⑩、~激怒と真実~
過去編はここで終わりです。
ありがとう…………
その瞬間、俺の中に思い出が駆け巡った。
初めて会った時のこと。
人の姿をしたリルの容姿に驚いたこと。
一緒に特訓したこと。
一緒にブルーコングと闘ったこと。
……だけど、俺のせいで……。
俺は今、わかった気がする。
制御魔法――《サプレッシング》の説明で、
「こんなドMな魔法を使うやつが現れない事を願う」
と書かれていた意味を。
面白く書かれているが、本当に使って欲しくなかったんだろう。
本当の能力は、力を制御する代わりに成長速度を上げることだった。
このことを分かった人は俺みたいに使うだろう。
けど、今回みたいに失敗する。
もし、もとの力だったらこのくらいならどうにかなっていただろう。
最低でもリルを連れて逃げれていただろう。
なのに……なのに……!!
周りがうるさいかった。
ゴブリン達が笑っていた。
なんでこいつら笑っているんだ……、お前らもリルを殺したのに!!
俺は、怒りのあまりにぶち切れた。
「ザコの狼の次はバカのお前だ!」
レッドゴブリンが笑い叫ぶと、周りのゴブリンも笑う。
「さて、殺すか!」
「待ってくれよアニキ、弟の俺に殺さしてよ」
周りよりは大きいオレンジゴブリンが現れる。
「まあよかろう、殺りな」
「ありがとなアニキ、さてどう殺す……アレ?」
いきなりオレンジゴブリンの目の前が逆さまになる。
そして目の前には、オレンジゴブリン自身の首から下の身体があった。
そして死ぬ瞬間、殺すはずの人間からこう聞こえた。
全員殺してやるよ……
俺は目の前のゴブリンの首を飛ばして、ゆっくりと立ち上がる。
周りが喚いている。うるせぇな、どうせ今から、
「全員殺してやるよ……」
俺の全ての制御していた力を解除する。
そしてあふれ出る魔力を制御しなかった。
早速魔法を使う。
「火よ、断罪する地獄の業火と成せ――《メギド》」
火魔法。ランクは【超魔法】と呼ばれる、ランク10の上の大魔法の上に存在する。
周りのあらゆるものが何も出来ず、焼き尽くされていく。
暫く経つと、火が消え始めて辺りが見えるようになる。
まだなんとか立っている瀕死のレッドゴブリンがいた。
俺は近づき、剣に魔力を纏い、リルと同じ様に切ってやった。
その後、剣は魔力に耐えきれずに砕けた。
「終わったな……」
俺は膝をつく。出血と麻痺による体力を消耗してたため、
かなりきつかった。
「……これから俺はどうすればいいんだろう」
その言葉はただ虚しく響く。
いつもは返ってくる声が今は無い。
「リル……ゴメン」
「グレイ……」
俺は聞きたかった声がした方を向く。
そこにはリルがいた。
俺が驚きのあまりに声が出せないでいると、リルは微笑む。
「グレイ、死んでごめんなさい」
「謝るのは俺の方だ、守れなくてゴメン」
「気にすることはありません、後大事な事があります」
「大事な事って……何?」
「私は魔物でありませんでした」
「エッ?」
「聖霊でした」
「はい?」
「ついでに聖霊は死にません、消えることはありますが。
なのでさっきの死んだというのは嘘なのです」
「……」
「ごめんなさい(てへっ)」
「ハァ」
呆れて何も言えんわ。
「まあ、学ぶことがあったので丁度良かったという事にしましょう」
「もうそれでいいよ……」
「けど、消えてしまって魔力を失ってしまいました」
「それは、どうなってしまうんだ?」
「人に戻るのが困難になるでしょう。
なので、グレイの望む形となりましょう」
リルは輝き始める。やがて、姿を変える。
その場には、剣が残った。
剣はロングソードに似ていた。
剣身は銀色に輝き、剣格には月の様な色をした宝石が真ん中に埋められている。
そして剣首には、狼の顔を模っている。
見た目といい、剣の雰囲気といい、これはリルだという事がわかる。
俺はその剣、リルを掴む。
「ありがとう、またこれからもよろしくな」
(はい、グレイ。これからもがんばりましょう)
「とりあえず、家に帰るか」
この1ヶ月後、現在に至った。
ここで、過去の話は終わろうと思う。
次は、エピローグを入れたいと思います。