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29-9 大いなる遺産、あらため多すぎる遺産

「はいその通りです。お館様はあらゆる力に興味を持ちました。錬金術を封じて、武人の真似事をしていた頃もありました」


 レアさんは調子を取り戻して淡々と語ります。

 アインスさんを呪った宿敵とも言える生物、いや機械なのか、その一つの由縁について。


「やがてその果てに――絶対に手を出してはならないものに興味を持ち始めた。……それがそこに封じられている、古なる者と呼ばれる、邪神です。お館様はその一匹を捜し当て、破壊して、ここに持ち帰って来ました」

「こ、これって個人が勝てる相手なのっ?!」


 お嬢の驚きももっともです。

 つーか勝っちゃったのかよ……ってのが俺の感想です。

 古なる者との戦争をするだけで、国が傾くとかキエ様だったかグリムニールさんが言ってなかったけ……。


「ええ、苦労したと聞いています」

「ああそう。ならコイツに呪われたのか? いや、やっぱ無し。それならコイツ破壊すればいい話だし違うな」


 なるほどね。呪いをかける機械ねー……。

 なら古なる者を作った存在がいるわけで、ソイツは何を考えてこんなもの作ったんだか。


「はい。ですがこの個体を撃破したことで認められてしまったのでしょう。お館様こそ、眷族を束ねる者、クイーンにふさわしいと……」

「その場合キングだけどねー」


 バカだなー、墓穴掘ったわけだ。

 自業自得です。他の言葉なんてありません、ただの自滅です。


「それでそれ以降、付け狙われることになりまして……結局はお館様も呪いをその身に受けてしまったのです」

「ふーん……」


 ていうかこのへんの技術は別にいらないなー……。

 パクリようがないっていうか、パクリたくないっていうか。人でも蘇らせようとしてたんだろうか。

 あ、さっきのレアさんのオリジナルがソレか?


「兄様……この階から離れませんか……。でなければ……リィンベルの胃がストレスで貫通すると思われます」

「うぅぅぅぅ……冗談抜きでそうなるかも……。ごめんアレク、私、上に逃げるね……」

「あ、なら俺も行くよ。ここはまともなもん無さそうだ、たちの悪いお化け屋敷っていうか。さあ行こう」


 ところがレアさんが付いてきません。

 案内役が欲しいところなのですが、何だろう? まさかさらなる重大発言が飛び出します?


