幽霊機械
二話目です。
指摘、アドバイス、罵倒があればよろしくお願いします。
ある少年の話をしよう。
少年は生と死を彷徨っていた。
少年はある組織に襲われ、瀕死の重症を負ったのだ。少年はまだ16であった。これから大人になり、社会へ出て希望や夢を追えようとする前に死んでしまうかもしれないのだ。
だが少年は生きた。いや生かされたのだ。組織にいる科学者に。彼はこの少年を助けたかった。だが、それには全身を機械に変えなくてはいけなかった。組織は命令した。少年をマシナリーの実験台にしろと。彼は逆らえなかった。彼は少年を改造手術を実行した。だから少年は生きてる。だがその身体には親からもらった肉体、内臓、顔、骨…脳の一部以外は機械になったのだ。
少年は目覚め、身体、顔を見た。動揺は隠せなかった。
「これの顔……身体は俺なのか。」少年は己に刻まれた肉体を見た。
それは以前の少年では無かった。全身はシルバーを主にし、赤と青のラインが入っていた。
科学者は彼の二の腕を掴み泣きながら言った。
「すまなかった……許してくれとは言わない。私を恨んでくれ!」
科学者は己を呪った。恨んだ。少年は心を魂までもが失ったように感じてしまった。
博士は組織から脱出を目論んだ。この力を組織に使わせない為に、組織の存在を世に知らせる為に。
だが、組織はその計画に気づき、彼らを捕らえようとした。
貴重なマシナリーだ。逃すわけには行かなかった。それにより、組織はサイボーグを5人、彼等に仕向けた。
少年はまだその力を扱えてはいなかった。身体を自由に変えられないのだ。
普段は元の人の姿になり、博士が開発した変身機によりマシナリー本来の姿になっていた。
だが彼等は脱出をしていた。例え少年がマシナリーでも本来の姿では無かったら力は存分に発揮できない。だからといって変身機はかなり大物だ。とても持ち運べないのだ。
少年達はサイボーグに囲まれた。
少年は挑んだ。だが手も足も出ない。
サイボーグの一人が銃を少年に向けた。ふざけているのだろう。マシナリーだから死なない。だが痛みは走る。そのサイボーグにとってそれを見るのが快感なのだ。
そしてサイボーグは撃った。だが当たったのは博士だった。庇ったのだ、大切な息子を。自分を改造して恨むべき人をまるで父の様に慕ってくれた。博士はその少年を庇った。頭の中では分かっているのだ。マシナリーがそんな事では死なない事を。だが、それでも息子が傷つく所を見たくなかった。
博士は倒れた少年の目の前で倒れた。力無く、フワリと倒れたのだ。それを見た少年の機械の身体は消えかけた精神はそして失くしたはずの魂は吠えた。そして変わった。本来の姿に。
結果は残酷なまで圧勝だった。マシナリー5体はもう誰が誰で何処がどのパーツなのかわからないような姿になっていた。少年は倒れた博士を見た。
博士は力ない声で伝えた。
「ある組織にいる………娘を……あの子を組織から……頼む………息子よ。」涙を流しながら、口から血を流しながら言った。
息子はその言葉を聞き、頷いた。
博士はその少年の顔を見て死んだ。
これは初まりである。
マシナリーと人による、戦いの。
壮大な大戦争の話のプロローグである。
朝の7:40……時計のアラームが鳴り響く。疾鷹は時計のボタンを押し、アラームを止めた。
ここは日本の首都ナゴヤで第8区の綾小路キングダムというふざけた名前の寮である。疾鷹はそこの住民で88番の部屋に住んでいるのだ。
疾鷹は部屋の隅のベッドで考え事をしていた。それは夢。それは過去であり、変えられない事実。そしてそこから人間ではなくなった時。そして第二の父が殺された時の夢であった。
第二の父の名は石ノ森博士。電子機器、人工知能、人工筋肉、など身体が不自由な人の為に研究を進めてきた科学者だった。
だが、組織に誘拐され、博士は人を殺す兵器を作らされてきた。それがサイボーグを超えた機械人間マシナリーだった。マシナリーがまだどういう物なのか、マシナリーである疾鷹も分からずにいた。ただ分かるのは組織をあのまま放って置くにはいかない事だった。
そんな事を考えてると隅のベッドの横にあるテーブルの上にあるノートパソコンから通信音が聞こえた。
疾鷹はパソコンを開き、通信音に応答した。
「ハァーイ。お目覚めかしら?ジン。」
そこに映るのはレン博士であった。
「朝から何の用だ?」寝起きで過去の事を考えていた疾鷹は不機嫌ながらに聞いた。
「今日は貴方のメディカルチェックよ。言ってなかったかしら。」レン博士は机の上に肘を乗せ手の甲の上に顔を置いた。
「そうだったな……今行く……」そう言って疾鷹は通信を切り、支度し始めた。
あの事件から三日が経っていた。学校では翌日から授業を始めて何事もなかったように過ごさせた。
クラスメイトも重症を負った生徒以外は普通に授業を受けていた。
近年、こういうサイボーグによる事件は特に珍しいことでない。ただ犯人は元軍人や兵隊の兵士によるほぼ立てこもりが多く、負傷者やあういう大袈裟な行動は起こさなかったのだ。
だが今回は違う。軍に属する者ではなく、何処からその身体を変えたのか、誰に殺されたのか、目的がなんなのか、それが全くの謎になっていた。
