19-04 ひなびた温泉宿で大変、やだぁ湯治よう…… 3/3(挿絵あり
と、見せかけて裏口から宿に戻りました。
ふっふっふっ……策士です俺。
ああやって注目を集めた状態から男性着衣所に直行、スパパーンと服を脱いで露天風呂に踏み出します。
やりました。
チラッと様子を見たところ俺だけの貸し切り状態。
女性陣の姿はどこにもありません。
「~~♪」
ゆっくりしようそうしよう。
鼻歌混じりでかけ湯もせずに露天風呂に身を沈めます。
だっていいじゃん俺たちだけだし。
ああでもせっかくだから、もう少し景色の良いところに陣取りたいかな。
そこでちょっと奥に行くと面白そうな場所がありました。
大岩がドーンと置かれていて、鑑賞用の木々も多くそこはかとなく風情があります。
そこの湯でしばらくの間ゆっくりと疲れを癒しました。
二日がかりの長旅もありますし、明日にはアクアトゥスさんと辺境の山奥を目指さなければなりませんから。
・
「お、おぉぅ……」
ちょっと長風呂し過ぎたかもしれません。
ボケーーーっとしてたらクラクラっときていました。
うわしまったヤバい?
フラフラした足取りで湯から立ち上がり、取り急ぎ涼めそうな場所を探します。
「お」
あの岩場いいね、あそこにしよう。
いやぁ長旅続けてここまで来たかいがありました。
エッホエッホと湯の上を歩き進み、目当ての場所を目指します。
ってあれ、そしたら先客がいました。
せっかくだし挨拶しておこうかなー。
人間、旅行中は少なからず社交的になるよね。
「いや~ここって良い湯ですね~。まさかここまで気持ち良いとは侮って――」
……いや待て。少し待て俺。
貸し切り状態の宿。その混浴の露天風呂に……先客?
見たところこの先客は一人……つまりアクアトゥスとウルカではない……。
アシュリーはあそこでまだ無責任な武勇伝を続けていることだろう。
となると、アインスさんかダリルでしょうか。
ああ良かった、焦った焦った。
うん、この二人ならまだ話がわかるし、変な気を起こすこともないでしょう。
なら別にビビらないで堂々と普通に接しようではありませんか!
「いやーしかしさすがお嬢だよな、良い宿知って――ハッッ、ハウワァァッッッ?!!」
もう叫び声を上げずにはいられませんでした。
何てこった、まさかのご本人さんの登場でございます……。
ああ麗しの若きエルフ、リィンベル・カーネリアンさん。
その御手をプルプルと感情に震わせながら、もう片手と肘で大事な股間と胸を手ブラっ! こういうわけなんですねー!
「ああ、そんな内股になっちゃって、元は隠すような肉付きじゃないでしょう。まあ今は巨乳さんですが。いや、一体あの豊胸剤いつ切れるんでしょうか。……って動揺のあまり全部口に出てたしっ!」
ただでさえ若さゆえの美しいその肌に、ブロンドの髪がピットリと張り付いて、おっぱいぷるんぷるん。
そ、そこにエルフ耳……えるふみみが……う、うぉぉぉぉー!!
「ひっひうっ! あっあっあっあっあっああああーっ、アレッ、ひっ、イーーヤーーーーッッ!!」
たちまち悲鳴を上げるお嬢、そりゃそうだ。
なにせこっちは前隠してませんし。
だっててっきりエルフとかドワーフの爺さまと語れるかと期待してたんですもん。
「バインドッ! バインドバインドバインドバインドバインドォーッッ!!」
「あっちょっうぎゃあああーっっ?!! ちょっとっちょお嬢っやり過ぎっ、ンブハッ?!!」
「アレクのっ、アレクのっ、アレクのエッチバカッもうやだあぁーっっ!!」
哀れ勇者アレクサント殿……。
エルフのお嬢様にツタまみれの逆さ吊りにされて、そのまま物凄い速さで逃げられてしまうのでした。
つか……つかこれ……う、動けない……?!
「ちょっとお嬢っ、待ったっ待ってっ、これ解いてっ解いてから行ってっ、ちょぉぉぉーっ?!!」
うわぁぁぁぁ……湯あたりで、力が出なぁぃ……。
や、マジでヤバいし、この状態で逆さ吊りって体調にモロダメージ……ぅ、ぅぁぁ……。
「だ、誰か助けてっ、助けてーっっ?!」
残念、これが貸し切り状態なんですねぇ~。
ツタまみれのマゾ変態ナルシストみたいな図で、俺は露天風呂にそのまま放置されたのでした……。
・
ああ、どれくらいの時が流れたでしょうか。
5分か、10分か、30分か……時間の概念すら狂いかけたその頃……湯を乱す音が響きました。
ありがたい。その人はすぐに異常を察知して俺の目の前までやって来てくれます。
「…………」
た、助かった……。
ベストアンサーとでも言えるような存在がそこにいます。
彼女です。俺を無条件で救ってくれるのは彼女の他にいませんでした。
「なにを、している、のですか、ご主人様……」
「ハッ、ハハッ……さすがアインスさん、上も下も隠そうともしないその男気……惚れるぜ……。でも今は止めて、止めて、こんな格好恥ずかしい見ないでっ……! がはっ、あ、頭に余計に血が上って……裸体がっ、痴態がっ、ぶっ、ンブヘハァァッ!!」
18の男が見るにはあまりに刺激的な光景がそこにあったのです。
今日、俺は驚くべきことを知りました。
鼻血って、逆さ吊りでもちゃんと吹き出せるものなんですね。
ツタにからまれたマッパの変態マゾ男は、赤い噴水を飛び散らせて最後は白目をむいたそうです。




