表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1.おめでとう、さようなら

「お願い....撃たないで」


枯葉を踏んだ時の様にカサカサのかすれきった音が、青白い電灯に照らされた空間に、響くことなく溢れ落ちる。

訴えかける度に口の端はピリッと痛み、ついには口内に鉄の味が広がり、しずくのどを伝う。

拭うと手の甲が一瞬の暖かみの後、声同様にかすれた黒に染まる。

これ、地球の“習字”っていう文化に似ているなぁ。

碓か黒い液体を細いブラシに染み込ませて文字を書くんだっけ。


黒く見えるだけで実際、僕の手の甲は赤いのだろうけど。



黒のトレンチコートにマスクの集団に追われ始めたのは数分前。僕はあっけなく人通りの少ない生ゴミのような悪臭が鼻を突く路地の壁際に背をつけた。

何人いる?

5人?7人?

それとももっと?

逃げられる隙間もない。


マスクで顔こそは見えなかったが、ぶれることなく皆一様に暗闇でも見えるほどに光った銃の照準を僕に向ける限り、無表情できっと撃つことに抵抗は無いのだろう。否、


僕を殺すことに


戸惑いも


慈悲じひの気持ちも


微塵みじんも抱かない人達なのだろう。




「撃たないさ」


冷え切った男の声と使い古しのタオルのようにじめっとした路地の空気がいかにもといった雰囲気を醸し出す。


「ただし、君が父親から預かっているであろうデータを渡してくれさえすれば、だが」


「データなんて僕、知らないんだ!本当に本当に知らない!!だからっ」


「旧地球人、ジン・キノシタくん。碓か君は、昨日8歳になったんだってね。おめでとう」


臓器がせり上がるような嫌悪感。

殺そうとしている奴らが、僕の必死の叫びを遮って誕生日を祝うという状況が、不釣り合いで気味が悪くて....


なぜ、奴らは僕のことをよく知っているのだろう。


背中に硬く冷たい壁を感じながら、乾く口内を湿らそうと必死に唾を飲み下す。

何か言わなきゃ、なんとかしなきゃ。

鈍器で殴られたように警報がぐわんぐわん脳内に鳴り響き、目眩がする。このままじゃ、本当に僕....






「時間切れだ」




パーン!!!


大きな風船が破裂したような音だな、とか、そういえば父さんには長いこと合っていないな、とか、血を噴き出し宙に浮きながらふと考えたのはそんなこと。


破裂したのは風船じゃなくて、僕の体内だった。



本当に僕....殺されたじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