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0-08 貴族科からの転入生 2/2

 何か不服なんですけどアルフレッドは優秀でした。

 それに頭の回転も機敏で頼もしく、打ち解けてみれば悪いヤツでもなかったみたいです。


 ま、そこは貴族様なのでプライド高くてめんどくさい部分もあるんですけど……。

 この前も義務だのなんだのと言って俺の部屋を掃除し始めましたし、付き合う身にもなって欲しいです。


 けど……そうそうアシュリー。

 アシュリーってほら、この手のタイプを操縦するのが上手いんですよね。

 テキトーにおだてればわりと円滑だったりするんで、意外とドタバタすることもなく日々が過ぎていきました。


 彼女みたいな人付き合い上手さんって貴重なもんです。パーティメンバーとして見ると理想的な性質かもしれません。


 あーそういや、俺があちこち転科させられまくったのって、あれ教頭の腹いせだけじゃなかったらしいです。

 アルフレッドがあちこち他の科に移動するもんだから、そのしわ寄せで俺が弾き飛ばされてたんですって。


 今さら恨み言なんてないですが、フツーに理不尽な話だと思います。



 ・



 そんなこんなで矢となって半年が過ぎました。

 今日は二年生最後の迷宮実習です。


 これで俺たち三人組も解散、アルフレッドは貴族科に戻ることになっていました。

 それが父親との約束だそうです。


「順調だな……。アシュリーよ、そろそろMPの方も回復してきたか?」

「や、もーちょいかかるっス。焦っちゃダメっスよ、時間は十分に稼いだんスから」


 じゃあこれが最後のチャンスです。

 これを逃したら目標を果たすことが出来なくなります。

 俺たち三人は約束したのです。


 アルフレッドが冒険科を去るまでに、この中級修練迷宮の最下層に到達してやるのだと。

 今はその最後のチャレンジ、全7層の迷宮の6層目中盤にてキャンプを組んで体力とMP自然回復につとめてました。


「焦ってなどいない。ただ……本心を言えば貴族科になど戻りたくない。お前たちは最高の仲間だった」

「いやお前さ、真顔で恥ずかしいこと言わないでよ」


 マジになり切らないのが俺のノリですし、そういう熱くなるようなこと言われると困るんだよね。


「ウヒヒッ、何か青春って感じっスねぇ……気持ちわかるっス。自分ら最強じゃないっスか、一番下までたどり着いたら表彰モノらしいっスよ、その一歩手前まで来ちゃってるじゃないっスか、うっはぁ~感動っすミラクルっすサイコーっス♪」

「アレクサント、最後くらい熱くなれ。お前はいつだってそうだ、本気じゃないふりを続けて逃げている」


 いや無理無理ヤダ、そういう熱いノリ嫌い。

 逃げで結構だし。絶対流されませんよ俺。


「アルフレッドくんってー、意外と熱血っスよねー。自分もどっちかというと冷めた先輩派なんスけど、今日ばっかりは付き合ってあげるっス。冒険科の伝説になるっスよ、二年生でここを攻略したのって片手で数えるほどらしいっスよ」

「聞いたかアレクサント、燃えてくるだろう。俺たちはこれから伝説を打ち立てるのだ。……フッ、さすがに高ぶり過ぎというものか」


 伝説とかなんとか浮かれちゃって……付き合ってらんないな。

 若さゆえの思い上がりとおごりそのものじゃないか。

 うっかりこれに流されたら、コイツらと一緒に青春しちゃうことになる。


 それはいかんともしがたい。


「……。なあ……アレクサント。お前さえ良ければ貴族科に来てみないか……?」

「へ……。な、なんだってぇーっスぅっ!?」


 無心でちっぽけな薪を眺めていたら、ぶっ飛んだ発言がキザ貴族様から飛び出した。


「お前は庶民だが貴族科に入る権利がある。貴族科はお前により高位の知恵と教養を与えてくれるだろう。いっそこのまま全学科を制覇してみないか? 上流階級とのコネクションも得られるぞ」


