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24-3-1 祝日の過ごし方、ドロスの場合 1/2

 ふと数えてみれば、アトリエのお世話になってかれこれもう一月近くになっていました。

 生活もかなり落ち着きまして、周囲ともすっかり馴染むことが出来ています。

 もちろん例外もいくつかありますが、だいたいの人は僕に気を許してくれているのです。


「ほらドロポン、水だよ~」


 さて今日は祝日にあたりました。

 やることもないので僕はアトリエの店番を引き受けて、他のみんなには外出してもらっています。

 え? いやだなぁ、たくらみなんて何もないですよ。暇だったからです。本当にただの気まぐれなんです。


 だってアシュリーさんはこんな日も迷宮攻略で、ウルカと姉さんまでそれについて行ってしまいましたから。

 リィンベルさんはそもそも一昨日から姿がありません。

 なので残るアインスさんも僕が追い出しました。


 だって彼女ってば、ここに置いておくと休みなのに家事とか仕事を始めちゃうんです。

 真面目で無趣味ってだけで人生確実に損してると思います。

 ……追い出したら追い出したで、グリムニールの屋敷で錬金術のコツを教わっていそうだけど。


「ははは、面白いなぁコイツ……」


 それはそうとドロポンのお世話です。

 じょうろで水をかけてやると、彼らは嬉しそうにゆらゆらと踊りだしました。

 ただの土なら液状の泥水になるんでしょうけど、不思議といくらかけても形が崩れません。何だか面白いです。


「オヤツ食べるよね」


 水はこんなものでいいでしょう。

 次はクズ宝石を取り出しました。混合物が多かったり小粒すぎて売り物にならないやつです。

 ドロポンたちはみんな仲良しですから、庭のやつらまで店内に飛び入ってきて全部のドロポンが一塊に変わりました。


 数が数なのでこうして集まると、僕のお腹くらいまでその背丈が伸びます。

 でも変身するともっともっと大きくなるそうです。


「はい、アシュリーさんに感謝するんだよ」


 どこ投げても結果は同じだけど、一応ドロポンの口めがけて宝石を何個か投げ込みました。

 跡形もなくドロポンの中に石が飲み込まれていきます。ゆらゆら揺れちゃってすごく嬉しそう。


「レウラも食べるよね、ほらオヤツだよ」


 ちゃんと子飛竜レウラの分まで用意してあります。

 ジャーキーを追って彼にチラつかせました。


「…………」


 さっきから僕とドロポンやり取りを棚の上から眺めてたはずなのに、無反応どころかそっぽを向かれてしまいました。

 ……つまりいらないそうです。


 そうなんです、もう一月近いのにレウラはどうしてか僕にだけ懐きません。

 他の家族には甘えるのに、僕の手からは絶対に餌を食べないし、近くに寄ろうともしません。

 もし僕から近付けば邪険に距離を取るくらいでした。


「毒なんて入れてないよ、食べなよ」

「……ギャゥッッ!」


 一声だけ敵対的に鋭く鳴くと、レウラはまた僕に背を向けて無視を始めます。


「……じゃあ好きにしなよ。でも他の人たち、きっと夕方まで帰ってこないからね」

「……」


 なら自分で餌を取りに行く、そう言わんばかりに子竜は店の窓辺に止まりました。


「ギェ」


 開けろって言ってます。

 西側の窓ならもう全開にしてあるのに、わざわざレウラは東側を選んでいました。

 これってつまり、もう朝日も入らないのでこっちも開けておけって指図でしょうか。


「どうしてそんなに僕のことを嫌うの? 後から来たから格下だと思ってる? それとも……僕が君の主人に似てるから……?」


 ふてぶてしいお節介もあったものです。

 そりゃ確かに店は明るい方がいいですけど……。

 とはいえしつこいのでレウラの前の窓だけでも先に開けてやりました。


「キェェッ!」


 僕が西側の窓全てを解放するのを確認すると、白い竜はお礼すら言わずに外へ飛び出していってしまいました。

 僕、アイツに何かした? 僕をここまで運んで来たのってアイツなんでしょ?

 それにそもそもあの小柄な竜の体で、どうやって僕をここに連れてきたの?


「ひゃぅっ?! うわ、ビックリしたぁ……何だぁドロポンかぁ」


 窓際でぼんやりしていたら、ドロポンが僕の足下にすり寄って来ていました。

 ドロポンはやさしいです。それに比べてレウラは、何であんなに敵対的なんだろう。


「あれ……?」


 レウラの消えた空を見上げると、向こう側の店の屋根に白い竜の姿を見つけました。

 てっきり餌を探しに行ったのかと思ったら、なんか遠くからこっちを監視しています。


「……ふん」


 疑うなんてひどい竜です。

 でも残念だったねレウラ、他の連中はすっかり僕に気を許しているよ。

 喋れない君なんか全然怖くないよ。


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