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宝石の輝き

作者: 大海

 昔々、ある村に、『アンス』という名前の、大変(みにく)い顔をした男の人がおりました。アンスは誰よりも優しい心を持っていましたが、その醜い顔のせいで、村中の人達から嫌われていました。彼がやってきた親切は全て、一度も誰かに感謝されたことがなく、子供たちから石を投げつけられることも毎日ありました。


 そんなアンスには、一つだけ得意としていたことがありました。彼は村で、いえ、もしかしたら、世界で一番宝石の細工が上手でした。どんなに美しい宝石も、アンスが加工すると、更にその美しさを増しました。なのでアンスは、村にある宝石のお店で働いていました。

 そのお店の女主人の『シオ』は、若くて、とても美しく、とても優しい人なので、村中の人たちから愛されていました。しかしシオは、アンスのことが好きでした。シオは、アンスの作る宝石が素晴らしい物であると共に、彼が誰よりも優しい心を持っていることを知っていました。アンスの作った宝石は、村中の人達に愛され、時には、村の外の遠い町からはるばる宝石を買いにくる人もいました。

 しかしシオは、アンスにはいつも、お店の奥の部屋で宝石の加工をさせて、お店の表には出そうとしませんでした。アンスはそのことを不思議に思っていました。今お店に並んでいる宝石は自分が作った物だから、もしかしたら、それで村の人たちは、自分のことをシオのように好きになってくれるかもしれない。アンスはそう思いました。

 そしてアンスは、お店にたくさんのおさん客が来ている時に表に出てきました。その途端、宝石を買いに来ていたお客が全員、悲鳴を上げながらお店から逃げていってしまいました。


 そしてその次の日から、そのお店には、お客さんが一人も来なくなってしまいました。時にはお店に石や物が投げつけられる日もありました。シオは、段々元気を無くしていきました。

 アンスは、奥の部屋で宝石細工を続けながら、毎日シオに対して申し訳なく思っていました。そんな時、部屋にシオが入ってきました。アンスは、シオに怒られると思いました。しかし、シオは涙を流しながら、アンスに言いました。


「ごめんなさい。こんな所に閉じ込めたのが嫌だったのね。けど、あなたが人前に出ると、ああなってしまうことは分かっていたの。そうなると、誰よりも傷つくのはあなただと分かっていたから、私にはこうするしかなかったの。きっと、あなたのことをずっと閉じ込めていたバチが当たったんだわ。ごめんなさい、ごめんなさい……」


 シオは涙を流しながら、何度も、何度もアンスに謝りました。

 アンスは初めて、自分のために泣いてくれる人の涙を見て思いました。


「ああ、全ては僕が醜いからいけないんだ。僕が醜いせいで、僕に関わった人達まで不幸になるんだなぁ」


 その翌日、アンスは村を出ていってしまいました。そして、山の中にある小屋の中で生活をしていました。そこでアンスは、鏡で自分の顔を見ながら、自分が醜い限り、永遠に幸せにはなれないんだと思いました。


 何日かした後、鏡を見ていたアンスは、あることを思いつきます。


「そうだ。もしかしたら、僕の顔を宝石のように、美しく加工することができるかもしれない」


 アンスはそう考えて、宝石の細工に使っていた道具を手に取り、鏡を見ながら自分の顔を加工し始めました。どうか僕にも、今まで僕が作ってきた宝石のような輝きを。

 そう願いながら、毎日、毎日、自分の顔を加工しました。


 そして、何日かした後、そこにはあの醜いアンスではなく、世界中の誰よりも美しい顔をした、まるで宝石のような輝きを放つアンスがおりました。

 アンスは山を降り、村に戻りました。村にいる人はみんなアンスを見ました。村の人達はその人がアンスだと分からず、みんなアンスのことが好きになりました。

 やがて、アンスは働いていた宝石のお店に戻り、シオに、自分はアンスであることを伝えて、また宝石の細工の仕事を始めました。そして今度は、お店の奥の部屋ではなく、お店の表で、堂々と宝石の細工をしました。お客さんも、村の人たちも、シオ以外は、その美しい宝石の細工師がアンスであることを知りません。だから過去にアンスがお店の奥の部屋で働いていた時のように、お店にたくさんのお客さんが来るようになりました。それを、アンスはとても幸せに感じていました。


 けど、同時にある疑問も感じました。

「これは、本当の幸せなのだろうか」

 そう思いながら、アンスは毎日仕事を続けました。またシオも、密かに同じことを思っていました。


 ある日、アンスは村の中の広場で、子供たちが集まっているのを見ました。見ると子供たちは、過去のアンスと同じくらい醜い顔をした女の人の周りに集まっていました。そしてその女の人は、子供たちだけでなく、村の人たち全員から愛されているようでした。

 アンスは、その女の人に興味を持ち、その人のことを毎日見るようになりました。そして分かったのは、その人は毎日笑顔で優しく、元気に生きているということだけでした。


 そして、アンスは気がつきました。


「どんなにきれいな宝石も、初めその原石はとても醜いものだ。けどその原石も、原石としての輝きを持っているからみんなに愛されるんだ。あの女の人も、まるでその原石のような輝きを持っているからみんなに愛されているんだ」

「自分はその輝きを持とうともせず、ただ醜い自分を加工して、みんなが自分を愛してくれるよう、きれいな輝きを手に入れた。けどそれは、ただ自分の作ってきた宝石みたいに、見ていて欲しくなるような、そんな輝きに過ぎない。宝石の原石のように、本当にみんなが愛してくれるような輝き。それこそが本当に美しく、そして本当の幸せなんだ」


 アンスは、自分の顔を元の醜い顔に戻そうと思いました。シオにそのことを話すと、シオは、そうしなさいと言いました。

 アンスはまたあの山小屋にこもり、宝石の細工に使う道具を手に取り、鏡を見ながら、自分の顔の加工をはじめました。

 もう一度、宝石の原石のように、本当にみんなに愛される輝きを持つためのチャンスを下さい。そう願いながら、毎日、毎日、顔を加工し続けました。


 そして、何日かした後、そこには過去の、大変醜い顔をしたアンスがおりました。そしてアンスは山を降りました。またみんなから嫌われるかもしれない。また石を投げつけられるかもしれない。とても怖い。それでもアンスは、山を降りました。


 アンスは、結局村の人たちから嫌われてしまいました。それでもアンスは、めげずに毎日元気に生活しました。宝石のお店では、美しい顔をしていた頃のように堂々と店の表に立って、元気に笑いながら仕事を続けました。

 すると、最初アンスを嫌っていた村の人達は、段々アンスのことが好きになり、やがて村の人達全員がアンスのことを好きになりました。

 アンスの作った宝石も、アンスが美しかった時よりも売れるようになり、昔のように、村の外の遠い町からも、お客さんが来るようになりました。


 アンスは醜くてもみんなに愛される、宝石の原石のような輝きを持つことが出来たのです。アンスも、そしてシオも、本当の幸せを知りました。


 やがて、アンスとシオは、村の人達全員に祝福されながら、結婚式を挙げました。この時の二人の顔は、まるで宝石のような、いいえ、宝石よりも、ずっとずっと綺麗な輝きを放っていました。



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