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23-4 人類未到の地下世界、ドロポン最強伝説

 ここから先が本番です。

 ってこのセリフさっきレウラたちに言いましたね。

 肩すかしの鏡面世界から26層目に下り進むと、思わず安堵の声を上げてしまうほどに様変わりしていました。


 だってあのままの鏡の迷宮じゃ何がなんだか……。

 あまりに長く続けばいずれ気がおかしくなって、自分と鏡のどちらが本物かわからなくなってしまいます。


「珍しいなこういうの……。つかおいレウラ、いい加減ドロポンからどいてさしあげなさい。お前重いっての」


 まれにこういった珍しい世界に繋がることがあるそうです。

 目の前に広がる情景は、もうダンジョンと呼ぶよりもどこかの地下水路と言えました。

 ところどころ苔むした壁と錆かけの鉄柵、小さな水門らしきものも見えます。


「てか念のためだけど、お前この水だけは飲むなよ? これ絶対ヤバいやつだからさ」


 水路に走るその液体、これがただの水のはずがありません。

 だってほんのり青白く発光して、照明代わりにフロアを下から照らしていたんですから。

 ……まるで核実験場の水槽みたい。チェレンコフい。


「キュッキュルルッ!」

「ともかく水には触れない方向で行こう、あと濡れるのやだし」


 レウラのやつが翼を羽ばたかせて抗議してきました。

 そんくらいわかってるって言われても、お前魔物のドロップ品とか勝手に食うじゃん、信用ないないあるわけないよっ。


「わかったわかった、じゃどんどん行くぞー」


 構造はだいたい把握できました。

 水門とか使って道作ってく系でしょうかねこれ、人類初到達のエリアではよくあることらしいです。

 すなわち最初に来た誰かが、道を阻むギミックを解かなければならないとか。


 ・


「キェェェーッ!!」


 当然ですが進んで行くとモンスターが現れました。

 でも俺の出番とかは言うほどありません。

 雑魚の殲滅はレウラの独断場で、その圧倒的な機動力の前に人類ごときの俺なんて地をはうのろまな亀でした。

 一人だけ飛行タイプなのをいいことに、水路をショートカットして勝手におっぱじめるのです。


 でもフロアボスだけはちゃんと待ってくれていました。

 ドロポンがボスの攻撃を防いで、レウラが牽制遊撃して、その後ろからコソコソ俺が魔法を撃ち込めばどんな怪物も多くて二発目で落ちます。


「って、まーた勝手にドロップ食ってるしー……いや今回は別にいいけどさ。ドロポンにもわけてやれよ?」

「クルルッ?」


 ボスドロップを丸飲みにして、レウラは首をかしげて言葉が通じないフリします。

 ……ホント意地汚いやつです。

 どうせ65層まで行くんですから俺が拾ってもしょうがないんですけど……。


「まさかお前、全部食いながら進むつもりじゃないよな……?」


 俺たちはわんこ蕎麦屋の給仕かなんかなんでしょうか。

 それとも獲物を勝手に食われる間抜けな鵜飼い? 鷹匠? こいつが素直にドロップを俺に運んで来たことなんて一度だって(・・・・・)ないです。


 ああ、まあそれはそれとして。

 俺たちは破竹の勢いで当然の勝利を重ねて、フロアを一つ一つ順調に下ってゆくのでした。



 ・



 そうそう、マハ公子にちょっとだけ説明しましたが、今ちょうど余裕あるので軽くご説明しましょう。

 勝算があるとか言い出したその根拠なのですが、8号迷宮には特徴的な性質があるのです。

 妙な例えになりますが、これが妙に紳士的で、かつ極端に機械的なのですよ。


 ここでは規則的な倍率でモンスターが強化されます。

 フロアを下れば下るほどほんの少しだけ敵がやっかいになるのです。

 スペクタクルスで事前調査したところ、その倍率は前フロアの5%増しでした。この数字はどこのフロアでも普遍です。きっちり5%。


 でもそんなのおかしいです、それじゃまるでゲームじゃないですか。

 システムによる自動生成ダンジョンじみた、機械的なゲーム設計がされているのです。


 つまりそうなると64層目の魔物の強さも逆算出来てしまいます。かけ算式で増えていきますから、1層目の22.7倍の強さって答えが導き出されます。

 逆に言えばこれに勝てるだけの火力があれば巨人のいる65層にたどり着けるのです。


 またソロ用なのでモンスターも極端に少ないです。

 徘徊型が3、フロアボスが1、この数字は変動しません。

 さらには敵のいる方角をたどれば下り階段が見つかるっていう強者向け仕様なんです。……いえやっぱり騎士道仕様と言い直します。


 だって魔物は必ず一体単位で現れるし、近くに別モンスターがいてもこっちなんてガン無視です。……無理に強硬突破した場合はペナルティで複数体戦を強いられますけど。

 つまり、こうでないとソロダンジョンとしてのバランスが保たれない。そう言わんばかりの調整がされてるのです。


 それとドロップアイテムが特殊です。

 倒した敵は小粒の宝石に変わります。まあどうせ全部レウラが食べちゃうんですけどね、ソレ。

 他にもご丁寧に水飲み場が設置されてたり、宝箱開けたら石みたいに堅いパンが出てきます。

 前に持ち帰って毒味してみたけど、カビてもないし害もない。でも出所が怪し過ぎ。

 だってあれですよ、ローグライクゲームなら腐ったパンとか混じっててもおかしくないですもん。


