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29-9 黒き錬金術師の真実

 滞在三日目の夕方に俺たちは一冊の本を見つけました。

 お嬢が掘り当てて興奮気味にここテーブルわきへとそれを持ち込んで来たのです。


「すごいもの見つけたわ! ……鍵かかってるけど」

「なにそれでかっ?!」

「重くなかったですか……?」


 重かったみたいです。

 巨人の本と言われたら信じちゃうほどでかいやつでした。

 痛まないよう四隅を金属で補強した、豪華な装丁の……鍵穴付きの本です。

 ソイツをお嬢がテーブルの足下にドーンッと投げ下ろしました。


「重いわっ!」


 うん、見りゃ態度でわかる。すごい音したし。


「つーかさ、すげー根本的な話いい? ……昨日までこんなのなかったよね? あれば気づくよね? どっから拾ってきたのお嬢……」

「それがそこにあったのよ! ほらあそこ!」


 いや勝手に物動くわけねーし、そんなバカな。

 いきなり怪しくねこの本……。


「おかしいですね……罠の可能性もありますが……」

「うーんそうね……あ、レアさんなら何か知ってるんじゃないかしら」


 彼女に聞けば確かにわかるかもしれない。


「よしじゃあ鍵を外そう。ぷち・マジックアロー」


 バーンッ! とちっちゃいヤツを鍵に繋がる鎖にぶち込みます。

 ところが残念でした、魔法は本の直前でキャンセルされて跡形もなく消えてしまいます。


「ちょっとっ、言ってることとやってることが違うじゃないっ!」

「だって気になるし……」

「魔法はダメみたいですね兄様。おとなしくレアさんを呼ばれてはどうですか?」


 それも良いんだけど……魔法をキャンセルされるともう引っ込みが付かないよ。


「おーいレウラ起きろーっ、ここ、ここ、ここに……レウラファーングッ! ぶち込んでくれ、力の限り!」

「クルル……?」


 レウラのヤツは先ほど散歩から帰ってきました。

 飛竜ってずるいよね。7Fのここにも玄関も階段も通らず翼一つで窓からタダイマーです。マジで優雅。


「よしやれっ!」


 その眠そうなレウラを起こして、レウラの滑空飛行からの全力爪アタックを撃ち込んでもらいました。


「キュ……キュルルル……?」


 すると滞空しながら首を傾げるレウラさんの出来上がり。

 この本には物理も魔法もまるで通用しないらしい……。


「何なのよこの本……。ああレウラ、今の痛くなかった? 手見せてみて」

「兄様、わかっていてやらせましたね……?」


 そんなことないですよ。

 魔法を封じられた時点でそれとなく予想はしてましたけど。

 お嬢がレウラの爪を確認したところ、その顔色からして無傷だったらしいです。


 しかし気になります。

 ここまでして封じなきゃならない内容ってなんだろう。


「開かないんじゃどうにもならないわ。戻してくるからアレクそっち手伝って」

「いや待て待て、探せば鍵が出てくるかもしれない。てか案外、鍵なんて最初から存在しなくて、ヒラケゴマーとかの一言で開いたりしてね」


 てか千夜一夜物語なんてこっちの世界にはないし通じないネタか。

 そもそも……ずっと考えないようにしてきたけど、俺って本当は……この世界でオリジナルに作られただけの、ただのホムンクルスであって、生前の記憶なんて本当は自分のものじゃ……。


 カチリ……。


「あ、鍵開いたし」

「嘘っ?!」

「ヒラケゴマーってなんの魔法ですか兄様……」


 俺のオリジナルの研究所にあったものなんだ、キーワードがこれでも不思議ではない。いややっぱ不思議、なに考えてんだ……。

 さて、とにかく開いたんだ、ヤツはこの本に何を隠したのかな……。


「まあいいじゃないか。じゃあページめくるよ」

「う、うん……」


 俺たちは床にしいた本の前にしゃがみ込んで身を寄せて、でっかいその表紙を押し開きました。

 何が記されているのかな~とおっかなびっくり身構えて、ドキドキとわくわくを抱えながらその本の1ページ目を確認します。


 その本の題名は……。



 【黒き錬金術師の真実】



「あっ兄様っ、やはりこの本おかしいですっ! 何か……っ」

「アレクッ、あんた身体がっ!」


 何だ、何だやっぱ罠か……。

 本より暖かな光があふれ出しました。急激な眠気と共に俺の身体は透けだして、すぐに跡形もなく消えていましたとさ。


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