0-06 冒険科のアシュリーと初めてペアを組んだ頃のこと(挿絵付き
約二ヶ月が経ってその日がやって来ました。
出来る限りのことをしましたが、それでもまだ自分は未熟だと思います。
……でも、すっかりこの冒険科にのめり込んでることだけは認めます。
そりゃ現代人からしたら憧れですから。
魔法もビュンビュン使えるとなりゃハマりもします。
で、あれです、そう。
アシュリー・クリフォード。
実習は彼女とペアを組んで行う段取りになっています。
……うん、けれど問題がいくつかあったりするんです。
「アシュリーの居場所を教えてくれ、だと……?」
「はい、出来れば容姿についても大まかにお願いします」
実習は今夜行われます。
まだお昼なので余裕ですはい。
「まさか……まさかとは思うが……ああ、父ちゃんちょっと頭痛い……」
「勝手に父親を名乗らないで下さい」
「いや、いやまあそれはいい。よくないが。まそれは置いといて……まさかお前一度もアシュリーに会ってないのかっっ?!」
そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。
だって修練に忙しかったし、結果がっつり没頭出来てここまで仕上がったんだから良いじゃない。
アシュリーと接触しなかったのは、まあ、機会はあったがわざとだけど。
だってほら、この俺が先生一押しのみそっかすペアですよ~。
とか言えないし格好悪いじゃない。
「だから容姿と居場所を聞いてるんじゃないですか」
「……忘れてたわ。お前世慣れてるわりにそういう……変なところが子供っぽいんだったな。それが余計に息子としてかわいいんだが」
……話が長くなりそうだったのでざっと打ち切った。
先生は残念そうな顔をしたが、仕事もあるしいつもよりあっさり答えてくれた。
アシュリー・クリフォードはここ最近、訓練もせず図書室にいることが多いらしい。
ロールはファイター系職のエンハンサー。
自己強化に長じた万能型魔法戦士だ。
容姿は……。
くせっ毛の猫みたいな子。髪色は青紫。
このシーズンに冒険科生徒が図書室なんかにこもることはないので、まあわかるだろうだそうだ。
……じゃあなんでこの子は図書室なんかにいるんでしょう。
とか聞くと長そうだしいいや探そう。
・
図書室に入るとすぐにわかった。
確かに猫っぽいしくせっ毛だ。
ウジウジと逃避するように本へと目を向けている辺り、彼女以外にあり得ない。
この子がアシュリー・クリフォードだ。
「ええっと……ちょっといいかな」
そこで近づいて声をかけると、それは自分のことかとアシュリーがずいぶん鈍くこちらを見上げた。
近くで見てみると髪そのものは清潔だ。どうもくせは地毛らしい。
「え……。あ……あんたは……新入生のアレクサント……」
「うんそう。そういうキミはアシュリーだね、申し訳ないけど今夜の実習ではペアを組むことになってる、よろしく」
さてみそっかす様に対してどんな反応を示すだろう。
それ次第じゃ色々あって、その色々によってはめんどくさい。
「自分なんかと組んで良いんスか……?」
「……何で? いやそれこっちのセリフ……じゃね?」
あれーなんか予想外。
予想外の方向にめんどくさーい。
「ダンプ先生からは有望だって聞いてるっス。ド素人がたった三ヶ月で応用魔法にまで手をつけたって、職員室でも話題とか……自分とは格が違う気がするっス……」
「暗……っ」
「わかってるっスそんなの……」
でもダンプのおっさんはこうも言っていた。
若いのにもうエンハンサーの適性がすごい。
なかなか適性のある人間が見つからず、しかも魔法と近接両方を極めなければならないので最初は成長が鈍い。
けれど魔法による自己強化が出来るので、延びしろは遙かに大きい。とも。
「なんでそんな暗いんだ」
「自信が無いからじゃないっスかね……」
本を机に置いてアシュリーがくせっ毛をわしわしとかく。
少しずつ俺に興味を持ってくれてるのか、その暗い瞳に小さな好奇心が浮かんだ。
「じゃあ何で自信が無いんだ」
「……。それだけ周りが凄いんス」
その気持ちならメチャクチャわかる。
アカシャの家の冒険科は超ハイレベルだ。……外の学校がどうなのかは知らんけど。
「自分……最初はやる気いっぱいでこの学園に入ったっス……。憧れの冒険者になって故郷に錦を飾るんだって……でも皆凄過ぎるんス……おかしいっス……自信無くすっス……」
ああなるほど。
だからあの筋肉先生は彼女と組ませようとしたのか。
コレとお似合いだと思われたのか。
だがお生憎だったな先生、俺は慰めるとかめんどくさいことはしない。
「……なんスか?」
「何だろう」
彼女の隣から背後に回り込んだ。
当然俺の奇行に横目でアシュリーが振り返る。
「えい」
で、イスをいきなり引き抜くと。
「ぎゃぶっっ?! あだっ、な、何するんスかぁっ!」
無惨に図書室の床に倒れへたり込んだ。
「暗い。そういうの嫌い」
「暗くても別にいいじゃないっスかっ!」
「まあいいけど、今夜の迷宮実習ではトップ狙うからアシュリーも一緒にがんばって」
今夜の実習では訓練用迷宮を下る。
最下層かその手前まで踏破すれば間違いなくトップだ。
実際は回収した漂着物による採点もあるが……ペアだし早く深く潜るしかない。
「無理っスよ! 絶対自分っ足引っ張るっス!」
「大丈夫、俺ってこういうの慣れてるから」
ゲームでだけど。
「どういう根拠っスかそれっ! ま、マジで狙うんスかっ?!」
「うんマジマジ、マジっていうかダメ元?」
下調べは終わってる。
後半1ヶ月はこの実習用迷宮に特化させて訓練した。
入場制限ってシステムもそうだけど、この迷宮ってヤツにはゲーム的なルールとセオリーがあるのだと。
「……ダメ元って、一気にハードルが下がったっス。ああもうわかったっスよ、自分の負けでいいっス。せめて足だけは引っ張らないように努力して……アレクサントくんにトップ成績をプレゼントしてみるっス!」
なんか知らんけど元気になったみたいだ。
勝算も上がったし幸先が良い。
「じゃあよろしくねアシュリー。俺のことはアレックスでいいよ」
「わかったっス! このアシュリー、ダメ元でアレックスくんの命令に従うっス! もう、やけくそっスよ!」
打ち合わせが終わると俺たちはそれぞれの部屋に戻った。
今夜のためにしっかりと身体を休めて、ダメ元の大冒険に備えた。
ああわくわくが止まらない。絶対にいける、絶対にトップを取って見返してやる!