2.俺たちが地球の英雄
地球では考えられない、どこに行っても気味の悪い惑星、そこでの初めての任務は先輩たちの仕事ぶりを後ろで見ることだった。
とは言っても難しいことは何もなく、8歳の少年からデータの回収、渋れば殺しても良いと許可が降りている簡単なものだった。
恐怖に打ち震えるこの少年は、おそらく何も知らない。
俺たちのことも、父親も、データの中身も。
悪いとは思うのもつかの間。
そのデータが、俺たち地球人を救う鍵なのだから。
しかしこの日、俺たちは楽勝だと高を括っていた任務を、ものの無様に敗北に収める。
初めての任務、威嚇こそはしても手出しはしないものだったが、地球、家族、友人を守るため、色んな思いを抱えながら臨んだこの任務。
データの回収が俺たち地球人の勝利の第一歩。
そんな貴重な場に立ち会える喜び。
人一人の命を奪うことを小さな犠牲とし、自分たちを正義と信じて疑わなかった。
『報告書』
ジン・キノシタの死亡を確認。
しかし、データは所持しておらず、任務失敗。
無機質な紙に印字された通り、少年は理由もなく死に、俺はただの人殺しになった。
ジン・キノシタ。
死体は、彼が追い詰められ死んだ場所である生ゴミのような臭いのする路地裏に置いていった。
コートとマスクと一緒に。
先輩たちの顔は、今でも脳裏に焼き付いている。
決して明るくはなかったその表情は、まだ幼い少年を殺したことから沸き上がる罪悪感故ではない。
単純に、任務失敗によるペナルティと時間のロスを疎ましく思っているだけだ。
これが、人を殺した後の顔なのか。
先輩たちからは、
正義も
悪さえも受け取れない。
俺を正気に戻らせるには、十分過ぎる衝撃だった。
こんな人たちが、こんな人たちを、地球のみんなは正義の名の元に集った英雄と呼ぶ。
そして俺も、さっきまでは先輩たちと全く同じだった。
あの少年が死んでも仕方がないと思っていた。
データが無ければ、俺たちに未来はない。
けど、だけど、それでも
この人たちを見てると虫唾が走る。
眉間に皺が寄り、首周りは熱くなり肩が震える。
腐ってやがる。
俺は、俺なりの正義と使命感をもって、血反吐に塗れる訓練にも厭わずに耐え抜いてきた。
こんなことのためじゃない。
先輩たちのように、意思を持たず言われるがままに動く残忍な殺人鬼に成り下がるためじゃない。
血の気のない少年の横に、ペンダントを置く。
ジン・キノシタ。
本当にすまなかった。