15-02 エルフの隠れ里で……(挿絵あり
別に里の場所を知りたいわけではありません。
知ったところで大した意味はないですから。
けどみすみす寝かされて縛られるというのも、これやっぱりどうなのかなと思うのです。
お嬢を信じてますけど、無防備をさらすのは抵抗があります。
もしお嬢が好奇心を抑え切れず、鼻とか尻の穴とかのぞいてきたらどうしましょう。
寝ている間に鼻毛とかケツ毛がスッキリ引っこ抜かれてる可能性だって0ではないはずです。
毛だけならまだしも、もっともっとデリケートな部分が大変な状態にされてしまっていたら、ああどうしろと!!
……そう主張したら無言で体当たりされました。
そうでした、相手はアクアトゥスさんとかマナ先生じゃなくてお嬢でしたね。
色んな意味でこの同伴者を選んでホント正解でした。
しかし。しかしこんなこともあろうかと、ここにあのネムラズの蜜が……。
あったら良かったんですけどね、くそぅ……無いです。
そんでもう黙れと不意打ちのスリープが飛んで来たのでした。
ああもう無理、眠い、超眠い、やっぱり我慢しなくても良い気がしてきましたよ。おやすみなさーい。
・
……で。
月並みですみません、目覚めればそこは天国でした。
いえ現実を偽らずに言えば、俺はペットのチンパンジーだったとも言えます。
なぜならお嬢はどこぞからリードと首輪を手配していたのです。
目覚めれば既にそれが俺の首にかけられており、そうしてお嬢は馬車から俺を引っ張り出されるのでした。
「人間よ……」
「人間ね……人間の男の子だわ……」
「それにあれは確かあの商会の……」
「ふぅん……してることは悪趣味だけど、男の趣味はなかなか……」
ええそんな感じの今日この頃です。
現在、エルフの隠れ里メインストリートにて、小柄なお嬢による絶賛公開羞恥プレイ中なのでございますよ。
これは屈辱か、それともご褒美か、もし誰かに聞かれたらいっそこう答えましょう。
うーん、エキサイティング!
さて隠れ里。
一体どんな神秘の世界かと思っていたら、なかなかどうして予想とはズレてましたが良いところでした。
実のところエルフの民らも気になりますが、来たからには人間拒むこの秘境の情景を楽しみたいところです。
はい、隠れ里と呼ばれるくらいですから、そこは山間の土地なのです。
スリープを食らう前は、交易道としてみても遠回り以外の何物でもない僻地の渓谷道を進んでいました。
しかしこうして目覚めれば、そこはいわゆる豊かな水郷です。
深い森林と山々に囲まれた美しい秘境ってやつがありました。
それと里の中をだいぶ歩いたのですが、ここではどこにいても水路のせせらぎが聞こえてくるようです。
その水路の都合で橋も多く、けどその橋もエルフのものらしく木製で軽快な踏みごたえがあります。
ざっくり表現すれば、生活と自然がこれでもかと調和しているのです。
そこに石作りの建物なんてものはどこにもなく、どの家も木造か泥を固めたものでした。
よっぽどエルフって植物が好きなんでしょうか。
それとも風習かなにかなのでしょうか。
どこのお宅も緑豊かなたたずまいで、例えば生い茂るツタが建物にからみついていたり、花がこれでもかと飾られていたり……。
公都とはまた異なる豊かさがあって、何よりメッチャ平和も平和の理想的ド田舎でした。
「リィンベルさんの奴隷なんですって……」
「そうなの。ふーん……人間なんてすぐ死んじゃうのにね」
「でもかわいいじゃない。二人とも赤ちゃんみたいに若くて……ちょっと羨ましい……」
……で、360度美しき森の民、エルフエルフエルフです。
そのエルフ様たちがなんだなんだと騒がしく家家から現れて、お嬢に引っ張られる俺をメインにしげしげと観察されております。
つか、俺たちを追いかけて行列……行列とか作っちゃってるんですよねぇ……。
良いのか悪いのか知らんけど大人気だコレー。
「えーと……お嬢。何から言おうかなぁ……俺言いたいことイッパイイッパイあるんだけど……。あ、まずは……そうだね」
お嬢は何も言葉を返しません。
ご主人様と奴隷って設定なので、やんややんやといつもの調子で言い合うわけにもいかないようです。
でも知ったこっちゃありません、判っちゃいましたけど待遇に不満があります。
「恥ずかしい、この首輪外して」
ひとえに恥ずかしい!! 顔が熱いよ緊急事態だよ!!