「私は夕飯の支度をいたします。久しぶりのお館様にお客様、またこうして腕を振るえる日が来るなんて……幸せです……」


 これがメチャメチャ嬉しそうでした。

 微笑みを浮かべて気の早い腕まくりをしだします。


「ありがとうレアさん、喜んでご馳走になるよ。楽しみだ」

「ああっ……あのお館様からそんなお言葉をいただけるなんて! 良かった……今日まで生きてきて、本当に良かった……」


 さらになんかメッチャクチャ感動してる……。

 それで今にもスキップしそうな足取りで彼女が去っていきました。


「クルルルル~~ッ♪」


 夕飯っていう単語を聞きつけたんでしょうね。

 白い翼を羽ばたかせて、ちゃっかり彼女に付いてゆく畜生が一匹。まあいいけどさ……。



 ・



 ソレで一つ上の研究室も軽くスルーして、さらにその上の物置とやらを物色していきました。

 5Fからどこまで続いてるのか知りません。全13層と勝手に踏んでますが……いきなりですが結論の方を……。


「多過ぎる……。ヤツには捨てるという思考回路が存在しなかったのか……」

「そうね、どれがどう使えるのが全然わからないわ……」


 あまり遺産が多過ぎて相続しようがありません。

 人一人死んだってそのガラクタ処理に苦労するんです。ソイツがうん百年生きた引きこもりともなればそれはもう……。

 助けてお宝鑑定団~……。


 あ、悪徳鑑定師のモショポーさん元気かな。

 最近どっかのお国でとっ捕まったって聞いたけど。風の噂で。


「兄様……これなどどうでしょうか」

「宝石素材か。このくらいならレウラの積載力でも……って、まさか、あれ全部宝石か……?」


 一角に目を向けると箱がいくつも並んでいました。

 アクアトゥスさんによりそのいくつかが開かれていまして、一箱一箱それぞれに宝石が種別分けされて山ほど並んでいたのです。


「すごい! お宝の山じゃない!」


 お嬢が瞳を輝かせてソロバンを頭の中ではじき出します。

 まあ思ったより元気なようで何より……。


「気に入ったのちょっと拝借してく程度にね。欲張るとレウラが墜落するよ」

「なら荷馬車を調達してゆっくり運ぶのはどうかしらっ?! うちの商会の方に流せば良い取引をしてくれるはずよっ!」


 ……古なる者の付近にあった宝石を、カーネリアン商会に任せますか。

 商魂たくましい。さすがお嬢、そのナチュラルな商売っ毛がとっても魅力的です。


「リィンベル……アインスのことを忘れていますよ……」

「あ……そうだったわ。ならあたしだけ陸路から帰ろうかしら……」

「マジかよ、ホントたくましいなお嬢……いやそりゃお嬢をほっとけないし無しで行こう」


 しかし勉強にならないというわけでもない。

 完成品を眺めてもそもそも何に使うかわからん、ってアイテムも多い中、忘れっぽいのか注釈メモが加えられてるものもありまして、これが勉強になる。


 お、撃った相手を砂に変える矢じりのレシピ発見。

 ……うん、ヤバ過ぎるので封印。つか現品こんなところに無造作に放置すんな……。


 ・


 そうやって四苦八苦しながら階層を上ってゆくと、7F目にやって来ました。

 そしたら景色が一変して、そこに階層まるごと全てが本と書類で敷き詰められた世界が現れます。


 二人用の小さな机がポツンと置かれてるだけで、あとは本本本紙紙紙しかありません。ただただ壮観でした。


「最初からここを調べれば早かったかもしれませんね、兄様」

「そうね。それにここならあたしでも二人の力になれそう。片っ端から探してみましょ」


 それはもう盗みがいのある場所でした。

 お嬢とアクアトゥスさんがめぼしい物を探っては机に運び、黙々と俺は本と書類を流し読みしていきます。


 ふむふむなるほど……やっぱ多過ぎる。

 何百年生きてたんだこのバカ……ザッと調べるにしたってここだけで何日かかるやら……。いや、ヶ月が付いたりしてな。

 だけど本なんて荷物になるし、ここで出来る限り覚えたりメモったりするしかない。


「ふぅ……どう全部読めた? まだいっぱいあるわよ」

「そんなに早く読めるわけねーし……。悪いけどお嬢も本の確認お願い」


 アインスさんには悪いですけど、これはしばらくここに滞在することになりそうです。


「あたしなんかが読んでも見落としそうだけど……わかったわ。一人でガラクタあさりするのは怖いものここ……」

「そうですね……。あ、ところで兄様、先ほど男を女に変える薬のレシピを見つけました。どうされますか?」


 ……ほほぅ~?

 アクアトゥスくんよくやってくれたぜひ詳しく聞こう。


 それ作ったらなんか面白そうだね!

 アルフレッドに盛るかな?! それともロドニーさんかな! あ、それかマハ公子……え、教頭……?


「……。ああ、うん……どうしよう……」


 またシャレにならない流れになる予感が……。

 ああ、やっぱ見なかったことにしようかな……。



 ・



 ちなみにその晩、美味しい晩餐を平らげて、すっかり忘れてた話をレアさんに向けました。


「あ、レアさん。俺たちしばらくここのお厄介になりたいんだけどいいですかね?」


 するとなんかまずいこと言ったんだろうか、レアさんが突然席を立ち上がって俺の隣まで来るじゃないですか。


「え、なに、無礼がありました? すませ――」


 熱い涙が手の甲に落ちました。

 彼女の抱擁が俺を包み込み、それはすがり付くにも等しい震えたものったのです。


「嬉しい……。はい、どうぞお好きなだけ、ここに滞在されて下さい……。だってここは……お館様の家なのですから……」


 うん十年ここを孤独に管理し続けてきたんです。

 そりゃ泣きますよね……。

 レアさん、裏切ってごめん。


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