14-03 大公の秘密の依頼
「これにて式典は解散である。いささか残念な結果になったが仕方あるまい、諸君わざわざすまなかったな」
偉い出席者たちに徒労と無駄足ってやつを提供しちゃいました。
それを大公様が細かい気配りでじきじきにフォローして下さいます。
いやぁ……人が出来てますねぇこのおじさん、したわれるわけですよ。
「さあご両名、こっちだ」
ところでちょっと驚いたこともあります。
来賓も大公様も、そりゃもうぱっぱと謁見の間を立ち去っちゃいました。
来たときもそうでしたが、最低限の様式だけ守ってあとは利便性を優先してるみたいです。
これってこの大公様の趣味でしょうか。
彼はいっそう親しみを込めて俺たちを奥へと呼んでくれました。大公に手招きされちゃったよ俺。
「うむ、では付いてこい」
「ああはい、ちなみにどちらへ?」
「事は内密にして重大だ、なら茶でも飲みながら話そう」
なんか……大公様ったらやったらフランクにキャラが変わってます。
さらっとした口調で足取り軽やかに先へ先へと進んで行くもんですから、俺たちも慌てて後を追うことになりました。
「しかし面白い男だ! そうやって権力に執着せず、ただ己の生き方を追求する! その生きざまが気に入った、うむっ立場柄あこがれすら覚えるぞ」
「閣下、兄様はそんな立派なものではございません。悪く言えば自己中心的なだけです」
すると内庭に行き着き、白いテーブルにはもう茶と高そうな菓子が準備されていたのでした。
で、アクアトゥスさんが身もふたもない事実を言ってくれちゃいます。
「だが、なにも善行ばかりに縛られる必要もあるまい。……とは俺の立場で言ってはならぬのだがな、ハッハッハッ!」
「わーめっちゃ自然体っすね~、大公閣下~」
美味い茶をすすりながら話を進めます。
このお茶菓子がまた……すごく甘い。こんな髭ダンディなおっさんなのに甘党なんだろうか、ああ甘い。
「お堅いのは俺も好きではない。ああそれでだ、君に内密の依頼をしたい。悪いがどこに耳があるかわからん、もっとこっちに顔をよせてくれ」
「はいはい、こうですかね」
「失礼します……」
髭のおっさんと見つめ合いました。
そのプリチーな髭がヒソヒソ言葉をつむぎ始めます。
「近々……フリスティア連合国への輸送隊を送ることになっている。それに参加してくれ。どうも情報が漏れているふしがあってな……君が積み荷を守ってくれるなら安心出来る」
これまた錬金術の仕事とは逸脱した話です。
どちらかというと冒険者のお仕事に近く、しかも西への輸送なら道も発達しているので、本来は大げさな護衛は要りません。
だからちょっとおかしな話です。
「なにやら事情がありそうですね兄様」
「そうだね、通常ならただ護衛兵を増やすだけで良い」
思えばすっかりこの公都に住み着いてしまっています。
でも元々は交易商の父と、東西を無軌道に旅していました。なんだか遠く懐かしい気分です。
「ああ、もちろんそれ相応の理由がある。本音を言えば個人的なものも多々あるがね」
「光栄です。で、その事情とは?」
うーん……しかしここなんですよね。
なんでこの大公さん、俺のことここまで買いかぶってるんでしょう。
もうすっかり気に入られてる気がしますよ。
「ハハハッ、話が早いな。うむっ、どうも積み荷が狙われているのだ」
「なら中止にされてはどうです」
狙われたくないなら送らなきゃいい。
これ以上の回避策はない。
「中止には出来んよ。海を渡るとこの寄贈品が大きな富へと変わる。それだけあって連合国との友好や経済活動、航海スケジュールにも直結する。送らぬという選択は成り立たん」
「そんなものを兄に任せるのですか……ちょろまかしそうでアトゥは心配になります」
「いやいやアクアトゥスさん、なに根も葉もないこと言ってるの。……そりゃちょっとは考えたけど」
それはそうと、そんな富の塊を寄贈しちゃうんだからすごい。
羽振りいいねぇポロン公国。
豊かだからこそ、こうやって味方を増やさなければならなくなるとも言うけど。
「万一奪われれば大損だ。関係にも大きな傷が付く。そこで今回は輸送ルートを変え、ここより北東部の山道を越えることにした」
「初耳です……そんな道があったのですか……?」
「あるよ、俺も商人科にいたとき聞いたことがある。ただし、使ってはいけないルートとして教わったけどね」
道というものは生活に根付きます。
経済活動が無数の交易道を生み、安全な道とそうでない道に分けるのです。
「知っているなら話は早い。そこは魔物の住まう魔の山だ。ならば正規軍だけではなく腕利きの冒険者も必要になる。それも今回は情報漏れもある、よっぽど信頼の置ける人材でなければならないのだ」
「なるほど……それで兄様というわけですか……。ランクはまだ平凡ですが……ギルド切っての腕利きとも言えますから……。それで、どうされますか兄様?」
魔の山……いいね、本業とはずれるけど冒険心がそそられる。
いや考えてみれば一石二鳥かもしれない。
「うん、z次第かな。おいくらいただけるんです閣下?」
「もちろんぬかりはないぞ。君は飛竜素材をずいぶん糸目をつけず買い込んでいるそうだな」
「ええまあ必要なので」
「ならば大公家が所有する飛竜の財宝を与えよう。一般の流通路では絶対に手に入らない希少品だ。ギルドからの献上品でな、物は確かだ、欲しかろう」
報酬は超レア飛竜素材。
大公にも恩を着せれて、かつ久々の交易旅行を楽しめる。
「おお、なら喜んで! もちろんやりましょう! いやぁ~閣下ってばこんなに話のわかる人とは思わなかったです! 歳は離れてますけど、もうぜひお友達になりたいくらいですねぇ~!」
となれば色んな都合が合って現金になれちゃいました。
髭ダンディの手を握ってブンブン振り回し、ちゃっかりコンゴトモヨロシクと言い寄りましょう。あ、もう言い寄ってました。
「兄様……露骨過ぎます……」
「うむっそれは嬉しい。ならばうちの子とも友達になってやってくれ。なにせ最初に君を勧めてきたのはあの子だからな。実はこの輸送隊も、あの子が俺の代理として指揮することになっているのだ、ぜひ仲良くしてやってほしい」
え、大公閣下の子……?
つまりそれって……要するに……ざっくり言うと……あっ、姫じゃん?!
おおっおおーっ、おおおーーっ、ついに姫キャラ来るっ!?
やったー! これ急にやる気出てきたよっ、な~~んか物足りないと思ってたら……そうか姫だこれ!
ファンタジーなら姫様いないと話になんないし!
「はい喜んで! 全力で閣下のお子さんとお友達になりたいです俺! で、出発はいつです!?」
「ワッハッハッ、そう焦るな。明日の日没に集合だからまだあるぞ。俺としては話を受けてくれて胸を撫で下ろす気分だよ、よろしく頼んだぞアレクサント」
……以上、そんなワクワクな話にまとまったのでした。
ただの輸送任務ならともかく、これは楽しめそうな展開です。
さあ来い姫キャラ、この大公様並みの濃さでもむしろ大歓迎っ! 高飛車、男勝り、温室育ちの清純派っ!
もう楽しみで今夜は眠れそうもありません。一体どんな子とお近づきになれるんでしょうか。




