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28-4 四番手、ダリルの場合 3/3

「それで、課題を出すってことは親方納得してないのか?」


 課題の詳細を聞いてみました。

 わざわざ俺に頼みに来るってことはそれだけ彼女の手に余る話なのでしょう。

 一体どんな匠の世界を見せてくれるのか、あらためてダリルの実力を量る意味でも気になります。


「いやそこはさ、うん。親方も納得はしてるんだけどしてないっていうか、実力は認めてくれてるんだけど……。ん~~……」


 それでもちょっとは余裕が出てきたらしく、綺麗なその手がイカ焼きを引っつかみました。どうでもいいが鍛冶師の手には見えない。

 それから人の質問を無視して頭を抱えると、黙々とそれを食べ始めます。

 ……かと思ったらすぐに完食していました。


「せっかくの機会だから無茶振りしといて、弟子の悪あがきを楽しもう。みたいな魂胆かも……」

「なにそれ」


「そういう人。体育会系だからうち」

「なんか汗くせー……。あたりそこらじゅうで筋肉ピクピクしてる光景浮かんだ。鍛冶屋って気色悪いな」


 てか出来の良い弟子だけハードル上げるとか、それ格闘技モノに置き換えると不幸な行き違いのテンプレじゃないですか。

 気持ちはわかるけど弟子当人からすれば理不尽です。

 なぜだぁ師匠ぉぉーもっと俺にも厳しくしてくれよぉぉ……と、マゾ気質の兄弟子に逆恨みされるまでがセットになることでしょう。……お話なら。


「うん、ムッキムキの汗ベチャベチョ、ガハハーッそろそろ飯にすっかぁっダリルぅ! ……て感じなのは間違ってないよ。でさ、課題の方なんだけど……」


 なるほど。

 おかげで妄想内のピクピク筋肉ワールドが、オイルまみれの光沢感を持ちましたとさ。

 ダリルのやつ、いつも普通に過酷な肉体労働して生きてるんですねー……まねしたかないけど偉いな。


「ある特別な金属を調達して精錬しろって言われたんだー。……親方も20回中1回きりしか今まで成功したことないって、言ってたヤツ」

「いやおかしい、その時点でおかしい。自分でもろくにできねーことを弟子に要求すんなよ……。つまり自分を越えて見せろってことだろソレ?」


 いくらダリルが早熟だからって、そう易々とその道の老手を越えるなんて……無理くさくないですかねーコレー……。


「まーそういう人だからね~。ダリルちゃんを手放したくないという年寄りのやさしさと厳しさも含まれてるんだな~、ふっふーん♪」

「……そこはまあ何かわかる気がする。だってダリルは明るくて健康的で優秀だからね、逆の立場なら俺だって絶対逃がさない。自分のところで何から何まで独り占めしたくもなる」


 そのダリルの親方ですが、職人街の人間なので当然俺も顔見知りです。

 これが白髪と褐色肌したやたらめったらガタイのでかい爺ちゃんでして、元気で景気がよくてやかましい。さらには博打好きとくるのです。


 だからこの大ざっぱ極まる課題も、まあそこそこは俺も納得だったり。


「だいたい事情は把握したよ。で、結局それってどんな金属なの、名前は?」

「…………え?」


 ところが質問したのに反応が薄い。

 ワンテンポ遅れてこちらの顔をのぞき込み、酒に酔った赤い顔でごめん何も聞いてませんでしたと無言で答える。


「だから、それなんて金属? 今度グリムニールさんに聞いてみよう、あの人便利だし、かわいいロリババァ様に会う口実にもなる。ああっエルフって最高だよなっ」

「はぁ……。さらっと口説いておいてさ、流れるように人をだしにしようとするとかさぁ……。はぁ……私残念だよアレックス」


 いきなり肩に手を置かれました。

 ちょっとわからないな、口説いたっていつ頃の話だダリル?


「アダマン。あるモンスターの身体そのものが材料、その鉄壁の硬度と適度な重さは武器や鎧に超最適。でも融点がバカみたいに高くて、理不尽に硬いから加工だって難しいの」

「ふーん……杖には全然必要ないスペックだな。急に興味薄れてきたわ」


 アダマン=脳筋用素材でファイナルアンサー、金になりそうだが自分が使えないんじゃ楽しみも半減です。


「そんなこと言わないで手伝ってよ! ていうかさっき手伝うって言ったじゃんアレックス、今さらヤダとかダメだからねっ! あ、おっちゃんビール追加。あと焼き豚串……うーん、うんっ4人前ね!」