疾鷹は支度を終え、部屋から出ていった。
彼はこの三日間ナゴヤの地理を覚える為にマシナリーになり、高速移動をしながら記憶をしていった。本来の人間の脳なら覚えられないが彼は脳をほぼ改造され、その部分は記憶や物を覚える場所であった。そこは脳ではなく電子機器に変えられ、すべて見た物、聞いた物を覚える事が出来る。
一時間後、徒歩でニューナゴヤ駅に到着した。
駅と言っても走ってるのはもう電車ではなくリニアモーターによるモノレールのような物である。
疾鷹は駅の外側にあるこの時代にはとても似合わないダイヤル式電話の目の前なはたった。
そしてある番号を入れ、受話器を耳に傾けると。
「もしもし何方様でしょうか?」受話器から機械で加工された声が聞こえた。
「すまない。番号違いだ。」疾鷹はそういうと突如床が抜け、疾鷹は落ちていった。
まるでスパイ映画だな。と疾鷹は落ちながら思った。実際落ちるというよりも滑っていると言った方が正しいのだろう。
光が見えてきた。出口を抜けるとそこには約12000人の人がパソコンを使い、また仕事をしているように見えている。疾鷹はそれを見ながら、先へ進んで行く。そこにはラースと奥田そしてレン博士がいた。
「あら?速かったわね。もしかしてランニングしながら来た?」レン博士はクスクス笑ながら、顎に左手の親指と人差し指を挟み、右手を左肘を支えながら立っている。白衣を着ており、その露出している褐色の肌は美しく本人も自覚しているその魅力な身体はここのスタッフを魅力している。
ラースと奥田、疾鷹を除いて。
「…歩いてきた。」疾鷹はそんなことよりもう少し露出を控えろよと目線を送りながら言った。
「何?その生意気な目?メディカルチェックの時に痛い目にあいたいの?」
「何でもない。」こんな調子である。
ラースと奥田はこんな雰囲気を毎回目にしてたせいで慣れている。
「早く案内させろ…ったくなんでわざわざ俺たちまで立ち会わなきゃいけねぇんだよ。」ラースはうんざりした口調で溜息をついた。
「そうね。付いて来て。ドイツの所とは、形が変わっていて場所が違うから。」レン博士が振り返り、右手でカモーンとジェスチャーしている。
疾鷹はラースと目を合わせ、軽く一礼してレン博士についていった。
「先輩ー結構慕われていません?」奥田は意地悪そうな顔で聞いた。
「形だけだ。しかも俺は機械人形が嫌いだ。それはあいつも例外ではない。」ラースは目の奥に疾鷹に似た後姿を見つめている。自分の大切な物をすべて奪った者を。
奥田はやれやれと肩をすくめ、ラースと共に自分達の部隊ウルフのメインスペースへ向かった。
疾鷹とレン博士は廊下を歩いていた。他のスタッフが歩いてたり、パッドを見せながら話し合うスタッフもちらほらいた。
疾鷹は信用する人以外は基本必要な事は話さない。
意味がないと分かっているからだ。
だからこの組織からは浮いてる存在になっている。
ただでさえ、この化け物みたいな身体を持ってその上無口なら浮くのは当然だ。
しかし、疾鷹はそんな事気にしない。
意味がないからと思っているから。
そんな無口の疾鷹が
「夢を見たんだ。」突然レン博士に歩きながら言った。
「俺があいつらに襲われ、博士に改造手術を受け、博士とともに脱出を計画し、そして博士が殺されて初めてあの姿になったあの日の夢を…。」
疾鷹の顔に影が出てきた。
レン博士は聞いていないのかなんの表情を変えずに、前を向いて歩いている。
「もうあれから一年か。あんたの親父が亡くなったのは。」
疾鷹は彼女の顔を見ず、ただひたすら話す。恩師…親父の娘に向かって。
「あの組織が何を考えているか分からない。だが、これだけは言える。このまま放っておけば世界が再び大戦を起こすことになるのは。」
疾鷹の赤い目には微かに炎があった。
とても小さいが消える事のない炎が。
疾鷹はヒーローではない。世界の為に、人類の為に戦うわけではない。
疾鷹は復讐するのだ。己の肉体と親父の為に。
「分かってるわよ。」
レン博士が初めて口を開いた。
彼女は少し速足になった。
「あいつらを叩き潰さなきゃ世界が終わるなんて分かってる…だからこそ、貴方はこの組織に入ったのではなくて?」
「私は父の為に、そしてこれ以上犠牲者を出さない為にも……ね。」
彼女は歯を食いしばり、その顔にいつもの妖艶で美しい姿はなかった。
怒りと悲しみをもった切ない顔を見せていた。
彼らは歩いた。
これから先、地獄を見る事を知っていても進む覚悟を。
そして必ず、潰すと…誓って。
メディカルチェックは実に簡単だった。チェックマシーンという四角い昔懐かしい電話ボックスみたいな長方形の物に入ればあとは勝手に検査されるからだ。
チェックが終わり、あとはレン博士の診断待ちの時。
彼の携帯から電話が掛かってきた。
彼の携帯には数名の電話番号とメールアドレスしかなかった。
必要ないからだ。
彼は携帯を見て少し、驚いている。
携帯の画面から見えるのは浅野 舞と見えている。
浅野はあの二日でほぼ無理やり疾鷹と携帯のメールアドレス、電話番号を交換してた。
仕方ないから電話に出る。
「はい、疾鷹ですが。」丁寧な口調に戻し、真面目で優等生な疾鷹にすぐに切り替えた。
