⑨、~油断と守護~
長いです。
コングを倒してから1ヶ月後、あの日から俺達はのんびりとしていた。
リルの疲労の件もあったし、たまには休むのもいいかなと思って休みを取ってみた。
そして今、リルと料理中だ。
手元にある食材は、肉や野菜、香草や木の実、果物まであった。
休みの間にいろいろと周辺を回って、いい食材を捜していた。
そしたら、近くにいい食材があった。
灯台もと暗し、ってやつだな。
早速調理だ。
今リルには、木の実をすり潰してもらっている。
木の実のソースは必需品となっていた。
俺はまず牛肉を焼く。その時に香草も入れて。
香草には、緑の葉と赤の葉があった。
緑の葉は匂いを付け、赤の葉はコショウの様な辛味を付けてくれる。
そして表面が焼けたところで、焼くのを止める。
次に、じっくり蒸す。中までしっかりと。
20分ぐらいすると、それを取り出す。
そしたらローストビーフの出来上がりだ。
これに野菜、ソースをかけて出来上がり。
いただきます、……うまい!
リルも満足そうだ。
「こんな料理が食べれるなんて、グレイと出会ってよかった」
「俺が料理を作れなかったら、用無しって聞こえるんだけど……」
「そんなことないよ~、グレイと出会ってホント良かった!! (ニコッ)」
「最後の効果音がなかったら最高なんだがなぁ!!」
そんなやり取りをしながら食事を進める。
「そう言えば、グレイって黒の腕輪、まだつけているんだね」
「まあな、いろいろ用があってな」
「もう制御できるんじゃなかったの?」
「できるけどな、……これを付けていると魔力の成長が著しく上がるんだ」
この黒の腕輪を付けていると、魔力の上がり方が凄かった。
なので、1ヶ月で最初の魔力に追いつく事が出来たのは、黒の腕輪のお陰だと言っても過言ではない。
今俺がつけている数は4つ。だいぶきついが、強くなるためだ。
「へえ、まあいいや、次はデザート~」
「話振ったんだから、少しは反応してくれよ……」
リルは、俺の気持ちなど知らずに果物を持ってくる。
食後のデザート。果物はリンゴだ。
中の蜜が口いっぱいに広がる味はたまらない。
あっという間に無くなっていく。
「グレイ~、まだこれ食べたいから採ってきていい?」
「おお、行って来な」
リルは走っていく。
だけど、それが間違っていた。
もちろん、リルが魔物と出会う可能性は想定内だ。
しかし、今のリルなら負けることは無い。
そんな心の油断を俺は持っていた。
数分すると、俺は気付いた。
リルの気配が消えていた事に。
「えっ、リル何処にいるんだ!!!」
大声で叫ぶが声は帰ってこない。
「何処に行ったんだよ……!!」
俺は森を駆ける。
いろんな場所を周ってみるが、見当たらない。
そして前にコングと闘った所の近くに着く。
その時、微かにリルの気配を感じた。
「リル!! そこか!」
その方向に行くと頭から血を流したリルが木の下で倒れていた。
俺は急いでリルのもとに駆け付ける。だが、
ドスッ、ドスドスッ、
辺りに鈍い音が広がる。
最初は分からなかった音は、すぐに分かった。
俺の背中に矢が刺さった音だった。
「っ!!!!」
余りの痛みに声が出ない。
急いで回復しようとしたが、身体が痺れて声が出ず、また動けない。
(これは、麻痺か……)
こんな簡単な罠に引っ掛かりピンチに陥る。
自分で自分を思いっきり罵ってやりたい。
奥から、魔物が現れる。
ゴブリンだ。色は、……赤だった。
また、周りからぞろぞろと橙色のゴブリンが現れる。
「ふん、この頃調子に乗っている奴がいると聞いてやってきたが、
こんな簡単な罠にかかるとはなんて情けない奴だ」
レッドゴブリンが俺が使う言葉で、俺を罵る。
周りのオレンジゴブリンも笑っている。
「こんなクズはさっさと殺るか!」
レッドゴブリンは、手斧を振りおろす。
――――終わった。
死を覚悟した。
その瞬間、衝撃な光景があった。
リルが前に現れた。
そして、斧がリルを襲う。
そしてリルを裂く。
リルの上半身が俺のもとに飛んでくる。
俺は動かない身体で受け止める。
目の前にはリルの顔がある。
そして口が動く。
ありがとう…………
弱弱しく笑う。そして、リルは砕け散った。
――――プチッ――――
俺の中で何かが切れる音が響いた。
過去編は次で最後です。