「無理、そんなことしたらここのみんなが怖がるわ」
「なるほど理解できる。いや理解できるけどできねー、したくねー」
隠れて部族だけで暮らしてるような人たちです。
円滑に目的を果たすならこれも良い作戦です。
でも変な汗出るわぁ、視線が嫌、恐れと好奇心と無邪気な何かが……グチョングチョンに混じり合ってなんか、酔いそう……。
「ふふふ……あたしはそんなに悪い気分じゃないわ。ううん、それよりやっぱりね、やっぱりこうやって……。アレクを奴隷にしちゃえば良かったのかな……」
「良かったのかな……じゃねーし。それちょ~っと倒錯的っていうか、スーパーに危険な発想ですからねーお嬢。……で、ちなみにコレどこ目指してるの?」
この状況を楽しめるとか、お嬢ってなかなかハイレベルなご趣味をお持ちです。
これもドMでエルフ好きな人になら最高のサービスだったんでしょうとも。
「里長のところ、そこにコモンエルフがいるの」
「あ、今さらだけどコモンエルフってなにさ?」
「……ずっと昔から生きてるあたしらのご先祖様よ」
「ははは、なるほど。ご先祖様が普通に生きてる社会ってわけね。そりゃさすがエルフ、エルフの社会面白れ~としか……」
てかご先祖様クラスまでいくと、いかにエルフといっても正真正銘のババァが出てくるんでしょうか。
それともずっと若いまま?
ちょっとそのへん気になります。
「じゃもう一つ質問、馬車あったよね? なのになんでわざわざ俺、こんな市中引き回しの刑受けてんの? まさかお嬢のご趣味?」
「違うわよ……。そういう決まりなの。人間を連れてきたらこうする。これで誰が何を連れてきたのかわかるでしょ。……あと今さらだけど、ここではご主人様って呼びなさいね、じゃないと警戒されるって言ったでしょ」
ご主人様と呼びなさい、だそうです。
……リィンベル嬢が言うと、なんかシャレにならん破壊力がある気がします。
小柄なお嬢様キャラにギャップ萌えを噛み込ませつつ、しかしなんかお嬢のキャラに綺麗にはまっちゃってるっていうか……。
「へいご主人っ」
「何なのよアンタ……。そうじゃなくて、もうちょっとうやうやしくしなさいよ……」
まあでもお嬢、作戦は成功です、十分に効果出てます。
隠れ住むくらいですから世間知らずなんでしょうね、それでいて行列を作るくらい好奇心旺盛ときます。
あと関係ないけど女性が多いです。というか男がなんかほんと少ない?
ほっそりとした綺麗なエルフのお姉さんたちがいっぱい、いっぱい、いっぱいです。
それがソワソワ、ウフフフ……と俺たちを見つめて追っかけしてくれるんです。
気分は女子校に迷い込んだ美少年アイドル! ただし首輪とリード付き! ダメじゃん!
けどまあ……人間のジジィをはなたれ坊主とあしらうくらい、実際は彼女らも大変お歳をめされてるんでしょうけど。
「ほらどこ見てるのよ。着いたわよ」
「おお……なにこれすごい、マジでここなの? おーー……」
里長の社に到着しました。
「アストラコンの姪、リィンベルよ。いきなり押しかけて申し訳ないけど、里長への面会を要求するわ」
ここかなぁここかなぁとは思ってたんですけど、本当にここだったみたいです。
その景観もまた、俺の密かなテンションを上げるのに十分極まりないものでした。
え、緊張しないのかって? 今さらしてもしょうがないでしょ。
さあ来い大物エルフ! じゃなくてコモンエルフだっけ?




