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23-1-1 ア・ポロン迷宮群8号迷宮大攻略 1/2

前章のあらすじ


 命がけの大迷宮攻略を前にして、それぞれは挑戦者アレクサントに餞別を送った。

 ウルカは危険な手ほどき、ダリルは特製の手甲、アシュリーは得意の自己強化魔法、聖域の最長老キエからはレア素材とお古のエルヴンローブ、それからグリムニールより完全回復薬エリクシル。

 人々は口々に死ぬな、早まるなと彼の命を惜しむ。


 やがて攻略決行日が近づきアレクサントは最後の仕上げに入る。

 真夜中のアトリエでこっそりレウラを進化調合し、新生レウラをそこに誕生させていた。

 ……のだが変化は鱗一枚が薄虹色になっただけ、進化失敗。

 だが彼に予定を変える気など元より無く、それから四日後には攻略を始めるつもりだった。

―――――――――――――――――――――――――

 迷宮と巨人と竜の章

  バランス崩壊したゲームは等しくクソゲーである

―――――――――――――――――――――――――


 昔々あるところに黒い錬金術師がおりました。

 彼は研究心と欲望に身を任せ、その飛び抜けた才能でいくつもの偉業を打ち立てましたが全て秘匿し、その身勝手で傲慢な振る舞いはいくつもの災いを世にまき散らしました。

 まごうことなくそれは黒、なにが混じろうともけして濁らぬ漆黒、その錬金術師に良心や罪悪感などどこにもなく、しかし二度と世に現れぬであろう大天才と呼べる因業な怪物でございました。


 いつまでもその隠者は世にのさばり続けようとしましたが、やがて彼にもツケと寿命を支払うべき時がやって来ます。

 ある事情によりやむを得ず男は自らの時間を止め、だがいつか己が蘇るために陰謀と自らの代役を用意しました。


 ……けれどもその策略が果たされることはありませんでした。

 ええ、男は知らなかったのでしょう。

 己がどれほどわがままで、傲慢で、世のことを考えぬ最悪の人物だったという事実を。

 せめてわずかばかりの良心だけでも持ち合わせていれば、結末も変わっていたのかもしれません。


 それでは皆様、その昔話の先にある、未来の今現在の物語のはじまりはじまりでございます。



 ・



23-1-1 ア・ポロン迷宮群8号迷宮大攻略 1/2


 あの暴食飛竜の件は予定外でしたが、長い休息を経てついに全ての準備が整いました。

 さあ今日は己の力とヘソクリを絞り尽くして、人類未到の8号迷宮65層目を目指す日です。

 危険度は未知数、ギルドによると文句なしの特別指定要管理迷宮。つまり攻略法がなければ確実に死ねる超エンドコンテンツです。


 そんなわけで昨晩はロドニーさんからイアン学園長、ダンプ先生マナ先生、ついでになんでか教頭、グリムニールさんまでうちのアトリエに押し掛けて、すっかり最後の晩餐ムードで俺を激励してくれました。

 もとい絶対無理はするなと忠告したり、アインスさんとかお嬢なんかの一部は今さら中止をうったえかけてきたり、お節介というかめんどくさいというかありがた迷惑な一晩だったのです。

