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33-06 アルブネア子爵家をry 錬金術を用いた領地開拓の適解

「ああ……疲れた……やっぱりもう寝たい、怖い、ホモ怖い……」


 エントランスに木箱を運ぶと、チャップさんはやさしげな微笑みでアクアトゥスさんとアインスさんに挨拶をして立ち去りました。

 俺の気力ゲージですか、もちろん0です、0……。


「どうされましたか兄様っ、やっぱりアトゥと一緒にお布団で朝から自堕落にヌクヌクされますかっ?!」

「お疲れ、ですかご主人様? 疲れをおほぐし、いたしましょう、か……? やさしく、します」


 いやそうもいかないです。

 エントランスに戻った頃には錬金釜がうっすらと発光して、調合の下準備がバッチリ整っていました。

 こうなったら作業しないわけにはまいりません……。


「あのさ……執事のさ、あのチャップさんって、どう思う……?」

「あの方、ですか? はい、とてもおやさしい、お爺さまです、見習いたい……」

「ええ、さすがは大公家に仕えるプロですね、王族ともなると臣下にも気品があふれていますよ兄様」


 気・品……?

 いやあれはただの本性隠してるだけのド変態ジジィです。

 というか違うこうじゃない、余計なこと考えないで仕事しよう仕事。ひとえに気持ち悪いあの、舌なめずりと真顔の凝視を忘れるためにです……。


 ダリルの杖を握って釜の中に落とします。

 軽~く脱力スタイル・ぐーるこんっと……はぁぁぁ……。


「それで兄様、どうされるおつもりなのでしょう? 店の方は補充せずともしばらくもつはずですが」

「うん……これから3人のトリプル錬金術であるものをスピード調合していくよ」


 3人でやる機会なんてありませんでした、今回が初です。

 それにあたってアインスさん用の木製ロッドを新調達しました。これちょっと良い素材使ってます。


「悪いけど2人は魔力を込めて釜をかき回すだけでいい。他のことは全部俺がやるから」

「了解いたしました、ご主人様」

「…………。兄様」


 アインスさんが素直に従ってくれます。

 ところがアクアトゥスさんの方はというと、怪しむようなそぶりと共に顔をのぞき込んで来ました。

 さすがです、例えるならそれは0距離戦を得意とする超インファイターな眼差しと言えましょう。


「兄様……最近アトゥは思うのです。兄様の様子が普通ではないと。兄様マニアの最愛の妹アトゥが言うからには間違いありません」

「気のせい気のせい、さあ始めよう。他のみんなもがんばってくれてるんだからね」


 その疑惑をスルーしました。

 それから事前準備しておいたある薬を懐から取り出し、数滴ほど淡く光る釜にたらします。


「あっ……」


 すると釜の中の水溶液がピカピカと力強く輝きだしました。

 まあそうなれば当然です。一体今なにを入れたのですかと、2人の目線がまた俺に向けられました。


「兄様、いきなり不可解な物を投入されましたね。若輩者のアトゥとアインスにも説明いただけますか?」

「うん、用意しておいた不思議の薬を入れたよ」


「それじゃわかりません、なんのお薬ですか兄様。言っておきますがアインスも私と同じ疑問を抱いておりますよ」

「はい、私に、教えて下さいご主人様……」


 彼女らの問いかけに微笑みで返します。

 でもそれじゃ納得してくれなかったのでしょうがない、素直に答えることにしました。


「これはね。本来混ざり合うはずのないものを、完璧に合成するための、まあ、平たく言ったところのー……。溶かす接着剤だね」

「それは……すごい、まさに、不思議の薬です。さすがご主人様……」

「兄様……貴方はいつの間にそんな、錬金術の世界からしても常識外れの薬を平然と作り出されていたのですか? やはり、兄様はアトゥに何かを隠してはおりませんでしょうか?」


 鋭いなぁ……。

 いやこんなチートアイテムさらっと出したら疑うのも当然だねー。

 でも自重しないって決めたからしょうがないです。


「ないない気のせい気のせい、じゃあ次ね」


 続いて木箱を開けるとそこに多種多様な草や枝、果実が押し込まれていました。

 接着剤と無数の植物たち、それらを見せつけられたとなれば、2人の錬金術師である彼女らが期待に目を輝かるのもまた道理です。

 まさかそんな、でももしかしたら……って顔でした。


「これとこれにしよう」


 育ちの早い桃の枝に、都で美味しいと評判の高級ナスの実。その2つを錬金釜ぽいっと投入しました。


「普通にこれを錬金術で合わせようとすると、ただのナスついた桃の枝になったり、木目肌持ったナスになったりするわけだ」


 だけどオールムからパクった技術を使えば、ほいっ。

 続いて小さな布袋を釜に投げ込みました。


「兄様ッ、きゃっ?!」

「ぁ……!?」


 するとそれがきっかけになってピカーンッのポンッ! です。

 釜の底に中身ぎっしりの袋が現れていました。

 で、説明しないのも意地悪ですし手早くそれを取り出して、2人に中を見せてあげました。


「わ、わぁ……。うそ……すごい、なんで、すごいです……。ご主人様……すごいですっ」


 そこには期待通りの種がありました。

 紫色をした、クリのように大粒の種がギッシリみっちりです。


「兄様ッ……やっぱり貴方はどこかおかしいですっ!! だってこれはグリムニールお婆さまクラスが使える技……! それも、複数の植物を合成して種に変えてしまわれるなんて……おかしいですっ、兄様っ! 兄様はあの日、最悪の錬金術師の館で何を見たのですか!!」


 うーん……そりゃ愚か者がはまった500年ばかしの悪夢かな。

 ほんとバカなやつですオールムは。


「さあ次に行こう。次はこれだ」


 要するに彼女は、本来あり得ない成長が兄の身に起きていることに誰よりも驚いていたのでした。

 真実に気づかれると少し厄介ですが今はしょうがない。


「それは、美味しいので、知っています。アケビの実、それと、ツル……?」

「正解。こっちはアケビの果実。で、こっちが甘いと評判の瓜のツルだよ」


 さあどんどん作りましょう。

 こうして夢の合成植物の種を生み出して、珍妙怪奇にして高品位な特産品をこの地の畑から作り出してやるのです。


「夢のような、話です。食べてみたい、です……」

「……兄様、兄様のご事情はさておき。アトゥからも1つ提案があります」

「え、なに?」


 するとどうしたことでしょうか。

 2人が積極的に釜へと中和剤と井戸水を流し始めました。

 あれぇ~やる気まんまんですこれー。


「兄様っ、アトゥ今生のお願いです!! どうか……どうかそのお力で! グミのなる実をお願いいたします!!」

「あ、それ、それ、私も賛成ですっ。お願いします、ご主人様、ぜひ……! お仕事もっと、がんばりますから!」


 いえ違いました、やる気じゃなくてこれ食い気でしたー。

 でもグミのなる木かぁ、それちょっと夢があるなぁ……。

 わざわざ調合失敗させられずに済むわけだし? やってみる価値あるかも。


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