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(6)簑虫

今回は、心霊とは違う恐怖体験の話をお送りいたします。

話的には少し、気持ちが悪いかもしれません。

それでは、どうぞ。

あなたは、ツルニンジンという植物を知っているだろうか。

ツルニンジンとは、山菜や薬草として扱われる、キキョウ科の植物である。

このツルニンジンは、数が減少している貴重な植物だそうで、最近では、山に入っても、滅多に見つからない物なのだそうだ。

私の父の知り合いで、Nさんという山歩きが好きな方がいて、毎年、夏になると、山歩きのついでに、このツルニンジンを探していたという。

今回は、このNさんが体験した話である。




その日、Nさんは、仕事の休日を利用して、ある山にツルニンジンを探しに来ていた。

Nさんは、細い山道に入る手前にあった空き地に車を止め、未舗装の山道を歩いて行った。

ツルニンジンは、道の際を探しても、まず見つからない為、道路際には、全く目もくれず、あらかじめ目星を付けたポイントを目指して歩いて行く。

夏の強い陽射しを受け、汗をかきながら歩いて行くと、左側に、今歩いている道より、更に細い山道が現れる。

まず、地元の人しか知らないであろう、その山道をNさんは更に歩いて行く。

山道の両側には、鬱蒼とした木々が生え、太陽の陽射しを遮る為、辺りはやや薄暗い。

この山道を少し進むと、今度は大きな樹木が点在する林に出る。

クヌギやコナラの大木が生える、この林がNさんが目指したポイントである。

ここで、なかなか見つからないと言われるツルニンジンをひたすら探す訳である。

するとNさんは、大きなクヌギの下に、2台の自転車が置かれている事に気がついた。

余り、大きくは無い、自転車のサイズから察すると、どうも小学生が持ち主の様に思える。

ここは、カブトムシやクワガタムシが好む木が多いので、恐らく昆虫採集に来ているのだろう。

Nさんは、ツルニンジンを探しながら、少し奥へと入って行った。

奥に生えるコナラやクヌギの大木の周辺は、下草が少なく、藪にはなっていなかったので、ツルニンジンを探すには、都合が良かった。

ツルニンジンの特徴ある葉を探していると、早速1本目を発見した。


「こいつは、幸先がいい」


Nさんは、そう言うと、ツルニンジンを掘り出す為、バッグからスコップを取り出した。

ツルニンジンの根を切らぬ様、注意してNさんは堀り初めた。

あちら、こちらの木には、数多くのセミが止まりうるさい位、大合唱をしている。

やかましいと思ったNさんだったが、セミの鳴き声に混じって、何やら違う音がする事に気がついた。

その音は、向こうの方から聞こえてくる。


何の音だろう?