 何度勝算があると説明しても、気持ちの上ではとても納得出来る話じゃなかったみたいですね。


 ああそれで、このうちダンプ先生とマナ先生には迷宮上層の掃討を手伝ってもらいました。

 ただしそれも24層目まででして、その先の25層というのが超ヤバ過ぎで確実に死ねるそうです。

 そんなわけで冒険者ギルドの限界踏破数も24層、そこにはソロダンジョンにふさわしいとんでもない試練が待ちかまえているのです。


 ……まあソレ、だいぶ前にどっかで体験したようなヤツなんですけどね。


 あーあと昨日のことといえば、イアン学園長がある言葉をしつこく言い続けていました。

 重ね重ね言うが巨人族は絶対に殺すな、などといった感じで。

 老いていても現役バリバリ学者さんですから、エルフの歴史も、その天敵の古なる者も詳しく理解しているようです。


 俺が巨人の居場所を突き止めたことを改めて誉めちぎり、挑戦するのは良いが何かあった時の切り札となる存在なので殺さず、かつ出来る限りの情報を引き出してくれ。

 ……などとあの気味の悪い顔でしつこ~~く要求してくるのです。


 ええまあこの爺様には世話になりまくりなので、もちろん協力したいところです。

 なのですが、その探求心と研究対象のヤバさからしてどこか不穏な予感が拭えません……。

 だって巨人の力で呪いを克服すると、呪いの恩恵だけを受けることが出来てしまうそうですから。


「やっぱ先生とは気が合うなーっ! なら私の夢のためにダンプ先生にお安く装備作ってあげる!」

「おーっ本当かーっ! うちは家族多いから助かるぜぇ! おい息子よっ、いい嫁さん貰ったじゃないかっ!」


 あとダリルがとうとつにも夢を語り出すと、ダンプ先生と一緒に意気投合しちゃってました。

 いやそれ建前だけの偽装結婚だし、このタイミングで蒸し返されると超困るから止めて。って心の中で突っ込んだ記憶あります。


「方位磁針はちゃんと持った? じゃあ帰還の翼は? 忘れ物したって気づいた頃には遙か地下の底よっ、今から全部あるかどうかチェックしてみなさいよっ!」

「…………ッ」


 アインスさんは罪悪感全開のお通夜ムードだし、お嬢はお嬢で心配性、遠足前の過保護なおかん状態でした。

 ウルカはウルカでばっくれてそもそもいねーし、アシュリーだけが冷たいくらいに普通でいてくれてます。


 さて、では残るうちの妹さんはというとですね、これが朝に姿を消したきりずっと戻っていませんでした。

 再び姿を現したのはなんと晩餐の真っ最中です。

 しかも来客者が多いのでいつもの寡黙モードのスイッチ入れちゃって、これが食事もコミュニケーションもとらず一人調合部屋に引きこもってしまうのでした。



 ・



 そんなこんなで大騒ぎの一晩が明けると、俺は物音にぼんやり目を覚ましました。

 朝日射し込む枕元を見れば、そこに小袋と手紙が一つずつおかれています。

 中を開けてみればビース状の宝石がギッシリ。


 それは俺たちが共同開発した超小型爆弾、ジェムと名付けた迷宮攻略の秘密兵器でした。

 ありったけ作りまくったその結果、市場素材が枯渇してしまったために作成打ち止めになってたやつです。


 すでに山ほど作りましたが多ければ多いほど攻略が楽になります。

 これは――すごいよアクアトゥスさんっ!

 おかげさまでまどろみなんて一気に吹き飛び、最高の餞別に柄にもなくやる気が膨れ上がってしまいました。

 そうそう手紙にはこう記されてあります。


『現金で自己中の兄様が一番喜ばれる物を用意して参りました。どうぞこれで、ご宣言通りの楽勝の大勝利をされて来て下さい』


 ありがたいですねぇ……でもおかしいです。

 もう公国北部にまで問い合わせて買い占めたくらいなんで、どこにも残っていないはずなんです。

 ああなんだそういうことか、なら海外まで行って来たんですね~。

 ……うわマジかよアクアトゥスさん、あとたぶんウルカも。ありがとう、ありがとう、超ありがとう、助かり過ぎる。


「おはよう、ございます、ご主人様……」


 そんな熱意見せられたら、も~~やる気いっぱいみなぎっちゃったんで早いけど荷物持ってアトリエを出ようとしました。

 でももっと早起きのアインスさんに見つかるのが必定、彼女らしくもなく立ちはだかり無言のとおせんぼです。


「今日も早いね。もっと寝てても良かったのに」

「行かないで、下さい……」

「いくらアインスさんの頼みでもそれは無理。じゃあすぐ作れる朝食をお願いしようかな。ん~~ハムサンドでもお願い」


 さらっと断って代わりにお願いをします。

 やっぱり悲しげな顔をさせてしまいましたが、役割が与えられると彼女も少しだけ落ち着くようでした。


「うん、ありがとう。じゃあいってくる」

「っ……! だ……ダメ、行っては、ダメ、です!」


 すぐに出来上がったので受け取って、食べながら彼女に背を向けます。

 これ以上は他の連中にも気づかれるかもしれないので、もう出かけてしまうつもりでした。


「アインスさんを自由にしてあげるよ。呪いを消し去って、できればいつかは普通の女の子に戻れるといいなって思ってる。だからさ、今回だけは勘弁してよ」

「ダメッッ、あ、ああ……うぁぁぁぁぁ……っっ」


 声に振り向くとアインスさんは涙していました。

 普段感情を見せない彼女がここまで心動かされるなんて、この世の終わりみたいな顔してますが俺には喜ばしい。


「いくよレウラ、ドロポン。いってきます、アインスさん」


 笑顔で笑いかけて俺はアトリエの鈴と扉を鳴らして立ち去りました。

 職人街は朝の早い町です。

 まだ薄暗い舗装路を、飛竜とクレイゴーレム連れて進んでいきます。


「クルッ、クルルッ、キュルルルルッッ♪」


 つかレウラのやつが具をよこせよこせってうるさい。

 いやお前さ、もうアインスさんから朝飯もらったでしょ。

 ほらドロポン見習え、喋らんしホント大人しいから。


「な、なんだあいつらぁっ?!」


 うん、今日も合体ドロポンに道行く人たちがビビってます。

 怖くないよ~、やわらかくてやさしい子だよ~?


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