「あ!!疾鷹君!!今いい?」
浅野は相変わらずテンションが高い。
いや、これが彼女の普通か。疾鷹はそんな事を思いつつ
「ええ、いいですよ。何かようですか?」
「実はね、午後から一緒に遊ばないかなーって。」
なんだよ…なーって。と思いつつ。
「うーん。少し遅くなりますけど行けれると思い「分かった!!!じゃあ、午後1時半に喫茶店のジュネスで!!!じゃね!!」
ここで電話が切れた。
疾鷹は携帯をしまい、こう思った。
何で彼女に話をかけてしまったのか……疾鷹はため息を吐き、まるで人のような感情を出していた。
その時疾鷹のいる部屋にレン博士が入った。
「あら?女の子とデートの約束でもしたの?」レン博士はニヤニヤして言った。
「ブッ⁉」疾鷹は吹いた。部屋は防音だし、ましてや携帯からだ。声とか漏れるわけはないと思ってたいた。
「汚いわね。カマかけただけなのに、ウブね。」レン博士はニヤニヤと憎たらしく言った。
「わ、悪かったな。」疾鷹は顔を少し下に向き、左手で髪をチョイチョイといじった。
「まぁいいけど。結果が出たわよ。まぁ正常ね。特に異常な所は見られなったわよ。」
レン博士はニヤニヤからキリッと仕事の顔になった。
疾鷹も同様だ。
「そうか。」軽く言った。
「前にも言ったけど、貴方は機械人形じゃないのよ。そこんじょそこらの。」レン博士は疾鷹の目を見て言った。
「マシナリー…貴方の身体は一般的から見ればサイボーグと思われると思うけど、それは大きな間違いよ。」
疾鷹は黙って聞いた。
「サイボーグは鋼を主に用い、現在の戦車とも互角にやれる能力がある。まぁ頭によるけどね。
だけどマシナリーはそれを遥かに超えた物よ。戦車なんか100機あっても足りないくらいに。
何故ならその身体はマシナリウムという特殊な鉱物を使っているからよ。」
レン博士は言った。
この時代は金、ダイヤ、銀などの鉱物はあまり価値はない。だがそれは一般的な物だ。軍にとってはそれはまさに宝なのだ。そして約20年前ある鉱物が発見された。未知なる力を持ち、謎が多いそれがマシナリウムだ。
疾鷹の身体はそのマシナリウムによって構成されている。
「まだ大きな違いはあるけど、とにかく貴方はそれだけの力を持ってるし、それを自在に使えるわ。だからこそ、その力の使い方を間違えないでね。」
レン博士は厳しめに言った。
はっきりいってレン博士はマシナリーは人にあまり過ぎる物だと考えている。
あり過ぎる力は人に害をなす。
それはいつの時代だってそう。
原爆が代表であろう。
あれこそまさに科学が生み出した力。
だがそれは誤った力だ。
人を一瞬で亡くし、その土地のすべてを奪う。
まさにマシナリーは原爆だ。歩く原爆なのだ。自我を持つ原爆なのだ。
「分かってるさ…あの日から分かってた事さ。」疾鷹の顔にはとくに変化はない。だが身体が少しばかり震えているのがレン博士から見えていた。
彼はまだ少年だ。
その少年の一振りで人、D級サイボーグ、車なんて物は簡単に壊れるのだ。
この少年の未来にはすでに希望はないかもしれない。だがそれでも進む、守る物を守り、奴らを叩き潰すために。
それが疾鷹 仁という"マシナリー"だ。
用が済み、基地から出た疾鷹は浅野と約束した場所へ向かった。モノレールに乗り約5分、そこから徒歩10分ほどで喫茶店ジュネスに着いた。喫茶店ジュネスは普通の喫茶店である。室内の木製に見たてた壁やカウンターは雰囲気は出すのに素晴らしい物だし、マスターの出す特製ブレンド珈琲は中々の味だ。
しかし、客が少ない。
原因は隣にある大手喫茶店のせいだろう。しかもこちらが後から建てたという。
マスター曰く「あんな喫茶店に負けるわけねぇだろ!!こっちは最高の豆に料理を出しているからな!!!」
マスターは笑いながら言った。
この人は経営向かない人だなと疾鷹は思った。
疾鷹は店内を見渡してると
「疾鷹くーん!!こっちこっち!!」
四人組が座るテーブルにいた浅野が立っていて手をブンブン振っていた。苦笑いをしながら近づいた疾鷹の目線にもう二人…見知らぬ二人だ。「さぁさぁどうぞ!どうぞ!」
両手を椅子に向けて笑顔で向けてる浅野にしたがって座ると二人が女性だと確信する。
「あ!紹介してなかったね。左にいるのが美玲 美結ちゃん、で右にいるのが
兎鶴 愛ちゃん!!二人とも私の親友なんだ!!」浅野は疾鷹ににこやかに言った。
疾鷹から見た左の美結は黒髪で後ろで髪を結んでいるのだろうか。まとまっている。そしてこちらを軽く睨んでいるような黒の目を見た。
「美玲だ……よろしく。」少し小さな声だが声色が綺麗でとても聞きやすかった。
そして右の愛は少し茶色が入った髪でミディアムぐらいの少しパッツンめの髪型をしていて、おっとりな目でこちらをみている。
「愛だよ〜。よろしく疾鷹君。」愛は笑顔で言った。
「そして!!!転校生の疾鷹 仁君!!!」と大声で叫ぶ浅野。
他に客が居ないのが幸いだろう。
「舞、煩い。」美結が珈琲を飲みながら冷静に言う。
「え〜美結ちゃんテンション低いよー。」浅野は美結に言った。
