24-4 ショタ of the アレク 雌獣の帰還 2/2
「諦めたまえ……」
「えぇぇぇーっ?!」
「たとえ僕らが束になったところで、その方にはとても勝てないだろう……。公都より遠ざけた殿下が正しかったのだ……もうそれは、僕たちの力ではどうにもならない……。アレックスくん、どうしても助かりたいのなら彼女の理性に訴えるんだ、今はもうそれしかない……」
目の前の現実が理解できません、軍人さんが即白旗上げる相手ってどんだけですか。
もしかしてロドニーさんってそんなに強くないの? 知将タイプ? いやそんなこと考える暇なんてなかった、唇が迫ってくるぅっ! やだーっ、手痺れてきたよぉっ!
「ああっ、妄想の中のアレッキュンよりずっと、ずっとかわいいっ! やっぱり実物いいわぁ……ハァハァハァァァッ♪ でもっでもそうねっ、先生ちょっとだけ焦っちゃったみたい……」
ああ危なかったです。
あと一歩で唇からいろんなエキスを吸い取られるところでした。
マナ先生の力が一気に弱まります、この世が滅びようともけして離そうとはしてくれませんでしたが。
「うっううっ……怖かった……良かった、わかってくれたんですね……」
「じゃあ奥の部屋いきましょ♪」
心の底から指一本の先まで僕は凍り付きました。
え、これだけ綺麗なお姉さんに言われたら嬉しい? じゃあ代わって、今すぐ僕と代わって!
「……オク? オクノヘヤ? ボク、コトバ、ワカラナイ。アー、ワカタ、奥の平野、ボウケン、イクネ?」
個室はダメです。絶っ対っダメです。
危険が跳ね上がるだけで僕になんッッの利益もありません。
世間様に見せるにははばかられるような、背徳の限りを尽くされるに決まっています! 僕にだってそのくらい判るよ!
「うん、奥の部屋でね♪ そこで裸になってくれるだけで先生いいからっ♪」
「ハダカ? オクノヘヤ、ハダカ? なっななななっ、僕に何するつもりなんですかぁぁーっっ?!」
待って、何で誰も止めてくれないのっ?!
力こそ全てなのこの国っ?!
仮にも治安の守護者じゃんロドニーさんっ?! 公子先輩だって次期大公様でしょ?! た、助けてよぉっ?!!
「それはもちろん……ウフフフフフッ♪ もちろん、模写よっ!!」
「……え、模写??」
張り付けにされて鞭打たれるとか、尻にヘビ入れられるとか、大便塗りたくられるとか、最悪のさらに上をいく最悪のパターンを想定していました。
そうしたら意外に文化的な言葉が返ってきます。模写ですって。
「おおっ、思いの外に理性を保っているぞ! 仮にもやはり教師だったかっ、良かったなアレックスくんっ!」
「いや最初にそれを選ぶところが変態的というか、清楚に見えてちょ~歪んでるっていうか、空想に生きてるわぁ~っていうか、さすがっていうかさぁ……。まあいいんじゃないソレで……」
「最悪の事態は避けられたみたいですね……。はぁ、良かったぁ……」
他のみんなもものすごい可能性を想像してたみたいです。無理もありません、聖職者の欲望が暴走したって時点でメチャメチャ歪んでるに決まってますから。
ともかくみんなホッと息をついて、僕の模写執行を見守る構えでした。
うーん模写かぁ……まあ模写くらいなら……まぁ……。恥ずかしいけど我慢すればいずれ終わるよね……。
「そうよ模写なの。形あるものはいずれ滅びるのです、だから貴重なその姿を、あらゆるアングルからっ! 女神に代わり現世に保存する必要があるのッッ!! ああっ時間が無限にあるなら彫刻というメモリアルを刻みたいくらいよっ!! それでそれをアカシャの家の聖堂に置くのっ、ああっ女神もお喜びになるわッッ、参拝者も激増間違いなしよッッ!!」
……やっぱこの人怖い、ヤバい、女神ってそういう神様じゃないと思う。
あと学園に置くのだけは止めて。
「あ、ソレなら何となく私わかる。そういうの得意だからそんときは私も手伝おっか?」
「ってダリルさんっ、変なタイミングで共感しないでよっ! どっちにしろそれ、僕が超恥ずかしい目に遭うってことじゃないですかーっ!」
彫刻なんて刻まれたら大変です。
常時フルオープンで裸体をさらしてるようなものです。
子供の僕からしたら裸になるだけで恥ずかしいのに、そんなの死にます!! わぁぃ、おホモだちがドンドン増えそう!!
