0-11 2/2 それぞれの道、卒業より始まる錬金術師の物語
「なにしてるっスか先輩」
「考えごと。今日からタダ飯とお別れとあって、さすがにセンチメンタルな気分だよ」
「あーーメチャ同感出来るっスソレ。寮のご飯美味かったっスね」
その次にアシュリーが来た。
彼女と自分の性質は結構似てるので、感傷に染まって互いに舐め合おうとは思わない。
そこがたまらなく楽で好ましい。
「先輩にはお世話になったっス。舐めれと言うなら尻だってなんだって舐めれるくらい感謝してるっス」
「うん、例えがスゲェ嫌」
……ただまあ変なやつだ。
変なヤツだけど立派な冒険者になれるだろう。
「先輩があのとき励ましてくれなかったら……自分どうなってたっスかね……。なんか暗い未来しか見えないっス」
「励ました記憶が無いんだが」
「……。言われてみればそんな気もしてきたっスね。そこはまあ思い出補正っス、先輩の愛に救われたことにするっス」
この子は大丈夫だろう。
ツッコミ入れるのもめんどいしスルーして、軽くこれからの予定に思考する。
もうみんなの誘いを断ってしまった。
こうなったら覚悟を決めなきゃならない。
「先輩は冒険者になるんスか?」
「いやがっつり冒険者するつもりはないよ。だって迷宮とか飽きるし、魔境の魔物と戦うのも疲れるし」
「自分はそれがしたいっス! むしろ三度の飯より迷宮にこもりたいっス! もっともっともっと強くなって街と先輩を守りたいっス!」
ただしばらく迷宮のお世話になると思う。
卒業生の中ではアシュリーとの接点が当面は多くなるはずだ。
……じゃあちょっとおだてておこうか。
「じゃあ守って。入場制限の合う迷宮があったら一緒に潜ろう。アシュリーが前を守ってくれるならどこまでも行けそうだよ」
「せ、先輩……っ、先輩っ、嬉しいっス先輩っ! 全力で守るっスっ、むしろ今から冒険者ギルドまで一緒に行くっスかっ?!」
あれ、アシュリーも卒業式の雰囲気に流されてたか。
こんなに喜ばれるなんて予想外。
猫みたいに頭を擦りつけて来ようとしたので、ガシリとつかんで押し戻す。
「用事があるから今度一人で行くよ」
「つれないっス!! そりゃないっスよ先輩っ!!」
「近いうちによろしくアシュリー」
ツバ飛んだし。
自分っ子娘は胸の前で両手を振り回して熱烈抗議した。
「はぁ……何を考えてるのか自分ごときにはわかんないっスけど、出来ることなら協力するっス。次に会うときはギルドで会おうっス」
「……うん、カッコイイなそのセリフ」
「むへへ~、コレずっと言ってみたかったスっ♪ それじゃっ!」
でもまあそこはアシュリー。
爽やか、ベタベタしないのがホント理想的。
いつもの調子に戻ってマイペースに立ち去っていった。
アシュリーと別れた。
でもすぐお世話になる。
……都合の良い入場制限の迷宮さえあれば。
・
軍属のロドニーさんは去年卒業した。
自称妹の錬金術師アクアトゥスも、今頃は授業に戻っている頃だろう。
俺の影響なのか今は冒険科に移ったらしい。
暫定兄?の俺が何か言うならまあ、好きなことしてみれば良いと思います。
時が流れるにつれ校門の人影もまばらとなり、親しい同級生もみんな旅だってしまいました。
一人そこに俺だけが取り残されていたわけです。
誘いを断ったんだから当然の報いです。
それで……考えました。
自分は何がしたいんだろうって。
……思い返しました。
彼らの勧誘に従うのも、きっと楽しく充実した生活をとげられるだろうなと。
でもまだまだ答えが出そうにありません。
思想も正義も執着もない自分には、納得できる道なんて存在しないのかもしれません。
……ということで。
ということでこうしよう。
アカシャの家を立ち去り俺は職人街に向かいました。
目当てのその店の前までやってくると、コンコンとその扉を叩きます。
クローズの看板が下ろされていましたが、店の主人が中にいることはわかってました。
「すみませんアレクサントです」
ずっと目星を付けていました。
この立地、建物、それと老夫婦のあたたかい人柄。
そこは立地が優れているわりに後継者もおらず、不定期経営となって久しい薬屋でした。
あのリィンベル嬢と共に出会った、あの老人が経営しているお店です。
でも幽霊が現れるとか何とかで、閉店にしようにも買い手が見つからないそうです。
「……いらっしゃいアレクサントくん。今日は一体どうしたんだい、卒業式だったんだろう?」
もったいない。
ずっともったいないと思っていました。
このまま買い手が見つからず荒廃するだなんて、あまりにもったいないと。
美しきその赤煉瓦の住居は、職人街のどの店よりも古風な風情があり生気がありました。
それにやっぱり、何となくここでなら上手くやってけそうな気がするんです。
「今卒業してきました。いえそんなことよりお爺さん、お願いがあります」
店内に案内されて俺は机にそれを起きました。
袋詰めされた山ほどの貨幣がジャラリと音を鳴らします。
「この店を下さい。これは父の残した遺産と今日まで稼いだへそくりです。この立地を購入するだけの正当な価格がここにあります。……いえ、要らぬ見栄を張りました、実は少し足りません」
……彼から店を買い取りました。
かねてより老夫婦は引退と転居を望んでいたのです。
でも店が売れないのでここを離れることが出来ませんでした。
だから彼らは喜んで応じてくれて、それどころかアレクサントくんにならこの場所を任せられると、まるで跡継ぎが出来たみたいに笑っていました。
引き渡しの段取りが決まり、後日夫婦が引き払うのを見送ってから、俺はもう一度この赤煉瓦の店に戻ってきました。
そうして自分は薬屋の看板を取り外して、ピカピカの新品のものをかけます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
錬金術師のアトリエ
助っ人冒険者から各種ポーション、爆弾、その他既存パーツの製造承ります
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
うん、錬金術師になろう。
アクアトゥスさんに教わった見よう見まねだけど、悪くない気がする。
今日から錬金術師のアレクサントです。
すごいアイテムを製造して、売って、そのお金でもっとすごいもの作れたら良いなと思ってます。
そうだな。
短期の目標はさておいて、これからの大目標は……。
人造妖精製造といこう。
うん、なんか燃えてきた。