「彼の事は聞いてるよ。私よりも勉強が出来るって話を嫌ってほど聞いたからな。」美結はこちらを睨んだ。どうやら美玲 美結はこちらをライバル視してるようだ。疾鷹は困った顔をした。別に男なら睨み返すとか出来るがそれが女だと出来ない。何故だろう…疾鷹はこれが一番の短所だと思ってる。
「ところで一体何をしに?」疾鷹は美結の視線を避けつつ、浅野に聞いた。
「あぁ!!忘れてた!!」浅野は叫んだ。どうやら珈琲でハイになってるらしい。
「じつは……歴史の小テストがあるから一緒に勉強しないかなーって……」浅野は一気にテンションが下がった。
浅野は勉強が苦手らしい。
特に歴史が。その中、小テストを作る事に定評がある小野先生が明後日小テストを行うと予告したのだ。
因みに小テストで半分間違うと居残りらしい。
「そこで!!勉強の出来る美結ちゃん頼みしたのだけど………」
浅野は美玲をチラッと見る。
「私は歴史が嫌いだ。」美玲は言った。
「あはは、美結ちゃんストレートすぎるよー」愛はにこやかに言った。
「だから疾鷹君に頼んだってわけ!お願い!!勉強教えて!!」浅野は疾鷹に拝んだ。
疾鷹は迷っていた。これを断っても暇であるが、これを受けても面倒くさいだけだと……だが、歴史なら……まぁいっか…。
「いいですよ。今日暇ですし。」疾鷹は笑顔で言った。
これは演技なのか本心での笑顔かは自分でも分からなかった。
疾鷹はジュネスから出ていた。見られている、誰かに。疾鷹はジュネスにいる時に誰かに見られている事に気付いてた。窓側から一瞬だがレンズの光がこちらを見ていた事を確認していたのだ。疾鷹は浅野達に先にちょっと買い物済ませてもいい?と誤魔化し、外に出て確かめる事にしたのだ。もしあの組織の連中ならどうする…内面からふつふつ燃えるのは殺意と復讐の怒り。だが力は使えない。道路には車を始め、人が多い。朝は人が少ないからいいものもこれだけ多いと流石にマズイ。ここはひとまず遠回りから向かうか………疾鷹は走った。人間の平均よりも速めの速度まで加減しながら。
レンズの光が見えたのはこの辺りだ。
疾鷹は周りを見渡した。なんて事ない住宅街、奴らにしては少し不用心でやり方が下手だ。疾鷹はレンズの光った位置を予測してある家を見た。そこはちょうど喫茶店ジュネスに直面してる。そう十字の道路のお陰で見やすいのだ。
疾鷹はその家を見上げるとその家の二階のベランダの先からキラッと光った。やはりここか。疾鷹はその驚異的な足を使い、一気にベランダへジャンプした。約8mはあろう。だがそんな事関係ないのだ。マシナリーにとっては。そこにいたのは車椅子に乗り、ちょこんとしている少女であった。
ちょこんとしている8歳くらいのピンクの髪色のロング、顔は見る人が見れば天使のような容姿であった。そんな少女とベランダに着地した疾鷹は目が合う。窓を少し開けてあり、そこから望遠鏡で覗いていたようだ。
「君が…俺を見てたの?」ようやく口が開く疾鷹。無理もない。拍子抜けだ。あれだけ、組織の仕業だと思ったら犯人はこんな少女だったのだ。
「あぅ……ご、ごめんなさい…」少女は下を向いて謝った。
疾鷹は近づいて望遠鏡の正面にしゃがみ少女に聞いた。
「どうして俺達を見てたの?」疾鷹の顔に影は無く、また怒りという表情が無い。少女はそれに気付いたのか。
「お兄ちゃん達がお勉強してたのってレキシだよね?わたし、将来コウコガクシャになるんだ!」少女の顔から笑顔が溢れた。
どうやら話を聞くと、天性の下半身マヒにより自由に外へ出れなく、仕方が無いからこの望遠鏡を使って色んな人を観察してたらしいのだ。
「そうだったのか…ごめんね。怖い思いさせて。」疾鷹はしゃがみながら謝った。
「うんうん。いいよ。お兄ちゃん優しいし。」少女は言った。
「そうか。ありがとう。将来考古学者になるのか。お兄ちゃんもね、同じ夢なんだ。」
「そうなの!じゃあわたしがおおーきくなったら、一緒に色んな遺跡とか行って探検しようよ!!」少女は手を上げ万歳をした。
「うん。その足が治って君が大きくなったら行こう。」疾鷹は言った。
「まだ手術とか出来ないけど、うん!約束!!じゃあ指切りね!!!」
「うん。」疾鷹と少女はお互い小指を出し、少女の手が窓から出る直前。
「おい!!!そこで何をやってる!!!」いきなり少女の部屋のドアが空いた。
「おい!そこのお前!どうやってベランダにいるんだ!!娘から離れろ!」
黒ブチのメガネを掛け、超ショートヘヤーの30代くらいの男が少女の手を握った。
「あ、いえ、俺は……すいません。すぐ出て行きます。」疾鷹はすぐに立ち、少女の方へ振り向きながらベランダの外側へ行った。
「パ、パパ!!お兄ちゃんは悪い人じゃないよー!」少女はその男の袖を掴み、揺らした。
「お兄ちゃん!!!約束!!!守ってね!!!!私の名前は絵里!!!!小野田絵里だから!!!!」少女絵里は疾鷹へ叫んだ。
「うん。約束!必ず守るよー!!」疾鷹は少女へ言った。
そして疾鷹はベランダから落ちていった。
「なっ⁉まさか!そこから入ったのか!!全くなんて無茶な奴だ!!!」少女の父は望遠鏡を持ち、窓を閉めた。
「パ、パパごめんなさい……知らない人に声掛けて。」少女は謝った。
「パパの方こそ、いきなり叫んでごめん。今度から気をつけるんだよ。じゃあ仕事に戻るよ。」小野田は絵里の頭を撫で、部屋を出て行く時。
