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作者: ニネコ

「エネルが死んだ!!」


「またか!!」


 本日何度目かのやり取り。

 パーティーの一人、エネルリオウス、略してエネルが猪に似た何かの攻撃を受けて倒れた。

 オフにしていた表示をオンにすれば、色を失った名前とHPバーが視界に入る。


「べっさん、頼む」


「分かった、後は任せた」


 一緒にモンスターを相手していた、蘇生スキルもちのベックが戦いの場から離れる。


「どれだけ湧いてくるんですか」


 呆れたように私は嘆息する。

 婦人服売り場に置かれてそうなマネキンのような細い腕から繰り出される一撃に、猪もどきはあっけなく沈む。

 ゲームでは決して感じない生々しい感触になれることなく、自然と眉間に皺が寄る。




 私と友人たちが、遊んでいたMMOのゲームに良く似た世界にゲームのキャラそっくりになって放り出されてから三日。

 フィクションでお腹がいっぱいな状況に、なんとか適応しながら、安息地を求めて私たちは、モンスター一杯の森から街を目指し移動していた。

 不幸中の幸いというのか、一人を除けば、今の私たちはそれぞれ愛着のある自分のキャラクター、それも高レベルで装備やアイテムもゲームと同じだけ所持している状態だった。

 もっとも、MMOでは効率重視の野良PTに参加しようとすると七割方お断りされるようなネタキャラたちではあったが。

 それでも、一人だけ誘われて初めたキャラ作成直後の状態という可哀想なエネルよりは強い。

 今だって、大量の猪もどきのほとんどを友人のクォーツがタゲを取って、こちらへと向かわないようにしている。

 残念な攻撃力なため、そうそうに殲滅することはできないが、それでもめったに攻撃を受けない以上、いつかは倒しきるだろう。

 タゲから漏れたものも私とべっさんこと、ベックの二人で倒していた。二人共戦闘職ではないが、レベル差は大きくこちらも損傷はなかった。

 なのに、どこから湧いてでたのか。

 急に現れた一匹に、後方で守られていたエネルは一撃を受けて死んでしまった。

 いつもこうだ。

 強行突破を仕様にも、殲滅後に通ろうとも、どういうわけかエネルは攻撃を受けて死ぬ。

 なぜか見れるステータスを確認しても、ラックは低くないし、呪われてもいない。

 これが、俗にいうリアルラックというやつか。

 それでも運がいいことに、ベックが蘇生スキル持ちだから何度も生き返れるが。


「リザレクション!!」


 後方から、やけっぱちな詠唱が聞こえる。





 結局、その後もモンスターと遭遇する度にエネルが死んだ。

 その状況にベックがキレ、エネルは死体のまま運び、取り敢えず街まで移動することになった。

 私も温存していたSPを大盤振る舞いをし、移動速度は格段に上がった。

 街は、ゲームで見ていたよりも威圧感ある城壁に囲まれていたが、すんなりと中に入れた。

 ゲームと同じように通貨が使えるかと不安に思ったが、宿では普通に支払いを済ませ、死体が包まれた布の塊も特に何か聞かれることもなく泊まれることとなった。

 最初のつまづきからは想像できない順調さだった。


「さて、腐る前に蘇生するか」


 ベックが布の塊から、床にエネルを転がす。

 中の人がどうかは知らんが、美女相手に雑な扱いだ。

 口から流れる血と、瞳孔が開ききった目を除けば、顔も体もすごく整っている。

 まあ、それを言えば私達の外見も傾向は違えど、ゲームそのままに美形なわけなのだが。

 

「リザレクション」


 部屋の外に漏れぬよう、声を潜めた詠唱にエネルを中心に綺羅びやかなエフェクトが発生する。

 目に眩しいエフェクトが消えれば、そこには生気あふれるエネルの姿が。


「…おっぱいが……消えた!?」


「誰だ、お前!?」


 中肉中背の中性的イケメンが横たわっていた。

 なんという事でしょう。

 エネルが一瞬にして、女性から男性に代わってしまいました。

 ステータスも性別が書き換わっています。

 これはあれですか?リザの副作用ですか?


「ベック!」


「な、なんだ?」


「ちょっと今から自決しますので、リザよろ~」


 私にとっては、死にスキルな代償召喚連発すれば、さすがに死ねるはず。

 こういう時、高レベルはHPが高くて簡単に死ねないのが難点です。


「ちょっとまて!部屋の中で何召喚しようとしてやがる!!?」


「影縛り!影縛り!」


「ちょっと発動阻止しないでくださいよ。HP減らないじゃないですか!!」


 外の様子を確認しに行っていたクォーツまで、スキルを使用して発動を止めてくる。


「ちょっと中の人と外見の性別を一致させるだけじゃないですか!」


「落ち着け、アリス!リザしたって女になるとは限らないんだ!早まるな!」


 元の世界に戻るより、先に女の子に戻りたいだけなんです。

 でも、そんなこと、この異常事態で皆が不安なときに言い出すような悩みじゃないじゃないですか。

 だから、我慢していたのに。

 なのに、エネルという成功例が目の前に。

 どうしてそれが私ではないのか。


「どうせ戻っても……ないじゃない」


 スキルを使い拘束しながら、クォーツが、私の胸を見て指摘する。

 そうですね。まっ平らですね。

 さすがリア友、よく知ってらっしゃる。


「うぉぉぉぉ!絶対に自決してやる~」


「あ、地雷だったか」


 高まれ、私の抵抗スキル!!

 影縛りなんて、振りほどいてやる!!





   

 後に、この世界を救うことになる異世界より招かれた見目麗しき四人。

 その旅の始まりにおいて、彼らが自殺騒ぎを起こしたことは、どの文献にも残っては居ない。

 ただ、四人のうちの一人が、常に率先して死地に身を置いていたことは事実である。

 その動機が何だったのかは、後世において不明である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 短編ギャグ。 タイトルからわかりそうなものだけどね、そういうオチですか。 リザレクション!
[一言] エネルがどうやっても死ぬ事が伏線かと思いきや、まさかのオチに笑わせてもらいました。 もしネタがあれば、この四人の後日譚なども読んで見たいです。
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