 そう言われるとちょっと心が揺らぐ。

 特にその上流階級とのコネクションって簡単に得られるものじゃない。

 出世には興味ないけど、ビジネス視点から見てもかなり大きい。


「ガルルルルルーッ! ちょっとアルフレッドくんっ、先輩は渡さないっス、先輩はずーーっと自分とペアを組んでさらなる偉業とロマンを追い求めてゆくっス!」

「いやそんなん俺言ってないし」

「なんせたった三ヶ月で最下位から学年主席を取った男っスよ、今や冒険科の誇るホープっス、貴族科なんかに渡さないっスよ絶対!!」


 アシュリーが隣に擦り付いてきた。

 二の腕に抱きついて猫みたいにゴロニャーンと鳴く。


「お前は変な女にモテるな」

「あっはっはっ……そう言うキミは一言余計だよね。アシュリーが変な女の子なのは認めるけど」

「ひどいっス先輩っ! それに勘違いしてるっスよ、自分は先輩の才能に惚れてるだけっス!」


 やっぱり猫っぽい。

 気まぐれに今度は俺から飛びのいて、そりゃ楽しげにそう断言してくれた。


「考えておくよ。考えておくというより……そうだね、教頭にまた別の科に飛ばされる羽目になったら頼ろうかな。そうなれば貴族科も悪くない」

「ぅぅー……先輩とずっと冒険していたいっス……」

「同感だ。出来ることならば新学期など来ないでもらいたいものだよ」


 空気が重くなってそれっきり話題が絶えた。

 もういいだろうとアシュリーが立ち上がると、俺たちもそれにならって迷宮攻略を再開した。



 ・



 伝説って意外と地味だ。


 中級迷宮最深層7層目、そこは単純に敵のレベルが上がっただけでラスボスもなにも居なかった。

 伝説上の何とかってのがものすごい死闘を繰り広げてダンジョンボスやっつけたとか……そういや座学で教わったんでしたよ。


 そんで……。

 空っぽのボス部屋には宝物庫がありました。

 そこに一つだけ閉じられた大宝箱があり、期待を込めて重たいふたを持ち上げ開きます。


 底にあったのは踏破者を証立てる学園支給のメダリオン。

 ピカピカして悪かないけど金目のものではありません。


「ありがとう……。この日のことを俺は生涯忘れないよ。ありがとうアレクサント、アシュリー」


 アルフレッドからすると違ったらしいです。

 思い出の品が出来たと、大切そうにそれを何度も何度も嬉しそうに眺めていました。

 その姿は意外と素直で少年のような輝きがあり、彼もまたまだ15であることを実感させてくれました。


 それと後から聞いたのですが彼は名門侯爵家の三男。

 でも家や役職は兄弟二人が継ぐらしく、将来は母国の官僚を志望していたそうです。


 それが上手くいかなければどこぞの家との政略結婚の道具にされて、一生嫁と義父に頭の上がらない生活を強いられるんだそうです。

 だから可能性を広げたくて各学科を回っていたんだとか。


 恵まれているようで彼も彼なりに不自由です。

 現状からあがきはい出ようとしている普通の人間でした。

 そういった部分は嫌いじゃないので、応援してやれればと思います。



 ・

 ・

 ・



 で、まあ、ヤツです。その時期です。

 教頭が現れて今度は外国の姉妹校に俺を飛ばそうとしました。

 さすがにそんなのお断りです。


 しょうがないのでアルフレッドの父より紹介状を貰い、アルフレッド・アルブネア従者ペアとなる承認をしました。

 そこに優秀な成績が加われば庶民も貴族科に入ることが出来るのです。


「貴様アレクサントッッ!! 貴様ッ貴様ッ貴様というヤツはどこまでこの学園をかき乱すつもりだ、うぅぅぅぅ、ウォノレェェェ、ギヒィィィィ!! 貴族の、貴族の誇りが……誇りがこんなゲスではらわた真っ黒な男に汚されるなどッッ、キィィィィーッッ!!」


 教頭怖いです。

 はげ散らかったその頭をかきむしり、陰気な中年がタカのように奇声を上げまくってました。

 ま、もちろんタカはタカでもハゲタカなんですけどコレ。


 …………。

 ……ていうか俺、将来なにすればいいんだろ。


 冒険者、商人、職人……うーん。


 冒険者とか嫌いじゃないけど、憧れるけど、毎日繰り返すのもどうかと思うなぁ……。

 職人も職人でいつか飽きそう。


 あ、はい、そいうことで来期から貴族科でがんばります。


 さらばアシュリー・クリフォード、俺はそのひょうひょうとした猫みたいな性質と、鮮やかなる魔法剣さばきを忘れやしない!

 来期からキミが冒険科のエースだ!



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