「パパ…私治るよね。この足……」少女は手で足を撫でた。この足が治れば学校へ行けれる、友達が出来る、友達と遊べる、もっと世界が広くなる。だけど少女にはそれが8年出来なかったのだ。いくら医療が進んでも治せないものは必ずある。それを物語る。
「大丈夫さ。必ず治るよ。だからもう少し我慢出来る?」小野田は少女に近づきしゃがんで言った。
「うん!!!」少女は満面の笑みで言った。
一方喫茶店ジュネスでは疾鷹が抜けた浅野達が女子トークで盛り上がっていた。
「えぇー!!!優ちゃん彼氏できたのー!!!」浅野の大声がジュネス中に広がる。
しかし、他の客がいないからそんな事きにしてない浅野だ。
「そうそう。彼女中々奥手だったのにね。」と少し羨ましいそうに言うのは美玲だ。
疾鷹にはあんな冷たい態度をとる美玲だが、浅野、愛には本当の自分を見せているようだ。
「わぁ〜彼氏か〜。」おっとりとした口調でチョコケーキを食べているのは愛だ。
よく天然とか呼ばれているがそれも案外間違いではないのだろう。
そんな仲良し三人娘はある話題に入った。
「そういえばこの辺だよね?例の都市伝説。」浅野が切り出した。
「あぁ、この道路には出るっていうやつか。」美玲が珈琲を飲みながら言った。
「チョコケーキ美味しぃ〜」とりあえずチョコケーキを食べる愛であった。
「うん。不定期らしいけど瞬間霊が出て事故が起こるっていう都市伝説。確かこの辺じゃなかったっけ?」
「ふむ。……小さな女の子がいきなり出て……だったか。ま、私はそんな物は信じないがな。」
「チョコの甘さにほんのちょっぴりのビターの苦味が合わさって……おいしいよ〜」これは彼女達の日常だ。
友達、親友と呼べる人と話し、仲を深め、もっと絆を強くなる。
それは純粋と言う物しか見てこなかった彼女達ができる事だろう。
浅野を除いては。
午後4時…ジュネスへ戻った疾鷹は先と同じく浅野に勉強を教えていた。浅野自身あとは自分でやれるよ!!と豪語して今日のお勉強会はおしまい!!!と言いきったのであった。
「はぁ…大丈夫ですか?」疾鷹はもう少し教えたそうに言った。その理由はあの絵里と出会ったからであろう。同じ夢を持つ者を知り、意気投合し、そして約束をした。だからこそ彼は今張り切っているのであろう。
「へへへ…疾鷹君のお陰で明後日の小テストは完璧だよ!!」浅野はエヘンと言いたげな顔をした。
「うむ…君は教えるのが上手だな。もし私がもし分からない所が君に教えてもらおう。」落ち着いた口調で姿勢正しく言ったのは美玲だ。どうやら疾鷹という人間性を何処か感じたらしく、最初のような冷たい態度はとらなかった。
「疾鷹君ありがとね〜。」相変わらずマイペースを貫きとうしたのは愛だ。
これには疾鷹も呆気を取るしかなかった。
ジュネスを出て浅野達と別れた疾鷹は自分の寮へ帰っていった。
浅野達はこのあと本屋へ行く予定らしい。
だが自分には関係の無い事だったから帰る事にした。
疾鷹は歩きながらある事を思った。
そう、絵里の事だ。あの子は純粋でいい子だ。純粋そのものだ。あんな子が多ければ少しはこの国も変わるんじゃねぇの?と身勝手な考えをしてた。
その時プルルプルル…携帯の着信が来た。どうやら相手はレン博士らしい。
疾鷹は電話に出た。
「もしもし、何か用か?」
「あるわよ。かなり重要な。」レン博士は言った。
「貴方…今日小野田家に行ったわね?いい?これは命令よ。彼を保護しなさい。今すぐ。」意味が分からない。小野田とら誰の事だ。疾鷹は聞いた。
「知らないの?貴方の携帯の位置情報を探ってみたら小野田家に行ってる事になってるけど。」それを聞いた疾鷹は気づいた。あの子だ。絵里の家の事だ。そういえば苗字聞いてなかったな。
「あぁ…思い出したよ。だけど何故だ?彼を保護するとは。」
「彼はある分野では権威よ。」
「ある分野?」
「ホログラムって知ってるわよね?彼…小野田はそのホログラム研究の中じゃカリスマ的存在よ。」
ホログラム…簡単に言えば映像の事だ。映像といってもテレビみたいに平面ではなく、立体に見えるのだ。小野田はそれの研究者であった。何でも彼が作るホログラム装置は物がほぼそこにあるように見え、また彼が作り出す映像は幻想郷と評価され、人から幻想作りと言われているらしい。
だが、たかがホログラムの科学者を保護する理由が分からない。
「だからって何故保護する。ホログラムなんてたかが映像だろ?」
「ええ。そうね。だけどそのホログラムを何故かあの組織が狙っているという情報が入ったわ。」もっと意味が分からない。
組織がホログラムなんて使って何をするのか。分からないのだ。
「訳が分からん………」
「そうね。彼にそんなメリットないのよ。彼を狙う理由もないのよ。それに彼は今"独り身"だし。」
疾鷹は固まった。聞いてはいけないような…まるでパンドラの箱のような言葉を。
疾鷹は耳を疑った。聞き間違いかもしれない。きっとそうだ。
「なぁその小野田って独り身じゃないだろ?」疾鷹は聞いた。
「はぁ?だから独り身だって言ってるじゃない。」疾鷹は愕然とした。その言葉を聞き、では絵里は?あの子は?あの子は何者なのだ。娘では無いのか?