「ありがとうダリルちゃ~んっ♪ さっ、さあ脱いでアレッキュンッ♪ 大丈夫、脱ぐのはここでいいから♪」
「あの、大丈夫の意味が理解しかねるんですけど……? 何でこんなところで脱がなきゃいけないんですかぁっ!!」
変ですよこの人っ?!
本当にこれ教師なんですかっ?! こ、怖いっ純粋に怖いっ! むき出しの欲望が怖いっ!
「マナ女史は他のことに関してはかなりの常識人、慈しみに満ちたシスターであるのだが……。君のことになると狂うのが難だな」
「はい、先生はやさしいです。僕もすっかりお世話になってますし、あまり悪くは言えません。――えっっ? わっうわっうわあああーっっ?!!」
ところがどっこい、それも一瞬に過ぎない出来事なのでした。
彼女の瞳がマハ公子と重なると、その雌獣が非人間的に飛んだのです。
自らに筋力増幅の魔法をかけたようで、小脇に僕をかかえて、あとついでに……。
なんかマハ公子先輩も抱えて店の奥に疾走しました。
「ひっひゃぁぁーっ?!」
「えっえっ何で僕までっ、わぁぁーっ?!」
扉をぶち開けて居間を抜け、2階の部屋に飛び込む。
それだけの距離と登り階段のはずなのに、まさにそれは一瞬のことです。
まるでそれは人を消しさらうという、伝説の妖魔のごとき早業でした。
「はっ?! ま、まちたまえ女史っ!! なぜ殿下まで連れてゆくっ、ダメだマナ女史っ、殿下はっ、殿下だけはまずいっ!!」
「先生っソレ不敬罪だってっ、それヤバいシャレになんないよぉっ!!?」
助けて、イヤーっ!
とかろくすっぽ叫ぶことすら許されず、一瞬で僕らは僕の部屋、僕のベッドに投げ込まれていました。
乱暴な衝撃からバランスを取り返している間に、ロドニーさんたちも追いついて来て鍵のかかった扉を連打してくれます。
ああ良かった、なんでか僕のベッドってキングサイズだからマハ先輩と一緒でもぜんぜん狭くありません。……って、良いわけあるかーっ!
「さあ脱いでアレッキュンッ♪ 殿下も遠慮しなくていいのよ、お兄さんなんだから先に脱いであげてね♪ 貴方もいずれどうにかして……形に残そうとは思っていたの~♪」
まさにそれは雌獣、僕らは雌ライオンに捕まったかわいそうな豚の子供あたりでした。
「あの、気を確かに持って下さい先生。そりゃぁ……僕だってアレクサントと先生と一緒に描かれるなら……あはっ♪ わ、悪い気もしないですけど……♪」
「ガガガガーンッ?! えーっちょっなぜ脱ぐのっ、なんであっさり素直に脱ぎ始めるのマハ先輩っっ?!」
ごめん、ちょっと違った。
殿下の様子がおかしいです。
ああそんなっ、下までそんな大胆にお脱ぎになられるなんてっ、やだっ僕のベッドですよこれぇぇーっ?!
お、男の生尻が……ぼ、僕のベッドを……うっうぅぅ、気持ち悪い……。
「フフフッ良かった、これで不敬は成立しないわ……。大丈夫よアレッキュンッ、ただ形に残す、だけ、形に残す、だけ、だぁかぁらぁぁ……ハァハァハァハァハァハァハァハァハァァァッ、早く早く早く早く早っくぅぅぅ♪」
「よだれ飛んでますっ、めちゃめちゃ飛んでますよぉっ! うわっ、ま、マハ先輩っ?!」
もちろん悪夢はそれだけで終わるはずがありませんでした。
殿下が……殿下がいきなり僕のローブに手をかけるんです……。
「さ、アレクサント先生も脱ぎましょうよ……。もう、しょうがないじゃないですか……不可抗力です……しょうがないんですよ……」
「やっやだっ、マハ先輩までなんでっ、ひっひぎゃぁぁーっっ?!」
めちゃくちゃ嬉しそうにしか見えないです……。
僕はマナ・マハコンビに衣服を無理矢理引ったくられ、彼らの欲望を満たすデッサン人形と化すのでした……。
くっ……おのれ、人が猫かぶってるのも知らないで好き勝手しやがって……!