そうだ。

あれは、人が走ってくる足音だ。

恐らく、足音の主は、先程、置いてあった自転車の持ち主だろう。

何やら、慌てて走ってくる感じに聞こえる。

大方、虫捕りに夢中になっていて、何かに追いかけられたのだろう。

山では、何も気が付かないまま、スズメバチの巣に近づき過ぎて、襲撃を受ける事もある。

Nさんも、同様の経験があったので、そうではないかと思ったのである。


「どれどれ、ちょっと様子を見てみるか」


Nさんは、様子を見ようと立ち上がった。

見ると、2人の少年が息を切らしながら走ってくる。

少年達は、Nさんを見つけると、そのまま駆け寄り、Nさんの服を掴んだ。

そして、ギュッと服を掴んだまま、ガクッと膝をついた。

全力で走って来たのだろう。

頭を下げたまま、ゼイゼイと息を切らしている。


「どうしたんだ」


Nさんは、少年達に聞くが、呼吸が荒く、直ぐには、喋れない様であった。

Nさんは、少年達が喋れる様になる迄、少し待つ事にした。

少年達は、暫く頭を下げていたが、呼吸が落ち着いたのか、やっと顔を上げた。

年は、7、8才位であろう、その顔は、最初は赤くなっていたが、直ぐに蒼白になり、唇も震え始めた。

明らかに、何かに怯えている表情だ。

もう一度、Nさんは、少年に聞く。


「どうしたんだ。何かに追われたのか」


すると、少年達は、ぶんぶんと、頭を横に振った。

少年の1人が、呟く。


「…たんだ」

「えっ?」

「見たんだ」

「見たって、何を」

「ミノムシだよう」

「大きなミノムシが、いたんだよう」


Nさんは、少年達の言っている事が、いまいち良く分からなかった。

Nさんが、ミノムシと聞いて、思い浮かべる事と言ったら、枯れ葉や小枝で巣を作り、枝でぶら下がっているあの姿である。

子供の頃、巣から幼虫を引っ張り出したりして、遊んだものだが、あれの何処が怖いと言うのか。


「おじさん、君達の言っている事が、いまいち良く分からないんだが、そのミノムシが怖かったのかい?」

「うん」

「それ、何処にいるの?」

「あっち」


少年達は、今走って来た方向を指差す。

どうも、林の奥の様だ。

少年達の言っている事は、意味不明だし、とにかく行ってみなければ、分からないだろう。


「君達、おじさんを其処に案内してくれるかい?」

「嫌だよ」

「どうして?」

「行けば、直ぐに分かるよう」

「もう嫌だあ!」


少年達は、立ち上がると大声を出しながら、置いてあった自転車の方に走っていった。

そのまま2人は、自転車に乗ると、全力で逃げ去った。

1人残ったNさんは、考えた。


少年達の怯え方は尋常ではなかった。

あんな恐怖の表情を見せるなんて。

それにしても、2人が言っていたミノムシが、どうしても気になる。

Nさんは、そのミノムシとやらが、見たくて堪らなくなってきていた。

好奇心が、どうしても押さえられそうにない。

Nさんは、少年達が指差していた方向に歩き出した。

50m程、歩いたであろうか。

何か、嫌な匂いがしてくる。

何かが腐った様な。


何だろう。

そうだ、肉だ。

動物が死んだ時の腐敗臭に良く似ている。


その匂いは、先に進む程、強烈になってゆく。

Nさんは、鼻と口をタオルで押さえながら、更に奥へと進んだ。

そういえば、強烈な匂いだけでは無く、何か音も聞こえてくる。

その音は、何かがざわめく様な、あるいは、羽音の様な。

とにかく、余り、聞き慣れない音だ。

いったい何の音だろうか。

Nさんが、目の前にある枝を払い、身をのり出した、その少し先に音の主である「それ」はあった。

太い枝から、ぶら下がっている「それ」は、まるで真っ黒な、大きなミノムシの様であった。

その真っ黒な表面は、まるで波打つかの様にざわめいている。

Nさんは、少年達が、恐怖していた理由の全てを理解し、思わずその場にへたりこんだ。

その動きに反応したのか、黒い物は、表面から剥がれるかの様に、一斉に飛び立った。

辺り一面が黒くなる程、飛び立った物とは、何千という数のハエだった。

ハエが飛び立った後の「それ」の姿をNさんは、目にする事となった。


液体を滴らせながら、1本のロープから、ぶら下がった「それ」は、Nさんが、見つけてくれるのを、ずっと待っていたかの様だった。




この後、Nさんは、警察署に駆け込み、色々と大変だったそうである。

よく、山では怖い話が付き物だが、こういった違った怖さもあるのだ。

私も山に行く時は、注意するとしよう。

黒いミノムシだけは、絶対に見つけない様に……


最後まで読んで頂きまして、ありがとうございます。

読まれた方は、「それ」の正体がわかりましたか?

もし、わからなかった方の為に話しますと、「それ」とは、自殺体の事です。

山で、こういった自殺体を発見するのは、Nさんの様な山菜採りの人やハンターがほとんどだそうです。

人知れず命を断ってしまった訳ですが、意外な事に道路から近い場所で亡くなっている場合が多いそうです。

そうするのは、早く自分を見つけて欲しいという思いからなのでしょうか。


次回も気味の悪い話が続きます。

それでは、またお会いしましょう。

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