「おい、小野田には娘がいるんじゃないのか?妻も。」疾鷹は聞いた。間違いなんだと信じてるから。
「彼は今独身よ。貴方…何を言ってるの?」
「そんな馬鹿な⁉ふざけるな!!俺は小野田の娘と会ったぞ!話もした!!俺は見た!!!」疾鷹は言った。これが事実だ。と言わんばかりに。
「待って…貴方本当に小野田の娘に会ったの?」レン博士は何かを感じた。
「あぁ…今は8歳で天性の下半身マヒで今手術を待ってるはずだ!!多分小野田って奴が有名ならナゴヤ大病院に何かしら残っているはずだ!」疾鷹は言った。事実が幻想に変わり始めたから。
「分かったわ……ちょっと待ってね。今手術バンクに小野田の娘を調べているから…………」レン博士はパソコンのキーをカタカタと押しながら言った。これはハッキングである。だがそんな事関係ない。
「ねぇ。聞いて欲しい。その下半身マヒの手術バンクに小野田って苗字の人はいなかったわ。」レン博士は言った。それは今どんな言葉よりも疾鷹にとっては重いだろう。だが
「ついでに小野田の経歴を調べたら………落ち着いて聞いて。確かに家族は"いた"。だけどもういないのよ。その家族は。」先の言葉を一瞬で無くす程の痛み…心の中の痛みが稲妻の如く走った。そんな事……嘘だ。この言葉を言いたい。今すぐに。だが言えないのだ。
「三年前、交通事故で車に轢かれ妻と娘は亡くしてるのよ。そこから彼はほとんど家に篭りっきりらしいけど。」レン博士は悲しく言った。今、疾鷹はかなりのショックを受けているはずだ。そんな状態にさらに追い打ちなんてかけたくないのだ。
「ねぇ。聞こえている。まだこれが事実とは限らないわ。貴方が見たその娘は本物かもしれないわ。だから早く小野田の保護を…………」パァン…
銃声が聞こえた。一般人は皆気づいてない。それだけの距離らしい。疾鷹はそれを見逃さなかった。人間の何十倍もの視力、嗅覚、聴覚を持つマシナリーだから。発砲音の位置に集中してたから。そこが絵里の家の方角だからだ。
疾鷹は電話をすぐに切りあの家へ向かった。ここでは変われない。あの超人マシナリーに。だからこそ走る。事実を確かめるために。発砲音の原因を知るために。そして幻想が事実であって欲しい為に…。
発砲音をした直後小野田は倒れた。
突然家に侵入してきた男達。全身黒に染まり、その顔からはケダモノのような表情をしてた。男達はそれぞれの手に銃を持ち、壁に寄りかかり倒れている小野田を囲んだ。
「博士ぇ…困りますよぉ。これはビジネスですよ〜。ビジネス。貴方は金を貰った。なら金をあげた我々の為に働くのがスジってもんでしょ?」男がニヤニヤと小野田に近づき、銃口を小野田の顔につけた。
「ふざ…ふざけるな。まだか、完成はしていないと言ってるんだ!」
小野田は血反吐を吐きながらも言った。
「完成してない?はぁ……博士。我々を舐めてるんですか?貴方があの装置が完成してるのはとっくに把握してるんですよ!!」男はスッと立ち、小野田の顔に蹴りをいれた。
「ガフッ!!」蹴られた小野田は壁に頭を打ち、ふらふらしてる。
そして部屋のドアから
「パパ!!」絵里が飛び出してきた。
車椅子に座り、身体中ガタガタ震わせながらも父親に近づいて行く。
「来るな!!絵里!!来るんじゃない!!!」小野田は気づき叫んだ。
「ほう…成る程…….これはこれは………」男達は絵里を見た。
「成る程、成る程。博士。いぃー仕事するじゃないですか!素晴らしい!!これが貴方の最高傑作だ!!!」
「黙れ!!!絵里話を聞くんじゃない!!!!早く逃げろ!!」
絵里はよく分からなかった。銃を持った男達は自分の事を父親の最高傑作と言った。
「パパから離れて!!!」絵里は小野田の近くにいる男のズボンを掴んだ。
スッ……ズボンは掴めなかった。
「えっ………」絵里は理解出来なかった。自分の手が男のズボンを足をすり抜けたからだ。
「まさか?この子は知らないのか。くっ……クハハ……ハーハハハハ!!」男は腹を抱え笑った。
「どうして…なんで掴めないの……」絵里は何度も何度も掴もうとした。だが全てスカッた。
「これは傑作だ!!ハーハハハハハハ!!!」
「どうして……どうして……」絵里は泣きはじめた。
「お嬢ちゃん……いぃー事を教えようか。君は人間じゃないんだよ!!」男は絵里にしゃがみ、顔を歪みさせながらいった。
「えっ………」絵里は自分がわからなくなってきた。自分は人間ではない。そんな事ない。自分は人間だ。私は人間だ。パパとママの子だ。いろんな思考が絵里を混乱させた。
「君は既に死んでるんだよ!!それを君のパパは!!!ホログラム装置を使って君をつくったのだよ!!!!」
男は部屋の壁に寄り、壁を掴んだ。すると白い壁紙が一瞬でバチバチ!!と鳴り消えた。
そして消えた壁紙から見えたのは透明な窓だ。その先には一本の大きい突起物と二本の小さい突起物が根っこの部分でくっ付きそこに台形の台がくっ付いていた。金属で出来たそれは何かの装置のようだ。
「何……これ……」絵里は考えが真っ白になった。
「これが君の正体だ!!君は人間じゃあない!!!機械なんだよ!!!!実態のない機械なんだよ!!!!」男が言うと他の男達は笑った。腹を抱えたり、頭を抱え笑い転げている。
