2-01 強襲のアクアトゥス、妹(仮) 1/2(挿絵付き
前章のあらすじ
アレクサントは錬金術師のアトリエを開業した。
主力商品はポーション。
しかし客足は鈍く閑古鳥が鳴り響く。
さらには性悪の鑑定士が来店し、高額の契約を強要される。
それを突っぱね、彼は鑑定術に頼らないでポーションを売ることに決めるのだった。
翌日、元冒険科のアシュリーらと迷宮探索。
その攻略中にアレクサントは自家製ポーションをパーティメンバーに奮発して商品を宣伝する。
現地での実演作戦は大成功、迷宮探索も中ボスのヒッポグリフを撃破しザックザクの大戦果。
それによりついにアレクサントのポーションが話題を集め、アトリエの経営が軌道に乗る。鑑定士ザマァ。
アレクサントはポーションを追加大量生産。
錬金術のMPを全て使い切り休暇に入る。
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アトリエ休業 兄と妹の緩やかな休暇
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多くは語りません。
アクアトゥス様は我が主人の妹君にして、錬金術の師匠でもございます。
これは断章。兄と妹を中心とした平穏な、落ちも山もない日常の物語にございます。
過分な期待は禁物、どうぞ肩の力を抜いてごゆるりとアクアトゥス様をご堪能下さいませ。
彼女の名はアクアトゥス。
数少ない錬金術師の一人にして、我が主人の妹君にございます。
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2-01 1/2 強襲のアクアトゥス、妹(仮)
穏やかな朝です。
温暖なポロン公国も今日はどうも少し冷え込んで、おかげでベッドがぬくいです。
ああ、布団と己との自我の境界があいまいとなっています。
俺とベッドは今一つに一体化しているのです。
冷たい外気から毛布が俺を守り、俺の体温が毛布を温めているのです。
ふわふわがとろけるように肌を抱きます。
布団以上に最高の伴侶なんて存在しないのではないか。
そう思わせてくれるだけの最高のまどろみが、MP使い切った若い身体にだけ与えられる至福がそこに……。
……うん、長い。
その甘い蜜月もいずれは終わります。
休日であろうともそれは例外ではありませんでした。
……ただまあ、予想外でしたが。
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「ブギィッ?!」
「おはようございます兄様、アトゥが起こしにまいりましたよっ、兄様……兄様ぁ……」
全力でまどろんでいたところゴソゴソと物音が響き、何かと思えば重力がスタンプでアクアトゥスさんがドーンです。
……ええ、あお向けに眠る俺の腰上に、錬金術師のアクアトゥスさんのお尻がのしかかっていました。
こ、こいつ動くぞっ?!
ギシギシとベッドがいかがわしくきしみます。
「……おはよう」
「おはようございます兄様っ、一日千秋の思いで今日という休暇をお待ちしておりました……! 長い間、兄様の前に顔も出せず申し訳ございません!」
男の胸元に両手を預けて、美しい銀髪が布団の上にたれ下がりました。
相変わらず魔女っぽい服装をしてますが、しかし何度会ってもアクアトゥスさんって……。
「ねえ、つか今さらだけど、キャラ変わりすぎじゃねアクアトゥスさん?」
二年近くが経ちますがいまだに慣れないです。
本当にこの子、俺の妹なんでしょうか。
「やだっ、アトゥって呼んで下さい兄様……! あの頃みたいに……!」
「いや覚えてないし……」
あの寡黙でミステリアスな彼女はどこに消えたんでしょう。
甘ったるい声で兄(仮)に媚び、兄妹の関係なのか疑わしいくらいその湿った唇が、吐息が近付きます。
「あっこらっ、暴れちゃダメだってっ、ちょっアクアトゥスさん……っ!」
少女の腰がグラインドして……ワーォ。
あれこれヤバくね? なんかいろんな部分が密着して、ギシギシガタンガタン……。
あっちょっ、こ、これは……急いでどいて差し上げてアクアトゥスさんっ、ひゃーっ?!
「あら、兄様……? 何か……硬いものがお布団の中に……」
これってなんだろうと、さらに困った妹君がグリグリ腰を前後させます。無自覚です。たち悪いですっ。
「ハハハ……それはね……」
「はい兄様、アトゥはこの硬いものが何なのかとても気になります……ドキドキ……」
うーん、若さって怖ろしい。
いやいや、ソレ加速させちゃダメですアクアトゥスさん。
注目が布団の中に集まってるのをいいことに、俺は軽く上半身を起こして枕元に手を伸ばす。
「おお、どうやらポーションの瓶を、股間にはさんで眠っていたようです」
それをベッドの中に仕込んでさらに身を起こし、しれっと瓶を取り出しました。
「クスクス……フフフッ兄様ってばおかしい……♪ どうしてそんなところからポーションが出てくるんですか、クスクス……ああ、おかしいです……♪」
「ご好評でなによりだよ、アクアトゥスさんおはよう」
結果的に彼女の腰を抱くことになって、まあ何とか布団と彼女から抜け出したわけです。
「おはようございます兄様。あ、そうでした、アトゥは兄様に朝ご飯を作りに来たんです。待っていて下さいね」
「ああ、はい、お気になさらず……って聞いてねーし」
寝所などはアトリエの二階に置いています。
アクアさんが長い銀髪を揺らして、パタパタと軽い足取りで1階に下りてゆく。
こっちが状況にほうけていると、カタカタと厨房の方で朝ご飯の準備が始まりました。
「うーん、押し掛け女房……いや妹か。なお悪いしどうなってるのコレだし……」
今日は休業日。
だからまあ別にいい。
いいんだけど……なんだろうこの……ご都合主義感。
しかも当事者からすると流れについてけねーの。
「あの子かわいいし……なんかすげー複雑……」
まあいいや別のことを考えよう。
自分も1階に下りながらこの先のことを考える。
最近の悩みは彼女じゃなくて、店番。
アクアトゥスさんは2年前のあの日以来、忙しいなりにずっとこの調子なんで……慣れてゆくしかないってことで妥協しよう。
「兄様~、お水をくんでおいたのでちゃんと手を洗って下さいね。トイレも行っておかないと身体に毒ですよ」
「ああ、はい、ありがとうございます……」
お前は俺のおかんかー!
それはさておき、やっぱり不定期経営の店じゃまずい。
でも採集に出かけなくては商品の補充もままならない。
そうなると営業日数が……予定が……うーん。
老夫婦が残してくれた使い込まれたテーブルとイス。
シンプルだけど使いやすくて気に入ってる。
それに腰掛けて、店のことについてちょっと考える。
……アクアトゥスさんから思考をそらすためにも。
「~~♪」
いやどうしたものかと。
現在鼻歌熱唱中のアクアトゥスさん。
彼女にもハードスケジュールな学業があるので、とても店は任せられない。
そうなるとやっぱり、他に誰か手伝ってくれそうな人を探すしかないんだけど……。
「出来ました兄様っ、兄様はお疲れでしょうしそこに座っててくれていいですからね、アトゥがすさんだ兄様の朝食に春をもたらしますから……っ!」
「いやソレさりげなくけなしてるよねー?」
そう言われたら手伝わないわけにいかない。
一緒に配膳して温かな朝食を兄妹(仮)で取り囲んだ。




