23-5-2 仕様段階でクソゲーが確定するディスティニー 2/2
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……どれくらい眠っていたんでしょうか。
目覚めこそさっぱりとしていたものの、これは明らかに肉体の限界を超えてしまっていました。
もー腰痛い、肩痛い、足がマジで棒、つか全部痛いよっっ。
どうも戦いの興奮が麻酔となってくれていたようで、いざそれがこうして切れてしまうと一気に辛いツケがドーンと押し寄せ……、はいごらんの有様です。ひとえに痛い苦しいです。
でも大丈夫ご安心下さい、この状況もちゃんと想定してありますから。
すっかり軽くなった道具袋から黄色い小瓶を取り出します。ちなみにあのクソ重いカバンはちょっと前に捨てちゃいました。
「んっんぐっんぐっ……」
で、黄色いソイツをグビッと!
名前はスタミナポーションあたりが月並みでわかりやすいでしょうか。もっとシャレてもいいかもですが、あんまりネーミングセンスに自信とか無い。
薬の効果は疲労回復、あと空腹とかにもぼちぼち効くみたいです。
「ぷは……うぇっぬるいっ、すっげまずっ……おげぇぇっ」
そういう薬じゃないので速攻性はありません。売り物じゃないので清涼感も考慮しませんでした。
思い込み効果とかはあるかもしれないですが、なにせ作成者が俺自身なので薬に夢を持つ余地がないのです。
それでもしばらくグッタリと放心していると、思い出した頃には体がまた動くようになっていました。
ただ今度はホムンクルスどもが待ち疲れて熟睡です。
……こっちを気づかっての寝たふりなのかもしれませんが。
いえ、そういったさりげないやさしさとかレウラからは連想出来ないです。こいつに限ってはきっと普通に寝てます。
「……あー、こりゃー。暇だな」
待ってもらった身ですからむげに起こすわけにもいきません。しょうがないので物資の確認をしてみました。
現在地下56層、フロアボス撃破済み。65層目は巨人族のフロアなので、実質は57層から64層まで。えーと数えて……あと8層分か。
巨人はもう得意の口車でどうにかすることにしましょう。
そうすることにして……ポーションが残り11、もう残り少ない備蓄です。
爆弾が25個、やっぱギリギリです。
もはや魔物は桁違いの戦闘力で、雑魚ですらドロポンを後方に吹き飛ばし、レウラをもほいほい撃ち落とす怪物ぞろいです。
「むぅ、こりゃぁ……うーん……」
インフレの前では些細な努力など赤子の寝返りほどの価値すらありません。
物資切れ=壊滅っていう簡単なルールです。
ここから先は本当に命がけの進軍になるでしょう。
一度交戦に入れば逃げるなんて出来そうもありませんから。それこそホムンクルスたちを犠牲にでもしない限り。
……ならここが引き際? ミスれば本当に死ぬかも?
レウラもドロポンも失えばアインスさんに顔向け出来ません。始末に負えないほど気に病むに決まっています。
「まあでも動けるしー」
薬ですっかり身体も戻ったので立ち上がりました。
「ッ……?!」
いえ勘違いでした。
鋭い痛みが頭頂部に走り、俺としたことが膝を突いていました。おかしいな……。
「あれ……やっぱ、ダメージ食らい過ぎた……? いやいや、まだ行ける……まだまだこの程度で俺が退くなんて……ここまで来てありえないじゃん……」
俺は公都の錬金術師アレクサントです。
グリムニールさんが黒と呼ぶ、万人が認める往生際の悪~いわがまま男です。
ここまで順風満帆のパーフェクトゲームを続けてきた俺が、まさかの苦戦……?
いいやまだ行ける。絶対行ける。根拠は無し、でも行けるっ。
だって巨人族の力、それさえあれば俺は……。
「ん、んん……?」
アインスさんを救うためにここまで来たんじゃないか。
俺なに急に変なこと考えて……あれ……?
おかしいな、何だろう、何か大事なこと思い出せそう。
ここにきて急に頭の中がサッパリしてきた。
おかげで今までずっと霞がかってた色んなものが……見えてきて……。
「……。そういえば……なんだったかな……。ん……昔、誰かが――巨人の話をしていた気がする……」
誰だっけ、そもそも昔っていつだっけ。せっかく頭がハッキリしてるのになぜかそこだけ思い出せない。
あ……。ああそうだ、あの人は他にも俺にわからない話をしてくれた。
けどダメだ、今すぐ言葉にしないと忘れてしまいそうだ。
「計画のマスターキーは……巨人族……。全ての段取りをふっ飛ばして……一気に研究を終わらせる鍵……」
そうだ……それを見つけだしたら……俺は……。
……あれ、どうするんだっけ……?
そこだけわかんないな……いや、そもそも、なに考えてんだ俺……?
ははは、疲れ過ぎて頭おかしくなったか?
笑える。わけわからん。失われた記憶とかなにそれ、完全にこれ厨二病だし。
「よし」
キエのローブは驚くほどに丈夫だ。
ただし中まで無事とは限らない。
土ぼこりと血で汚れている以外はまるで新品のカッコイイそれをかぶり直した。
それと今からおかしなことを言うが、どうも動機不明の気力が満ちている。おかげでもう迷わずに済む、結果オーライだ。
「起きろ、行くぞレウラ、ドロポン。よくわからんがやっぱ退くの止めだ。マジでよくわからんが……絶対に……。絶対に巨人に会わなきゃいけない気がしてきた。さあいくぞ!」
ここから先は本気の本気だ。
戦いの興奮か、久々に俺の頭はブチ切れて、疲労も恐怖も後先の計画すらも全部、全部まとめて吹き飛んでた。
アインスを救うって目的意識すらもひどく希薄だ。
巨人に会ってみたいって好奇心も、一人の錬金術師としての意地も探求心も仲間たちの想いすら今は何もかもどうでもいい。
ただひとえに巨人の力が欲しい。
出所のわからないその想いは疑うことすら俺を許さない。
巨人の力が必要だ。
寝たフリはもういい、早く起きろホムンクルスども。




