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27-4 レポート2

6年前某月――


 あの男に似た少年が現れた。

 すっかり消息が途絶えて久しいが、どうやらこの少年を使って何らかの目的を果たそうとしているようだ。

 結局彼は古なる者の呪いに敗北し、己の時を止めてしまったと彼女に聞いたが……同じ顔の少年をここによこしたその理由と意味が非常に気になる。


6年前某月――


 魔王について。

 あの少年に魔王についての談義を持ちかけたが、やはり彼は力に興味を示してはいないようだ、彼とは大きく異なる。その姿勢が争わぬ魔王キアに似通っていて面白い。

 アレクサントに真実を明かしてやりたい衝動を堪え、代わりにここへと記することにする。魔王とは人間あるいはエルフの変異体であり、複数の発生パターンを持っている。


 そのうちの一つが、かつてエルフが崇めし邪神「古なる者」の呪いを克服した個体であると。

 中でもクイーンと呼ばれる個体は、同一けん族を従える力を持つ。これが歴史に残る大魔王という怪物の正体だ。


4年前某月――


 迷宮について。

 アレクサント少年の成長は目覚ましい。さすがはあの男の生んだホムンクルス、その彼が冒険科へと転入することになったようだ。

 迷宮は意志を持っている。必ずや迷宮は彼という不可思議な存在に興味を示すだろう。私は賛成だ、彼が冒険者となれば思わぬ財宝と現象を発掘するやもしれない。


半年前――


 奇跡が起きた。アレクサントとグリムニールがアインスに巨人の血を与えたのだ。

 あの老獪なグリムニールがなぜ、わかっていながら魔王の種となる者、アインスを救おうとしたのかそれが見えないが、いずれこれは争乱を呼ぶことになるだろう。


 古なるものは己の支配を逃れた者を許そうとはしない。それがクイーンであればなおのこと重大だ。そして我々魔王研究者、その中でも悪辣なる者は彼女を使い――いや育てて、新たな魔王に仕立て上げようとするに違いない。


二ヶ月前――


 アレクサントが目覚めた。彼にならここを任せることが出来るだろう。研究者肌ではないが即物的で、そこが好ましくおまけにしたたかでもある。


三日前――


 アレクサントくん、恐らく君はこの日記帳を見つけ出すだろう。君が主の支配から逃れたことは主の友人としては残念であり、それでいて一人の教師として、本当に心より幸いなことだと思っている。

 私は姿を消すことになるが、事態の変化は避けられないだろう。尻拭いを任せる形となり申し訳ないが、健闘を祈っている。


 追伸。お節介だとは思うが忠告しておく。魔王研究者には重々気を付けるように。彼は私ほど甘くなく、欲望に忠実な人間です。



 ・



 日記はそこで終わっていた。

 内容はさておき、ふと書類棚がどうもスカスカで散らばっている点に目が付きました。

 どうやらこれを見つけるより先に、誰かがかなりの資料を持ち去ったのかもしれません。

 日記帳はそれこそ日記帳に過ぎず、侵入者は気にも止めなかったのでしょうか。


「だが……だがこの文面によると学園長は直接の犯人ではなさそうであるな……。ひぇぇ、そう思ったら急に気が抜けてきたのであーる……」


 教頭は一変して安堵しました。

 あと彼が自分の意思で姿を消したのなら少なくとも無事は確定ってことです。


「兄様……」


 ただアクアトゥスさんからすれば思うところがあるのでしょう。

 ちょっと深刻な顔をします。


「そんなシリアスなノリしたって事件は解決しないよ。さてどうしよう、学園長が犯人じゃないなら調べてもしょうがないな……」


 するとアクアトゥスさんにしては珍しく俺の返答に不機嫌を示しました。

 またよくわからない責任感じてるんでしょうか……?

 まあ俺たちがアインスさんを救ったことで、なんかどえらいことが起きそうって点は慎重に受け止めにゃならんのですが。


「そういうことですな! そうとわかったらこのことをただちにロドニーくんに報告していただこう。……あー、なんだ、プライベートな部分は秘匿しても私は一向に構わんぞ!!」

「ありがとうございます教頭、キレデレとか新しいですね、いえ何でもありません」


 ところでその秘密の研究室を出ようとしたところでした。


「おおこれはこれはなんてぇこったぁ……ハハハッ、秘密の部屋とは学園長先生も粋だねぇ~」

「むっ……おお、フェルドラムズくんではないか」


 あの客員教師フェルドラムズ氏がいきなり現れて研究室に入ろうとします。


「待ったフェルドラムズさん」

「おおっ、何ですかいアレクサント先生? 通しちゃくれませんかねぇ~?」


 つい何となくですけど彼の進路を阻みたくなりました。

 あの日記の最後に魔王研究者に気を付けろってありましたし、そうなるとこの人怪しいですし。

 イアン学園長を信じるならばだけどね。


「それはルール違反ですよ先生、ここは貴方のライバル研究者にあたる人の隠し部屋。貴方がここを家捜しするのは、研究の盗用を疑われることになります」

「ハハハッ、俺っちならば力になれると思ったんですがねぇ……ええ確かにうかつでしたよ。……で、何かわかったり、したんですかい?」


 まるで俺たちを疑うように彼は問いかけてきます。

 ……お前を疑えと書き置きされていたとは言えませんねー。


「いいえ怪奇に直接関係があるようなことは何も。ですがまあ、学園長の失踪と怪異は何かしらの因果関係がありそうです。やはりタイミングが重なり過ぎています」

「へぇぇ~~、あのイアン学園長がねぇ~……そりゃお疲れさまでした、何か相談があればいつでも俺っちを頼って下さいよ」


 どうしてこの人、このタイミングで現れたんだろう。

 何か隠したいことでもあるんだろうか。

 どちらにしろ中には通せない、俺たちは彼を追い出しギミックを戻して、見張りを学園長室に立てるようロドニーさんに願うのでした。


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