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33-10 恩赦の人選には偏りがある、凶鳥再来 2/2

「うん否定しない、でもこの人そーいう人だから」

「ひどいなぁー、まっええわっ、許したるから仲間にしてーや、こらぁーついとるなぁうちぃー♪」


 うさん臭い人です。普通に小悪党です。

 確かに鑑定師としての実力は十分なのですけど、ただし人柄がこの通りなのでいつ裏切るかもわからない。

 今はいいけどそのだだ余りの欲の皮からしてとてもじゃないですが……。とにかくそーいうお人なのです。


「ああもうムカつくー! こんなの殺しちゃおうよ、せんせー♪」

「ひっひぇーっ?! な、なんやウルカさんっ、そないなかわいそうなことしたらあかんよっ?! 助けてーなアレクサント!」


 黎明期にモショポーさんから受けた損失、風評被害って、今のアトリエの成長からすると莫大な額になります。

 彼女の妨害が無かったらもっとトントン拍子にいけてたでしょう。


「何とか言ってやアレクサントーっ?!」

「殺していいってー♪ ボクねー、何となくわかるんだぁ……悪の臭いが……♪ モショポーからは悪人の臭いがするよぉ……」


 ちょっと意外な光景でした。

 ウルカが俺を守ってくれるのもそうですが、この2人の相性みたいなところが面白い。

 悪党には、ウルカみたいなのがやっぱり合うんですねー。


「そういえば昔モショポーさんさ。うちのポーションただ飲みしておいて不味い不味い粗悪品だー、とかお客さんの前で叫んでたよね」

「なっ、何を言うとるんやアレクサントっ?! そ、そないなことぉっ、もー過ぎた話やんかぁーっ!!」


 楽しくなってきたのでウルカにバラしてみました。

 するとあら不思議、ウルカの腰からあの黒塗りの短剣が引き抜かれるという……。


「やっぱ悪いヤツじゃん。ふーん……ボクのせんせーをいじめたんだぁ……ふぅぅーん……?」

「ひっひぇぇーっ?! こらぁアレクサント~っ、こ、この女止めなっ、ヤバいヤバいこの女絶対ヤバいでぇぇーっ?!!」


 知ってますよそんなの、俺だって昔は何度も殺されかけたもんですし。

 短剣がテーブル向かいのモショポーさん鼻先に突きつけられているようです。


「あーそうそう。あと奴隷だった頃のアインスさんを横取りしようとしたね。一生こき使ってやるとかなんとか言ってた」

「きっ斬れるっ斬れるっ斬れるってちょっ、止めてーやっ、む、ひーっひぃぃーっ?!!」


 短剣がモショポーさんの顔の上を滑っていきます。

 でも不思議切れてナーイ。……あ、やっぱちょっと切れてました、カミソリ負けみたいな出血が赤い線を引きます。


「せんせーがボクを止めないってよっぽどだねー。ふーん……どっちにしろ、扱い方をもう少し厳しくしないとかなぁ……」

「扱い方ねー。うーん……モショポーさん何度も逮捕されてる以上は、鑑定士としての名声とかもう無いに等しいし。そのまま鑑定士として働かせてもあんまり箔付けに使えないんだよね」