「………絵里………」すでに出血の酷い小野田の声に絵里は反応しなかった。
「私は……人間じゃない………私は………私は!!!!」
「いやぁぁぁぁぉぁぁぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」絵里は叫んだ。そして絵里の身体が光だした。あの機械と共に光だし、ゴウッ!!!と機械はなり始め、機械は動きだした。
「えっ?」男達はあの機械を見た。
三本の突起物とそれをまとめている台形の機械が浮いているのだ。
そしてその機械から光が強くなり………家の内部から爆発が起こった。
疾鷹が小野田家に着いたのは爆音がしてから約10分後であった。住宅街の家はまだ形が残っているが
あの小綺麗な白い家は既に崩れてなくなっていた。唯一残ったのは小野田が倒れている周りと小野田が寄りかかっている壁と小野田の隣に倒れているフォトスタンドがあった。そこには小野田と絵里、そして妻であろう女性が仲良く写っている。絵里は小野田夫婦の真ん中で手を繋ぎ、満面の笑みであった。
疾鷹は小野田に近付いた。
すると「忘れたく…なかったんだ……。忘れられなかったんだ……絵里や妻を………あの十字路で轢かれて死んでしまった事を………妻はすでに即死で……絵里は三日後に……私は絵里を亡くした直後……ある事を考えた……絵里という人格をプログラムで作り、絵里の姿をホログラムで映せばあの子は生き返るって………だけど、それと共に私は都市伝説にある十字路に出る霊を作ってしまった…あれは絵里なんだ…私は恨んだあの十字路を…轢いた車を……ゴメンね……こんな悪いパパで………ゴメン……」
小野田は一筋の涙を流し、力尽きた。
右手をフォトスタンドの上に乗せ。
疾鷹は見てるしかなかった。
そして吼えた。
彼は今猛烈な怒りが己の心を燃やした。
こんな事になった不条理な世界。
こんな事になった原因。
こんな事になるまで止めれなかった己自身に。
疾鷹はマシナリーになった瞬間、あの子を追った。
これ以上あの子を悲しませない為に…
本屋から出た仲良し三人娘の浅野、美玲、愛は十字路の少し近くにいた。
ここでそろそろ別れようかと話していたら
「キャッ!!!」浅野、美玲、愛はお互い近づき合い身を固めた。
「何今の……爆発?………結構近い。」浅野がそう言うと十字路の方から煙が出ていた。
何かの事故だろうか?
そう思った浅野だが、その十字路から車が突然飛んだのだ。
車はクルクルと回り宙を浮く。それを直視した三人は動かなかった。いや動けなかった。何が起こっているのか分からないから。
十字路へ続く道路からどんどん車は跳ね、落ち、燃えたり、潰れたりした。
車には人が乗っている。
三人は考えたくなかった。あの中に人がいるなんて。
十字路に対面している浅野達は見た。
右方向からある物が。
一本のでかい突起物と二本の小さい突起物、それをまとめる台形の物。
まるで槍のように見える。槍は突起物を前に傾け、動いた。向かうのは浅野達がいる所。彼女達は動けない。まるで金縛りにあったかのように。彼女達は震えていた。
槍は浅野達へ向かう途中、対向車線を走っていた10tトラックに向かって激突したその瞬間圧倒的パワーを持つ槍がトラックを飛ばした。
トラックはまるで子供が遊ぶ小さいおもちゃの様に軽々飛んでいった。
20mまで上がったトラック落ちていく。槍との衝撃で向かってる方向とは逆に飛び、ちょうど浅野達がいる場所へと落ちて行った。
浅野達は動けないもうお互いに抱きつき、ガタガタ震えて、太ももを地面に着き、死へと向かう確実なカウントダウンを待った。
槍は当たった事をまるで知らないかの様に走る。
およそ250Kmの疾さで走っていった。
そして浅野達の頭上にトラックの影が見え、影が濃くなり、死を感じた直後。
ガッシィ!!!!金属と金属がぶつかる音がした。
浅野達はお互いの顔を見た。それは唯一の友達の姿がはっきり見えていた。腕や手からは友の震える感覚を今尚感じられている。
何故…何故私達は死んでないの?トラックは?
彼女達は頭上を見上げた。そこにはトラックが見えている。だが落ちていないのだ。浮いているのだ。
彼女達は不思議に思った。
何故と………。
そして浅野は前を見た。そこには記憶の微かに残っている物に似ている。身体は赤と青のラインが入り、全身は白をベースになっている人を。そう三日前の事件に気を失う直前、最後に見た微かなその姿を。
彼は両腕でトラックを支えているのだ。10tもののトラックをそれをたった一人で支えているのだ。
彼はトラックを道路に置いた。中にいたドライバーは知らぬ間に浅野達がいる歩道のビルの壁に寄りかかっており、浅野達は唖然とした。
彼は浅野達を見た。当然浅野達は警戒した。仕方の無いことだ。得体のしれない物だからだ。
だが彼は見ただけだった。すぐに振り向き、あの槍の方へ向かった。一瞬だった。ゴウッ!!!という爆音が響き彼は消えたのだ。聞こえるのはキィィィィィィィィンと耳鳴りのような音だった。
浅野は思った。彼がもしかしてあの事件を終わらせたの?だけどあの人は何者なの?
