母さん
(母さん…。)
寛太は、心の中で呟いた
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5時間前
「寛太‼起きなさい‼」
甲高い声が狭い家中に響いた
「………ん…。」
薄く目を開いくとボロボロな
姿の母さんがいた
「早く‼避難するよ‼」
慶太をおぶっている母さんが僕を起こした
「え?」
まだ寝ぼけていて理解ができない
「空襲がきたんだよ‼ ほら、早く‼」
そう言うと僕の右手を引いて歩き始めた
「…空襲」
僕は灰色の空を見上げた
そしたら無数の飛行機が飛び交っていた
(そうだ、今は戦争なんだ)
やっと目が覚めた
母さんは眠ったままの慶太を
背負い直しながら足早に歩いている
「母さん、何処に逃げるの?」
不安そうに僕が聞くと
「近くの川だよ、あそこなら火から逃れるからね」
母さんが淡々と言うと
背負られていた慶太が起きた
「…おかぁさん…。」
まだ寝ぼけている慶太は
小さな声でつぶやき母さんの服を
引っ張った
「慶太…、起きたの?歩ける?」
優しい声で聞く母さんに
慶太はこくんと頷き、
母さんの背中から降りた
「今ね、飛行機が来たから逃げなきゃ
いけないの。わかった?」
慶太に言い聞かせて母さんは
慶太の小さな手と僕の手を握って
また歩き始めた
その時、やっと気づいた
母さんの手から血が流れていることに
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