14-04 さあ来いお姫様!(挿絵あり
今回の話、実はもう一つもくろみがありました。
うちのちびっ子飛竜レウラです。
実はアイツを迷宮に連れて行こうとしたのですが、諸々の問題が発生しました。
あの竜、いっちょ前に入場制限の人数分にカウントされるんですよ。
しかもファイター、マジシャン、スカウト、ヒーラーどれにも該当しない竜様ですから、これが入場制限に引っかかる引っかかる……。
おまけにギルドでのやり取りとか、パーティメンバーへの説明がまた……超めんどい!
まだありますよ。
もっと悪いのがアイツの食性です。
アイツ……魔物を食うんです……。
だからそれだけ魔物素材のドロップが減ります。
しかもドロップした魔物素材も勝手に食います。勝手に。仲間とか主人に断りなく、勝手に……。
なのでレウラを育てるときは決まって、アシュリーとかに頼み込んで三人編成のダンジョンに潜ることになるのでした。
でも、今回の輸送任務なら話が変わります。
ドロップ獲得が目当てではなく、輸送が目的ですから食わせ放題です。
なので今回の依頼にはアイツを連れていくことに決まりました。
商売にも詳しいリィンベル嬢もセットで頼もしく。
アクアトゥスさんも行きたがりましたが、いや学校行けよとお留守番です。
・
「あっ、アレクサント先生ッ!!」
夜が明けて日が落ちました。
公都郊外、所定の穴場に行くとそこには輸送隊が待機していて、すぐにその陣中から聞き覚えのない高い声が上がりました。
見ればこちらへと一直線に、見知らぬ男の子が駆け寄って来るではありませんか。
「はぁっはぁっはぁっ……先生っ、来てくれたんですねっ!」
先生と呼ぶってことはアカシャの家の生徒でしょう。
見れば何となく見覚えがないこともないような……うーん……。
「うん。えーと……うん、来たよ、よろしく」
「はい先生! 先生と一緒に旅出来るなんて夢のようです!」
ハァハァと彼は息を乱しています。
いやこれが驚くほどの女顔で、しかも小柄で、だからどっちなのかいまいち判断付かないです。
服装は……うん、良いところのお坊っちゃん。貴公子様です。お姉様方が喜びそうな美ショタですよ。
サラサラの長髪をヒラヒラと揺らして、やたらめったら中性的にキラッキラッこっちを見つめて来てます。
「マハです! もう僕っ、今日が楽しみで楽しみで……! 昨日は先生の肖像画抱いて眠ったくらいです!」
「なにそれホモ?」
そうそうマハくん、そういえばこんな生徒いた気がします。
つか男の絵抱いて寝るとかいきなり尋常じゃないです。
「ほ、ホモなんかじゃありませんよ僕っ!!」
「じゃなんでそんな力強く否定するし逆に怪しいし」
「あ、怪しくないですっ!! 僕は純粋に先生のことを…………尊敬してるんですっ!!」
なにその微妙な間。
ていうかなんで生徒が輸送隊に参加してんのこれ。
「ちょ、ちょっとアレク!」
「ん、なにお嬢?」
そこにお嬢が慌てて割って入りました。
「だ、誰に向けてそんな失礼なこと言ってるのよっ! だってこの子……っ!」
なんかまずいらしいです。
誰って……なんかいきなりホモっちぃ登場をされたマハくんですけど。
「例の大公様のお子さんよっ! つまりこの輸送隊の責任者! 公子様じゃない!」
「いえ気にしてません! 先生の前では僕もただの生徒ですから……ああ、先生と冒険出来るだなんて……幸せだ……」
……お嬢の言葉に思考が停止していました。
…………あれ……え?
え……あれ……え? え? 公子……?
それじゃ……それじゃあれ……お姫様は……?
姫キャラ……もしかして、無し? まさかの……無しッッ?!