 とまあ長くなりましたが、要するにやり過ぎなほどに挑戦者プレイヤーに配慮しています。

 これを紳士的と呼ばずしてなんて表現するのでしょう。

 もし別の言葉を探すなら、そうですね……。悪ふざけが過ぎると言い直しましょう。


 ――以上が8号迷宮の特質、その特質が勝算。

 小型化したこの爆弾ジェムがあれば理屈ではいけるのです。


「うん。やっぱ律儀だよなここ……」


 階段を下ってゆくと途中の壁に36って数字が刻まれています。

 はい36層目にやって来ました、そろそろキツいです。

 予定通りここからのフロアボスはジェムで爆殺って方針にシフトしましょう。



 ・



「レウラ~、ほいポーションっ!」

「ピキュルルッ♪」


 ボスはジェムで一球入魂キル。

 雑魚はみんなでさくっとやっつける。

 このスタイルでさらに地下へと進んで、本日5度目となる休憩に入りました。


 ここまではドロポンのヒール――もとい、白い泥ぶっかけ謎治癒魔法に頼って来ましたが、さすがにダメージ蓄積してきた感じなので二匹にポーションを与えました。

 ただこれも小型化させる必要がありましたので、瓶詰めの液体ではなくドロップ飴状に濃縮固形化しました。ちなみに氷砂糖みたいに超甘いです。

 飛竜レウラの頭上にその翠色の飴を飛ばすと、器用な宙返りで気取ってからガブッ、どんな時だって丸飲みです。


「そりゃ薬だけどさ、せっかく甘いんだから少しは味わえよお前……。ほらドロポンを見習え」


 対してドロポンはお上品ですから、ポーションドロップ投げ与えるとこれが受け取ろうともせず……。

 厚い胸板で丸飲みです。


「すまん、やっぱ今のセリフ無しだわ」


 うーん……謎生物。

 ドロポンさんってゴーレムっていうより、泥スライムっぽいところありますねー。その口は飾りかっ。


「クルルル……」


 俺も圧縮食料と水筒の水で腹ごしらえです。

 驚け諸君、この忍者の丸薬みたいな丸っこいやつたった一つで、半日分の栄養になるのだよ。


「キュッキュルルルッ……!」

 味の方はというと……うん、懐かしい味。ラーメンのかやくだこれ。

 よーく噛み砕いて飲み込めばこれで十分な食事に……あれ、もう飲み込んでた、食い足りないなぁぁこれぇぇ……。


「え、お前も食うの? あんだけ食ったのに? 知ってるよ俺、宝箱のパンも一人で勝手に開けて食ってたよね?」

「きゅるる~~っ♪」


 しょうがないので圧縮食料を一つ空につまはじくと、ブォンッと空気をうねらせて竜の腹に収まります。


「キュッ、キュルルルルッ♪」

「もうやんないってっ! 摂った栄養どこに消えてんだよお前!」


 箱ドロップのパンはやっぱノーセンキュー。

 下痢は避けてこそ本当のサバイバルですよ。

 戦闘中にお腹痛くなったら地獄です、詠唱出来ません、絶対そこでお家帰りたくなっちゃいます。がに股歩きで凱旋とかイヤです。


 つかそもそもレウラが食い漁るのでパンに出会うこと自体まれだったり。

 飴型ポーションも圧縮食料も気に入ったみたいで、レウラはまた性こりもなく人の肩に乗っかって、その鱗ばかりの頭をすり付けてくるのでした。



 ・



 地下40層目を攻略すると道が無くなりました。

 超お宝っぽい大粒の宝石があったはずなんですけどもうレウラの腹の中です。あっ、という間に。

 もちろんここが終点なわけありません。

 入念にフロアボスのいた部屋を探ってみると隠し通路っぽいボロ壁を発見しました。


 経験則から言わせてもらうとここから先は秘密の階層、帰還の翼が機能しない封印区画ってのに該当すると思われます。

 つまりまあこれで正規の上では最下層にたどり着いたってことです。やったね、迷宮制覇だー!

 ……とはなりません、目当てはここから先のデンジャラスゾーンにあるのですから。


「ゆけー、どろぽーん」

「……!」


 ドロポンがのろのろとボロ壁の前に立つと、そいつをドロポンパンチでドカーンとぶち破ってくれます。


「やったぞドロポン、わーなにげにカッコイイ、男のロマンっ。さあ行こうっ!」


 ちなみにコイツを先頭に置いて進軍すると前は見えないわ、狭いと勝手に引っかかるわとっても邪魔くさいです。地形の把握に多大な弊害です。

 そういったわけで偵察大好きレウラを追って、俺は地下41層封印区画へと入り込みました。


 もうこの時点でモンスターのレベルがインフレしています。

 なんたって初期階層の7倍ですから。

 雑魚を先制攻撃で積極処理して、ボスにジェムを投げつけ吹っ飛ばす。

 やることはあまり変わりませんが万一討ち漏らすと超危険です。


「ドロポォォォーンッ!!」


 ドロポンが凍ったり。


「わー、ドロポォォンッ!!」


 燃えたり。


「ぎゃーっ、ドロポンがぁぁーっ?!!」


 真っ二つになったりします。

 でも生きてる不思議生物ドロポン、進化させておいて良かった超頼もしい。

 おかげでポーションの消費先が彼ばかりになっていましたが、それでも予定よりずっと節約出来ています。


「つか強くねお前? ほぼ不死身じゃん、ドロポンなのに大活躍じゃん、すごいすごい、すごいぞドロポンっ、がんばれドロポンっ、それゆけドロポンっ!」


 この迷宮いけます。予定通り爆弾ジェムとポーションでごり押ししちゃいましょう。


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