう。かなりボロいけど無いよりマシだろうし、今度届けさせるよ」
「ええ……っ。いやそんな、金属防具だなんて高いし悪いですよっ」
「ははっ、構わない構わない。かわいい後輩の手に渡るなら本望だよ」
ロドニーさん……今も変わらずメチャメチャ良いお人だ……。
ああ、貴族科のオアシスはまだここに存在していたか……。
「兄様……アトゥは……怪我をした兄様を……見たくありません……」
「だそうだよ。諦めて受け取ってくれ」
仕方ない。
実は人の使った鎧を着るのに抵抗あって断ってたんだけどね、でも死ぬよりずっとマシだ。
「ありがとうございますロドニーさん」
「いえいえ。その代わりに今度キミを頼ることになるかもしれない。その時はぜひよろしくね」
それも俺に受け取らせるための建前かもしれない。
貴族科のオアシスはほがらかな笑顔を浮かべて、紅茶まで一杯ずつおごってくれたのだった。
……ホントこの人。
人が出来すぎてないですかね。
こっちは軍入りの誘いを蹴って、アトリエなんて趣味商売始めちゃったのに……。
うん、ロドニーさんは神だな。
彼の力になれるよう、日々腕を磨いていこう!