 まだ食うのかよお前……。

 しかも4人前ってちょっと待て、そりゃ景気の良いお客に串屋の親父もホクホクです。


「お願いだよアレックスぅーっ、助けてよぉーっ! だってこの前結婚してやった仲じゃん偽装だけどーっ」

「またソレか。お前も何かとしっかり覚えてんだな、あの時のこと」


 姿は子供そのものの俺を揺すっていたかと思えば、ダリルの瞳がジト目でこちらを見つめてきました。


「あのさ、それ忘れてたのアレックスだけだと思うよ」


 うん、たぶん正解。


「わかったよ、それじゃ店と金と使えん金属アダマンな」

「ちゃんと超使える金属だよっ! 生み出すのがすご~く難しいだけでっ、もし完成したら軍とか王侯貴族なんかがこぞって買いに来てくれるんだから!」


 わかった、金になる金属アダマンな。

 それなら俺にも現金なやる気があふれてくるというものです。


「よしじゃあ素材調達だな。アダマンってどのモンスターから穫れるんだ?」

「おおっさすがアレックス儲けがからむと話が早いねー! えーとね、私ちゃんと考えてるんだっ! ほらあの、えーと……あのすぺ……すぺたくるん? アレでうちにあるアダマン今度調べてみてよ!」


 お、それは良い考えです。

 ダリルにしてはなかなか冴えている。

 ……売ればそのまま儲かるエーテルが、スペクタクルスの燃料にはかなく消えてゆく事実から目をそらせば。


「そしたらそこから素材の入手元がわかるって計算だよっ、すぺるたくるんってすごいねっ!」

「……名前間違ってるけどな。すぺるたくるんじゃなくて、スペクタクルスな。ス・ペ・ク・タ・ク・ル・ス」


 採算無視すればその方法でどうにかなりそうです。

 ……ただスペクタクルスの名前の方はどうも覚えてもらえそうもない。


「どっちでもいいよっ、はぁぁぁー良かったぁーっ! アレックスに断られたら、親方もう金床で潰して鍛冶場乗っ取ろうかと思っちゃってたしー!」

「ソレどんだけ鍛冶狂いの犯行だよ……」


 ダリルの元気はつらつな笑顔には邪心がなく、鍛冶バカ過ぎて冗談には聞こえない。

 そうか……鍛冶工房ってきっとそうやって、遠慮なんてせず自分の主義主張をぶつけ合う、慎みなんて最初からお断りの世界なんだろう。


 だからこの課題もゴネればハードル下げることだって出来たんじゃないかと思います。

 けれどダリルからすれば、親方を越えて門出を迎えたいという気持ちもあったりとかするんでしょうね。


「ねぇねぇアレックス、ところで私に作って欲しいものとかないかな? ちゃんとお礼もしたいし作ったげるよ」


 ……お礼?

 ああそういえばこの身体に合った杖が必要なんでした。

 今のやつは制御がピーキー過ぎてどうも噛み合いません。


「遠慮しなくていいよー、アレックスがんばってアインスちゃん助けたんだし、今さらだけどそのご褒美もかねちゃうからっ! あ、マインゴーシュとかどうかな、マジシャンでも持ってて損ないよー?」


 けどせっかくなんだからダリルの新しい鍛冶場で生まれた杖が良いな。

 その方が愛着がわいて、冒険がもっと楽しくなるに決まってる。


「うん、そこまで言うならじゃあ……」


 確かにマインゴーシュって防御向けの短剣だけど、今の俺の体格じゃその重さすらバカになりません。

 だから……うん。


「いらない。……ずっと友達でいてくれたらそれでいいよ。俺、まともな友達ってダリルが初めてだったからさ、これからもずっと友達でいたい」

「はっ、はうあぁっっ?!!」


 思ったままのことを素直に述べたらダリルが急に変な声を上げました。

 多少くさかったことと、全くもって俺のキャラじゃないことは認めるけど。なにその悲鳴みたいなやつ?


 これがただでさえ酔ってるのにだらしない笑いを浮かべたり、かと思えば頭を振って何かを思考から振り払おうとしていました。


「アレックス、あのさ……。その身体と顔でそんなこと言われるとさぁ、私……」


 やがて彼女は己の感情を抑え込むのを断念しました。

 今まで俺が一度も見たことのない種類の、にへらぁぁ~っとした微笑みがそこに花咲くのでした。


「ダリルちゃんも母性がくすぐられてちょ~たまんないっていうか……ああ、そっかぁ……。やっぱアレックスは寂しがり屋なんだね、私わかったよアレックスっ!」

「いやなんでそーなる。杖を頼もうと思ったけど、それはダリルの工房が出来てからの方が絶対楽しいと思っただけだし」


 やりにくい、やっぱこの身体やりにくい……ああどいつもこいつも……。

 ああはよ素材集まれっ、子供扱いされるのはもう飽きたしこんなの俺のキャラじゃないしっ。


「うんっだからわかった! 成功の暁には……このダリルちゃんがっ、アレックスくんのっ、ママになってあげるからっ!!」

「……へ、ママ? いや何でだよ? えっ、ちょっ、ちょっおまっっ?!」


 彼女の猪突猛進な包容が少年を情熱的に抱きすくめました。

 やわい肉塊がショタフェイスに押しつけられ、香水はしているがやはり……うーんそこはかとなく汗くさい。それとどうもべたべたする……。


「はむっ♪」


 けれど忘れてはいけないここは屋台のカウンターです。

 ママの手がさも当然なのだと豚串を引っ掴み、その一本丸ごとを大口開けて一気食いしましたとさ。


 違う、それ違うからダリル……。

 それどっちかというとママなんかじゃなくてー、ガテン系カーチャンってやつだからなー?




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