覚えてろっ覚えろっ、これだって全部、お前たちを油断させるためなんだからなぁぁーっっ!!
・
「次のポーズはどうしましょうかマナ先生」
「うーんそうねぇ~……。うんっじゃあそろそろアレッキュンと抱き合ってもらおうかなっ!」
抱き合うそうです……。
公子殿下もついに来たかとどこか嬉し恥ずかしそうでした……。
「わかりましたっ! すみませんアレクサント先生、これも彼女を落ち着かせるためですから……♪ んっ……」
男のちょっと汗ばんだ肌がピタッ……。
そこには女性のふくよかさとか、おっぱいとかいった膨らみは存在しません……。
気色悪いような……でも女の子にしか見えない公子先輩だから許せ――逆に許せない気持ち悪いよぉっ!!
「ふむ。口を挟むようですまない。そこはもう少し脚を開いて、もっとくっつけた方が、扇状的ではあるが美しいかもしれん」
「うふふっ、あら名案。さすがロドニーくんねー♪」
「お疲れさま~、お茶作って来たよ~」
ちなみに施錠はいつの間にか解かれていました。
人の部屋にイスをいくつも持ち込み、優雅にも二人はそこでくつろいでいたのです……。
眼鏡を曇らせながらもロドニーさんは熱いお茶をすすり、余計としか言いようのない迷惑なアドバイスをしてくれました。つか今日は暖かいはずなのに、なぜこの人だけホットなんでしょうか……。
「もう……止めましょうよぉ……。もういいでしょ……もう……」
「そうは言うが本人が満足するまでさせてやるしかあるまい。ことを大事にすればここに居る皆にるいが及ぶからな。……殿下を巻き込んだ女史の勝利だよ」
二人は僕の救助を諦めました。
公子殿下が裏切り……じゃなくて折れたからです。
これがマハ先輩の本心だとは信じたくありません。だってこれじゃホモ――そんなはずないんです、やさしいマハ先輩がそんなわけない……!!
とはいえ確かにこれがギリギリの妥協点、だったのかもしれない……。いえ断言する自信がないです、もう何が正しいのか常識すらもあやふやです……。
「そうそう今日のことはこの4人の胸に秘めとくのが一番平和的、むしろ穏やかな方向で済んで良かったじゃない。あ、股間のバラずれてるずれてる」
「み、見ないで下さいよぉぉっ?!」
穏やかって言葉の使い方おかしくないでしょうか。いいえぜんぜん違いますよね?
「くっつくって、こうでしょうか?」
うぎゃっ、マハ先輩だめっ、なんかっうわっ、やわらかいものが当たって……ひぃぃーっ!!
何でこうなったんだ……。
こいつらを油断させて目的の足がかりにするはずが、まさか、こ、こんなはず、こんなはずでは……グフハッッ……。
「あ、アレックスが白目むいた」
「さすがにかわいそうだ、もうその辺にしてやったらどうだろう。彼の言葉を繰り返すようだが、もういいだろう?」
ショックのあまり意識が薄れゆく……。
そこでやっとロドニーさんが助け船を出してくれた。法の番人が言うだけでちょっとした強制力があるらしい。
これだけ模写しまくった今ならマナ先生もうなづいてくれるに違いない……。ごめん9割が希望的観測だけど。
「うーんそうねぇ~……。あ、じゃあこの顔模写してからでいい? 白目むいちゃってもぅ~ハードコア~♪ 先生ドキドキしちゃぅ……♪」
「いやそれマニアック過ぎるでしょ……ダリルちゃんどん引き……」
全てはこいつらを油断させるため……。
油断させる、ため……油断させ……油断……油断、した……グフッ……!
名残惜しむように、公子の特別にやわらかな感触がさらに僕へと密着すると、意識もまた現実への未練もさらさらあるわけもなく完全に薄れ消え去ってゆくのだった。




