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(7)愚行の報い

今回は、海にまつわる恐怖体験です。

漁業従事者や海に詳しい方なら、海には、立ち入りが制限されたり、禁止している場所がある事をご存じだと思う。

立ち入りを禁止している理由も禁漁区であったり、危険区域だったりと、色々、理由があるが、中には、何だか、はっきりとした理由は解らないが、決して誰も立ち入らない場所があるという。

何故、誰も立ち入らないのか?

その理由を尋ねても、昔からの取り決めだとか、入ると必ず良くない事が起きるらしいとか、人によって理由がいくつもあり、これといった、はっきりとした理由は、わからないそうである。

今回は、そんな立ち入りを避けている場所に関する話である。




遠浅の海岸線を持つ、漁業の町であるJ町は、昔から、アサリやバカガイ等の貝堀漁が栄んで、海からの豊かな恩恵を受けてきた。


この貝堀漁とは、満潮の終わりから、干潮の始まる時を見計らって、小型ボートで、陸から1km程先の沖に行き、干潮時に海へと入って貝を掘るという漁である。

1km先の沖といっても、ここ一帯の海は、遠浅な海岸の為、干潮時は大人の太もも辺りの深さまで潮が下がるのである。

この時、漁師は、ウェイダーを着用し、「じょれん」と呼ばれる漁具をもって海へと入る。

この漁具は、1本の棒にカゴが付いた様な形状をしており、そのカゴの先端部には、突き刺せる様に突起物が付いている。

この突起物を海底の砂に突き刺して、カゴを砂の中に入れ、持ち上げてから、海中で揺すると、砂だけが、カゴの目から落ちて、貝だけが残るという、なかなか良くできた漁具なのである。

漁師達は、干潮時のみ、こうして漁を行う訳だ。


貝を掘る為の漁場は、かなり広く、貝がいる場所といない場所がある為、漁師達は、それぞれ自分の良く知っているポイントに散らばって、漁を行っていた。

一見すると、どこを掘っても良さそうな感じに見えるのだが、ある一画だけ、絶対に漁師が立ち入らない場所があった。

その場所は、他の漁場と見た目は、何ら変わりはない。唯一、違う点は、その場所の四方に大きな竹が、目印として、刺してある位である。

進入防止の為に、ロープを渡してある訳でもないので、進入自体は簡単だが、それでも入った者は、まずいないという。

その場所に人が全く立ち入っていないのだとしたら、漁場として考えてみれば、そこは、全く荒らされていない、ある意味、豊漁の期待できるポイントともいえる。

それでも、地元の漁師は、決して近づかない訳だが、人と言うものは、色々な考えの者もいる訳で、金にさえなれば、敢えて立ち入らない場所にも入ろうとする輩も出てくるのである。

この話に出てくる、ある男も、そんな輩だったのである。

みんなが立ち入らない場所というのは、過去に何か理由になる様な事が起きた訳で、例え、今、その理由が、はっきりしないとしても、気味悪がって近づかないのが普通だろう。

しかし、この男の場合は、タタリだのバチだの、そういった類は、全く信じていなかった。

勿論、心霊現象に関してもそうである。

かえって、誰も立ち入らない事をバカにしていた位だった。


ある日の事、男は、金に困った事がきっかけで、立ち入りを避けている、例の場所に入り、漁をしようと考えた。

しかし、日中に入れば、当然、漁をしている姿が周りから丸見えである。

それでは、間違え無く、騒ぎになってしまうだろう。そこで、男は、人が全くいなくなる、夜間に出漁する事を思いついた。

男は、小型ボートに、バッテリーとサーチライトを装備し、準備を整えると、夜の海に出漁する事にした。


港から、目的の場所までは、それ程、離れてはおらず、ボートを10分程、走らせると目印の大きな竹が見えてきた。

そのまま、ボートは竹を挿してある、内側のエリアへと進入する。

目的のエリアに到着すると、男はボートからイカリを降ろし、ボートを固定した。

これから、貝を掘るエリアにサーチライトを当てると、男は夜の海へと入った。

この日の海は、風も無く、何処か不気味な位に静まりかえっている。

普通の人から見れば、気味が悪いのだろうが、男にとっては、どこ吹く風、全く平気である。

ボートに積んでおいた、じょれんを持つと、すぐに海底にさしこんだ。

じょれんをさしこんでみると、手応えから、ここは、砂地では無く、ヌタ場(泥地の事)である事がわかった。

じょれんを使って、掘り上げてみると、流石、人が立ち入らなかっただけの事はある。

どれも、貝のサイズが大きく、数も多い。

掘れば掘っただけ、ザクザクと採れてくる。

この時、採れた貝は、一旦は、ボートに積み上げておき、後で選別するのだが、1時間程、続けていると、ボートの上には、採れた貝の山が出来上がっていた。

貝のサイズといい、量といい、その買い取り値は、良い金額になる事だろう。

男は、積み上がった貝の山を見て、ニヤリと笑った。

やがて、潮が満ち潮に変わり、徐々に水位が上がり始めてきた。

もう充分に貝が採れた事だし、男は、ここで引き上げる事にした。

ボートに戻る為、体の向きを変えようとした時、何か異変に気がついた。



おかしい。

足が動かない。



まるで何かに足をガッチリと、掴まれている様だ。

霊的な物か、何かに足を掴まれてしまったのだろうか?

いや、そうではない。

先程も話したが、ここは、砂地では無く、ヌタ場である。

きめの細かな泥地であるヌタ場では、足が潜ってしまう事が、時々ある。

そう、男は、泥に足を取られてしまったのだ。

男は、ヌタ場から抜け出す為、ボートに手を伸ばすが、全く手が届かない 。

必死になり、足を上げ様と、もがけば、もがく程、体がゆっくりと沈んでゆく。

しかし、本当の恐ろしさは、ここからだった。

男の周りの水位は、満ち潮によって、ひたひたと上がってきているのだ。

恐怖の余り、いくら助けを求めて叫んでも、ここは、夜の海。

誰もいるはずも無い。

人目を避けて、やった事が、男の首を締める結果となった。

男が、泣き叫びながら、もがく間も、水位は上がっていく。

死が、確実に近づいてくる。

男の口元まで、水位が上がった時、全てを悟った。

昔から、この場所に誰も近寄らなかったのは、これがあったからなのだと。

遠い昔には、何人もの命を奪ってきたのだろう。

やがて、誰も近づかなくなり、今に至る迄、獲物が掛かるのを、じっと待っていたのだ。

そして、やっと久々に獲物が捕まったのだ。




もう、決して、逃れる事は出来ないだろう……

最後まで読んで下さいましてありがとうございます。

今回の話は、いかがだったでしょうか。

この話を読んで、少しでも、涼んで頂ければ、幸いです。

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