「で、オチがこのホモ公子っっ?!!」
公子様だとわかっていても、思わず指ささずにはいられませんでした。
陣中を見回してもお姫様らしき姿はどこにもありません。
「ほ、ホモホモ言わないで下さい……さすがに……恥ずかしい……。で、でも先生っ僕っ……違い、ますよ……?」
「いやその反応YESと同じじゃん。そもそもなぜそんなに恥じらう必要あるし、怪しいし、俺のお姫様キャラ返せだし」
騙されたーーーーーー。
なにそれ今回の楽しみの一つがいきなりそがれたし。
公子様もまあキャラとして良いとは思うけど、やっぱり姫キャラあってのファンタジーっていうか……。
「ちょっとアレク! 失礼にもほどがあるでしょっ、それにかわいそうじゃないっ、バカっバカちん!」
「いいんです……僕、先生が望むなら姫にだってなれます! がんばりますからっ!」
あ、やっぱホモだこれ。
「ノーノーノーノー! それ違う、ソレただの男の娘。キャラとしては十分にありだけど、なんかその期待のこもった瞳がイヤ」
「確かに……このままの格好より、ドレスの一枚でも着込んだ方が変装になるかもしれません。そういうことですね先生!」
違うそうじゃない、そうじゃないんだマハくん……。
ああ思い出してきた、こんな生徒確かにいたかも。
恥ずかしいのかポッとその頬を染めて、何かを期待した公子様の瞳が俺を――ガン見。
「なんかもう、わけわかんなくなってきたじゃない……。変なこと言い出した責任取ってアレクが収拾つけなさいよっ!」
それは俺が期待した姫キャラとは似ても似付かない、なんか別方向のあかんやつ。
かわいいかわいい……姫じゃなくて公子様。
「何やってんだお前ら……」
「あっ、ダンピール先生! 聞いて下さいよぉ~、アレクサント先生が僕のことホモって言うんですよぉ~!」
そこに現れたるは自称俺の義父、ダンプ先生。
頼もしいその筋肉魔法使いが、慰めるように少年の背中をポンポン叩きました。
「こら我が息子、あんまり公子様をいじめるんじゃない」
「あらお久しぶりダンピール先生。まさか一緒に働くことになるなんてさすがに予想もしなかったわ」
「おう、しばらくだなリィンベル。ほら公子様、我が息子にいじめられたらこの子に言うんだぞ、こいつの弱点はエルフだからな」
なにその言い方、確かにエルフ大好きだしお嬢には頭上がらないけど。
ダンプ先生は嬉しそうに笑って、今度は俺の背中を豪快に叩いてくる始末です。
「痛っ、痛いっ痛いって先生!」
「よろしくなアレックス! 腕利きの助っ人が来るとは聞いてたが、こりゃ頼もしい! 父ちゃんにカッコイイところ見せてくれよっワハハッ!!」
「アンタは運動会に来た父親かっ! 痛っ、だから痛いって先生っちょっとっ!」
・
……とまあそんなわけで残念でした。
姫じゃなくて公子様なのでした。
それもやたらめったら、俺を憧れの瞳で、頬染めて見つめてくるタイプの……。
「先生……喉乾いていませんかっ、僕何か取ってきましょうかっ」
「や、大丈夫。つか公子様パシリにしたらさすがに人の目が辛いし……」
うん……そうだね、モテモテじゃん俺。…………あれぇ?
マハ公子は俺の隣を離れようとしません。
金魚の糞のようにぴったりくっついて、あの手この手で俺の気を引こうとするのでした。
ああ、これがもしお姫様キャラだったら面白かったのに……。
いっそホントに気分だけでもドレスを着せてみれば……。
「な、なんですか先生……? そんなに見つめられたら僕……恥ずかしくなっちゃいます……はぁはぁ……はぅぅ……」
や、シャレにならん。
万一目覚めたら取り返しの付かないことになる。
絶対この公子様、無自覚なだけで、ホモだし……。