 やらかした時点でもう経歴は完全に死んでいます。

 ただそのことをまだ自覚できていないご様子。


「そ、そないなことないで! うちは人間もアイテムも鑑定できる凄腕や! 近くにおけば絶対便利やから助けてやアレクサントっ!」

「あ、口はさむけどボクは反対。アイテムはともかくー、人を鑑定させるのはダメだね、クソ女が人事係になるなんて最悪だもん」


 モショポーさんに口利きしてもらえば出世出来る、なんてクソみたいな構造になるのが見えていますからね。


「モショポーさんって利権に全力で乗っかる人だからねー」

「ソ……ソナイナコト、セーヘンヨー? セ、セーヘンヨォー?」

「やっぱクソ女だよコイツ……殺す?」


 いやいや殺さない殺さない、これでも大公様がくれた人材だから。

 ウルカに向かって首を振って、しょうがないので彼女の願いを受け入れることにしました。


「わかったよ。モショポーさんって悪党だけどそのへんの農夫とか犯罪者よりずっと使えるし、ウルカの下で恩赦組を束ねるといいよ」

「何やそれぇーっ、それじゃあんま今と変わらへんやん! 肉体労働はもういややーっ!」


 だってモショポーさん、そういう約束で恩赦受けたんでしょ……。

 いいじゃん、中間管理職だよ、モショポーさん向けだと俺は思うよ。


「鑑定を頼みたいときは俺たちからお願いする。そう考えると屋敷で生活してくれた方が便利だから、朝晩と休日はあそこで暮らすといいよ」

「そか。ほなそれでええわ。今よりずっとましやし、この先も交渉次第やなー」


 ゴネるかと思っていたらあっさり引き下がりました。

 まさか打算済みの交渉術だったとか? いやここはナチュラルな厚かましさが出ただけだと思いましょう。


「せんせーってば甘いよ。こういうタイプは早めにやっつけておいた方が良いと思うけどなー……」

「ぶっ殺せば全部解決とか、そんなのこの公都じゃ成立しないよ。悪人だって上手く利用してくしかないんだ」


 って自分で言っておいて何ですけど。

 すごーく俺に都合の良いことを思いつきました、今。よく考えたらチャンスじゃないですか。


「ぷぷぷっ……ちょろいわぁ、ちょろ過ぎやぁ、運が回ってきたでぇぇ……♪」


 聞こえてるってモショポーさん……。

 そのモショポーさんの厚かましい顔の前に、俺はあるものを手のひらに乗せて出しました。


「あ、気が変わった。やっぱり落とし前付けてもらおうかな」

「な……なんやこのけったいな薬は……? お、落とし前やてぇ……っ?!」


 これまで通りの俺だと思わないことです。

 俺の中に悪の錬金術師が生きているのですから。


「ああっなんか痺れちゃうなぁ……。落とし前……せんせーの口からそんな言葉が出てくるなんて……クスクス……その薬なにー?」

「うん、人を簡単に強くする薬だよ。名付けてモリモリ君1号。モショポーさん、この新作の実験台になってくれない? これ飲んでくれたら味方として貴方を迎え入れよう。……せっかくだしこれまでのこともまとめて水に流すよ」


 モショポーさんがその薬を恐る恐る受け取ってくれました。

 嬉しいなぁ、こんなところで実験台が見つかるだなんて。俺もついつい相手が彼女なのに笑顔になってしまいます。


「あのさ、やっぱ止めた方が良いかも。それ絶対ヤバい、せんせーの薬は全部ヤバいから。この人の甘い言葉に耳を貸すと……取り返しの付かないことになるよ? わっ」


 邪魔しないで下さいよ。

 その忠告を手のひらで唇ごとふさぎました。唇やわらかいなー。

 って思ってたらすぐに押し退けられました。


「まあいいけどね……不幸になるのは悪党のモショポーだし」

「そないな言い方されたら飲みにくくなるやん! うちもわかったで、腹くくるわ! コイツは甘ちゃんや、死んだりとかえげつないことになんかならへんわっ、いくでーっ!」


 んー、さてそれはどうだろう……?

 モショポーさんはそう思い込むことにして、瓶のふたを育ち悪く歯で引き抜き、一気に中を飲み干してしまいました。


「うわ、飲んじゃった……ボクしーらない」

「契約成立だね。これでモショポーさんは俺たちの仲間だよ」


 さてそのモショポーさんの様子を観察です。

 早速異変があったらしく、彼女は自らの肌を撫でておかしな感覚に疑いを向けていました。


「な……なんや……か、体が熱いで……。なんや、なんやこれぇぇぇ……力が、こみ上げて……あっああっ、うっ……!」

「ちょ、せんせーっ、強くなるって具体的に何が起こるのさ?! 何かヤバくないっ?!」


 ふーんこんなふうになるんですね。

 強くなるっていったらもちろんアレですよ。薬で技術的な強さが手に入るわけないんですし……。


「なーんーやーこーれーわぁぁぁーっっ!! ウオオオオオオオーッッ!!」

「お、成功だ」


 ビリッバリッ、ムキムキムキィィィーッ!!

 まるで世紀末覇者のごとく上着やズボンのすそが内側から破け散りました。

 大成功です。無事にムッキムキの筋肉だるま化したモショポーさんが完成です。


 乱れていた彼女の呼吸もすぐに落ち着き、たくましき女はコキコキと間接を鳴らしながら己の肢体を確認するのでした。


「ワハハッ、効果は抜群や! やけどっなんじゃこらぁぁぁぁーっっ?!! こないなムキムキじゃお嫁に行けへんやーんっっ!!」


 結婚する気あったんですね、実験の成果より驚きです。


「こうなるかー。へー、アシュリーで試さなくて正解だったなー」

「ほーら言わんこっちゃないー……。うわぁぁ、確かに強くはなっただろうけど……こうなったら女としておしまいじゃない……?」


 こらウルカ、あまり強そうなマッチョを刺激するもんじゃありません。

 ピクピクっと心ない言葉にモショポーさんあらため、マチョポーさんが震えます。震えるほど嬉しいか、あるいはキレかけてるかのどっちかです。


「死にさらせェェーッアレクサントォォーッ、うちを元に戻せやぁぁーっっ!!」

「え、それは無理だよ。だって筋肉減らす薬だなんて毒以外の何でもないよ、もしかしたら利き過ぎて死ぬかもしれない。……うん、直す手があるとしたら自然に衰えるのを待つしかないね」

「そのガタイなら開拓にバッチリじゃん。良かったねぇーモショポーさーん♪ あ、ごっめーん、今はマチョポーさんだったねー♪」


 ウルカ、言っちゃなんだけどそれ俺と同じギャグセンスだけど良いんですかね?

 ともかくモショポーさんあらため、マチョポーさんが開拓地の頼もしい中間管理職として加わりました。


「人の欲望とは恐ろしいものだ。ちょっと濃かったみたいだから、他の人には薄めて使おう」

「この鬼ぃーっ、悪魔ーっ、性悪のクソ錬金術師ーっ! 覚えとけよーアホォーっ!!」



 ・



 余ったモリモリ君1号は、その後マッチョ願望のある開拓者に絞って、今より5分の1に希釈したやつを与えました。

 おかげさまで開拓ペースがアップアップ、スタミナポーションとの合わせ技でガンガンビルドアップです。

 ま、そのおかげでマッチョだらけの鉄腕マッチョ村がごく一部地域に完成しちゃったんですけどね。


 マッチョを求めし者ここに集まれ!

 開拓民の勧誘文句にも使っていきましょう。


「バカなことを言うな、却下だ! この開拓地をお前は何だと思ってるんだアレクサント!」

「もち、俺の都合の良いオモチャ。ついでにアインスさんと俺を守る盾にするに決まってるじゃん」


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