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23-5-1 仕様段階でクソゲーが確定するディスティニー 1/2

「うっがっっ……」


 地下51層にてダリルの手甲がお亡くなりになりました。

 本人が使い捨てと言う割に意外と頑丈で、これまでいくどとなく負傷から俺を守ってくれたものでした。

 それがジャイアントオーガ(エリアボス)のメイスを受け流したものの、ついに限界が来てはかなくも木っ端みじんに砕けちゃいます。


 封印区画に入ってからずっと違和感があったのですが、やっぱりこれおかしいです。

 間違いなく敵が強くなっています、それも計算をゆうに越えるとんでもないインフレ率で。


 それはさておき実はこれで戦闘の真っ最中なのです。

 何とかオーガのメイスこそ防ぎましたが、ヤツのもう片手がレウラに向かって手斧をビュン!とか投げつけます。

 これが巨体に似合わぬとんでもないコントロールでして、旋回中のレウラにあわや直撃しそうになりました。


 飛竜はとっさの緊急回避で致命傷こそ避けたものの、鱗を浅く斬り裂かれ被弾。

 墜落して、ぐるぐるクラッシュして、どこぞの壁に叩きつけられてしまうのでした。

 慌ててヤツにポーションを投げつけましたが、まあ大丈夫、あいつなら生きてるでしょう。だってあれでも竜だし。うん一応。


 でまあのんきなノリで悪いんですけどね、そのジャイアントオーガと俺、今もバッチリ肉薄しています。

 こういうバカ筋肉にはドロポンの超物理耐性が有効です。でも残念、既にコイツのバカ力ではるか後方にノックバックさせられてました。

 ドロポンに機動力とか敏捷性なんてありません。


 あ~つまりですね、今俺ちょっぴりピンチです。

 そうなるとこの至近距離で、自爆覚悟で、爆弾発動させちゃうのが正解ってことなんですよ。いざっ道連れ玉砕っ!!


「ぶぎゃぁっっ?!!」


 フレアジェムにしました。

 ジェットコースターどころじゃないスリリングな加速で、大爆発と業炎が俺を吹き飛ばします。

 たちまち硬い石壁に叩き付けられ、全身打撲コースに一直線です。

 炎はオーガを焼き、ヤツをまたたく間に赤い宝石へと変えてしまうのでした。


「うっ……うが……はっ、はぁっ、はぁっ……。う、ううっ、うぐぅぅっ……!」


 キエ様のエルヴンローブがなければヤバかったです。

 そんくらい痛い、超死ぬ、息できねーし、しばらく立てそうもない、です……。


「……ぁ」


 てか、ヤバ……今ちょっと意識飛んだし……。今のうちに処置とか……しとかないと……。


 流血はありませんが打撲のフルコースです。

 道具袋からポーションドロップを取り出し、ドロポンとレウラに一つずつ投げます。

 俺も自分の分を口に運び、舐めてる余裕なんてないのでむさぼるように噛み砕きました。

 一つじゃ足りない、もう二つ……さらにもう二つガリガリと飴をむさぼってザラザラの塊を一思いに飲み込みます。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁっ……。っ……ふぅぅ……」