浅野はそれらをまとめれるほど今頭は働く余力はなかった。
疾鷹は急いだ。亜音速で車道を突っ走る。今は緊急時だ。変わる所を見られたら不味いが、亜音速でほぼ見えないのなら問題はない。疾鷹は絵里を追った。絵里は約250kmを維持し暴走してる。あの槍が絵里なのだ。あの機械が絵里なのだ。疾鷹は今彼女を止める事を最優先として考えた。
壊すことは考えてない。考えたくなかった。それは自分と重なって見えるからかもしれない。
疾鷹はスピードを上げた。絵里に追いつくために。すると絵里を目視出来た。一気に目の前まで追い付きスピードを緩めて同じスピードを維持した。
これが彼女の本体。高度なホログラムを使用し、敵を幻惑させ、混乱させ、錯覚を起こし、最後には死せる兵器だ。だが先は違う。これは彼女だ。絵里なんだ。例え兵器でもホログラムでも絵里は絵里だ。
疾鷹は機械な顔だけを人間体に戻し、絵里に呼びかける。
「絵里!俺だ!!分かるか!!!」
疾鷹は叫んだ。
だが返事は返ってこない。返って来たのは槍による体当たりだ。
疾鷹はそれを避けずに受けた。
(避ければ彼女は暴走していくだけだ。
ならば受けて掴んでやる。)
疾鷹は受けた瞬間に突起物を掴んだ。
「絵里!分からないのか!!絵里!!」彼はまた叫んだ。
こんな事しても無駄かもしれない。
そう感じた時。
(お兄ちゃん?)
絵里の声が聞こえた。これは耳からでは無く頭から。彼が頭に装備されている無線装置から。
(絵里!分かるのか!!絵里!)
(分かるよ!お兄ちゃん!!)
二人は通信により会話し始めた。
(お兄ちゃん聞いて。私を壊して!!!
早く!!私を壊して!!!)
(ふざけるな!!君を殺せる訳がないだ!!待ってろ!すぐに止めて見せる!!!)疾鷹は槍の正面に飛び出し、真ん中のデカイ突起物を掴み、足を地面に着き、止めようとした。
だが。
(駄目!!!止めてたら駄目!!!)
絵里は叫んだ。
(私の中に自爆装置があるの!!とても強い爆弾が!!!)
衝撃的な一言だった。
(爆弾は誰かが私を止めると爆発するの!!だから壊して!!!早く!!)
(…………クソ!!!…………)
疾鷹は正面に立ったまま押されているしかなかった。
(畜生……畜生!!!)
疾鷹は苛立った。
己の無力がここまでとはと思ってなかったからだ。
(何がマシナリーだ!!何が超人だ!!ふざけんな!!!)
疾鷹は叫んだ。
心の中で自分に言った。
(お兄ちゃん………お兄ちゃん、私はね……嬉しかったんだ。初めてパパ以外の人と会えて、そして初めて友達が出来た事、初めて約束が出来た事。
全部お兄ちゃんのお陰だよ。だからお兄ちゃん………)絵里は今でも泣きかけに言った。
(…………分かった。………)
疾鷹は左手を前に出し、槍に付ける。その瞬間、その左手から光が走った。
疾鷹はあるプログラムを左手から放った。そのプログラムは二つ。一つは自己消化プログラム。そしてもう一つは。
槍の中には絵里の人格プログラムがいた。槍はただ絵里のホログラムを映しそのプログラム通りの行動を映しただけだ。
その槍を作るプログラムは疾鷹が放った自己消化プログラムにより消滅しかけていた。勿論それは絵里も例外ではなかった。
自己消化プログラムは文字通り自分を自分で消すプログラムだ。
まさに自殺に近い事だ。
絵里のプログラムは目を瞑る事にした。
だが瞑っているとその前に光が見えた。
絵里のプログラムは目を開ける事にした。すると目の前には草原と一本の大きな木があった。絵里は周りを見渡した。草原しかない世界だった。
絵里が見渡していると
「絵里ー!!!」誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。
声の方を見るとそこに木があった。その近くに二人の大人がいた。それは絵里が大好きで大切な人達。
「絵里!!!」それは小野田夫妻だ。小野田は絵里に向けて手を振っている。
「パパ!!ママ!!」絵里は前を歩こうとした。絵里のプログラムは足が動かせない様になっていたのだが。
足が動いたのだ。まず彼女は立っていたのだ。車椅子でしか移動出来なかったのに、絵里は立てていたのだ。絵里は歩いた。歩いた。そして絵里は走ったのだ。絵里は初めて走れたのだ。プログラムの中では立つ事さえ出来ないのに今彼女は走る。小野田夫妻に向かって。
「パパー!!!ママーー!!!私走れてる!!!走ってるよーー!!!」
絵里は笑った。それはどんなに輝く鉱石よりもどんな綺麗な景色よりも彼女は輝いていた。
そして彼女は大切な人達に抱きついた。
「パパ!!ママ!!」絵里は夫妻を抱いた。夫妻は彼女を優しく包んだ。
そしてその世界は優しい光によって消滅した。
槍は機能停止した。疾鷹による自己消化プログラムにより。疾鷹はマシナリーから人間体に戻っていた。
彼は槍を見つめた。いや槍の中を見つめていたのだろう。小さな少女を。
もうこの世にはいない。身体も心も。
そんな感傷に浸ってる中、携帯が鳴った。
相手はレン博士のようだ。
「終わったのね。」
「あぁ……」
「仁…あれはプログラムよ。人間じゃ…」
「人間だ。」
「……………」
「少なくとも俺よりかはな………。」
疾鷹は顔を空へ上げた。
彼の目には一筋の液体が流れた。
それが涙なのかどうかは自分にも分からなかった。
ご愛読ありがとうございました。
書き留めが切れたので少し更新が遅くなります。