 そうするとジワジワとポーションが効いていきます。

 やっと苦しい呼吸も元に戻り、ぶっ倒れたままなりに落ち着くことが出来ました。


「あーー……死ぬかと。おいお前ら、生きてるかー?」


 ドロポンはとにかくタフで無敵です。

 俺のそばに寄って来て、心配そうにしゃがみ込んで人の顔を見下ろします。

 レウラの方は……あ、こいつもすげー生命力。姿を探したらちょうどジャイアントオーガの赤い宝石をくわえていて、ペリカンみたいに無理やり丸飲みです。


「ははは……。くたばるのは俺が一番先になりそうだ……。しかしこうなるとアクアトゥスさんに感謝しないとな」


 予定と違うけどここからは爆弾2個投げでいこう。

 じゃないとポーションが先に尽きます。どんな状況でも火力こそパワーなのです。

 体力が戻るなり身を起こし、俺は再び覚悟を決めました。

 この先も計算外にぶっ飛んだ世界が広がっていようとも、逃げる気なんてさらさらありません。



 ・



 単なる爆弾ジェムの二個投げ。あまりに安直なやり方ですが、それでフロアボスの方はどうにかなりました。

 ただここで雑魚にまでジェム投げ始めるとストックが足りなくなります。

 いえもう雑魚だなんて呼べない怪物続々ランドなんですけどね。

 でも帰らないよ。ヒィヒィそいつらを片付けながらさらに下層へ、下層へと俺たちは進んでいきます。


 あ、今さらですけどあえて言いますね。

 逃げられない仕様ってクソゲーの証そのものです。

 まさかそのクソ仕様を我が身で味わうことになろうとは思いませんでした。


 そのストレス、テンポの悪さ、泥仕合、俺たち三名満場一致でクソゲーオブザラビリンスの称号をこの8号迷宮に進呈しましょう。

 ふざけんなっ! ってくらい果てしないです。



 ・



 あー……やっぱおかしい、絶っ対っおかしい……。

 これ、途中で倍率変わってるわ、たぶん封印区画に入ったあたりが超臭い。


 難易度がまた跳ね上がりました。

 でもあと少し、あと少しの辛抱なのです。

 ついに残り階層が一桁代に入り、現在56/65層といったところに俺たちはいました。


 思えばこの8号迷宮に入ってどれくらいの時間が流れたことでしょうか。

 ざっと概算してみただけでも、これでもう半日は潜りっぱなしのはずです。


「キェェェ……」

「なんだよお前……。つかそんな声出せるんだな、へ~」


 下り階段前で壁を背に休んでいると、すぐそばにいたレウラがか細く弱々しい声で鳴きだしました。

 ヤツはドラゴン様なので、すこぶる健康です。いやさすがに少しだけ疲れてはいるみたいですが。


「ん、んん~? まさかお前、俺を心配してるのか?」

「キェェ……ッ」

「…………(プルプル)」


 レウラのくせに柄でもない忠犬っぷりです。

 そこにドロポンたちまでやって来て俺を取り囲みだすのでした。

 まあ休息モードに入っているのか、どのドロポンもだらしなくぺたんこに崩れかかってましたが。

 ……こっちはそれなりにお疲れなのかもしれません。


「大げさ大げさ。ただポーションに頼り過ぎて……はぁぁぁ……。息切れ、しちゃってる、だけだしー……」

「キェェッ、キェェーッ……」


 一見血まみれに見えるのも悪いんでしょう。

 でも傷口はありません、ドロポンの泥には素晴らしい止血効果がありますから。

 だからそんなに血は失っていないんです。


「う……こら、くっつくなっ……ぐぉっ……毛皮ならともかくっ鱗くっつけられても、嬉しくないってっ……」


 だけど存在しない傷口がなんか痛むんですよ。

 あれですねこれ、確か幻肢痛ってやつだ。おーなんかカッコイイです、すごく厨二ロマンにあふれてますよ今の俺。

 う、うぇっ……余裕こいてたら急な吐き気が……うぷっ、おぇぇ……。


「はぁ、はぁ……おぇっ……。悪い、ちょろっと、寝るわ……。だってほら、今頃もう、夕方だろうし……なら良い昼寝時じゃん……?」


 急に限界が来たっぽいです。

 クラクラするし、力も入らんし、もうなんだこりゃーです。


「クルル……キェェェ……」

「(うにょうにょ……)」


 いくつもの瞳が俺を見つめていましたが、やっぱ無理です、眠いです。安心させてやる余裕すらありません。


「ってことで……だいじょうぶ、おやすみ……」


 甘い眠気が苦しいもの全てを遠ざけて、俺は情けないほど無責任で無防備な眠りに落ちてゆくのでした。


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