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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第2章 瑠香姫と書き換えられた王都

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第31話:騎士団長と白い兵器

 継ぎ目を読んでいる。


 その感覚が分かった瞬間、背筋の奥がぞくりと冷えた。


 レオヴァルトの視線は、今ここにいる俺じゃない。俺が次に踏み込む位置、避ける角度、術を置く間合い――そういう“まだ起きていない動き”の方を見ている。


 だから、さっきから全部が半歩ずつ遅い。


 俺が踏み込む前に、剣がそこに来る。


 ネリュアが術を張る前に、斬られる。


 アズが継ぎ目へ飛び込む前に、足運びを変えられる。


 未来を見ているわけじゃない。


 でも、空間の継ぎ目と流れを読むことで、結果として俺たちの行動を先取りしている。


 レオヴァルト「お気づきになりましたか」


 静かな声だった。


 それが余計に不気味だった。


 レオヴァルト「王都騎装は、理の揺らぎに触れます。異物が通る道も、乱れる流れも、見落としません」


 彼の背の装置が低く唸る。


 鎧の継ぎ目を走っていた光が一気に強まり、赤い甲冑の輪郭が白く塗り潰されていく。肩当てが外側へ展開し、胸部の装甲が幾重にも重なり、腰から脚にかけて別の駆動骨格が生まれる。


 赤から白へ。


 騎士から、何か別のものへ。


 それは変形というより、召喚に近かった。


 倒れた遊具の機巧から奪い取った光が、彼の全身へ新しい形を与えている。


 白い外殻。


 騎士の鎧を基礎にしながら、その上へ機械の理屈を無理やり継ぎ足した異形。肩の後ろには細い推進翼みたいな装甲が開き、脚部には車輪と滑走具の中間みたいなものが覗いている。背中の中心では、紋章を囲む術式がゆっくり回転していた。


 レオヴァルト「聖装(アルカ・)機騎(レガリア)


 その名が落ちた瞬間、白い兵器が前へ出た。


 重い。


 なのに速い。


 石畳を砕きながら突っ込んでくるその姿は、騎士というより、神話の中から抜け出した処刑機械みたいだった。


 愛斗「散れ!」


 叫ぶと同時に、俺は横へ飛ぶ。


 次の瞬間、白い腕部の先から光が伸びた。


 槍だ。


 細く圧縮された光が一直線に射出され、俺のいた空間を貫いた。遅れて石畳が爆ぜる。熱と風圧が頬を舐め、鼻の奥に焦げた匂いが刺さる。


 ネリュアがすぐ術を重ねる。


 ネリュア「【万物(マナ・)流転(フロー)】」


 足元の流れが変わる。


 俺の身体が、半歩だけ軽くなる。その半歩がなければ、次の一撃は避けられなかった。


 白い機騎が滑るように距離を詰めてくる。


 予測障壁。


 高速突進。


 光槍。


 全部が噛み合っている。単なる剣士の強さじゃない。動くたびに装備の方が状況へ合わせて組み替わり、こっちの最適解を先回りして潰してくる。


 アズが横合いから飛び込んだ。


 小剣が脚部の継ぎ目を狙う。


 だが、その寸前で白い装甲の角度が変わった。剣先は装甲の縁を擦っただけで、深くは入らない。アズは空中で身を捻って着地するが、着地点にもう次の槍が来ていた。


 瑠香「アズ!」


 瑠香が魔道具を構える。


 光衝(フォトン・)(ブラスト)


 放たれた光弾が白い槍の軌道をかすめ、わずかに逸らす。アズの肩先を掠めるだけで済んだが、それでも地面へ転がるには十分な衝撃だった。


 俺はそこへ踏み込む。


 拳を、胸部の中心へ叩き込んだ。


 硬い。


 金属とも石とも違う。殴った瞬間、表面の術式が波打ち、衝撃を横へ逃がしていく。壊せるかもしれない。でも、一発じゃ足りない。


 しかも壊した先に、レオヴァルト本人がいる。


 その事実が、どうしても拳を鈍らせる。


 レオヴァルト「迷いがありますね」


 次の一撃は大剣だった。


 白い機騎の肩越しに、レオヴァルトの剣が振り下ろされる。俺は腕を交差して受け流し、衝撃を殺しきれずに後ろへ滑った。足の裏から石畳の削れる音が走る。


 愛斗「うるせぇ……!」


 吐き捨てながら、もう一度踏み込む。


 本当は分かっていた。


 本気の【光断(レイディアント・)一閃(セヴァー)】なら、この白い機騎ごと両断できる可能性がある。


 でも、それは“止める”じゃない。


 その一線を越えたら、たぶん戻れない。


 白い機騎が腕を開く。


 胸部の中央へ光が集まる。


 嫌な予感が、先に来た。


 愛斗「伏せろ!」


 言った時には遅かった。


 砲撃みたいな光の奔流が前方を薙ぐ。俺は咄嗟に【光断一閃】を放ち、真正面からぶつけた。


 光と光が衝突する。


 轟音ではなく、耳鳴りみたいな高い悲鳴が空間を裂いた。衝撃が腕を突き抜け、肩、背骨、脚へ落ちる。踏ん張りきれず、そのまま壁際まで吹き飛ばされた。


 背中が激突する。


 視界が揺れる。


 喉の奥に熱いものが込み上げた。


 それでも倒れきる前に、目だけは白い機騎を追った。


 見えた。


 腕の接続部。


 膝の裏。


 胸部の中心。


 そして、背中の装置から胸へ伸びる、一筋の流れ。


 あれが核だ。


 けれど、ただ壊せばいいわけじゃない。


 その流れの奥に、レオヴァルト本人の気配が繋がっている。神経か、魔力路か、それに似た何かが、操縦者と機体を一体化させていた。


 壊したら死ぬ。


 止めるなら、“繋がっているところ”だけを断たなきゃいけない。


 レオヴァルト「終わりです」


 白い機騎が再び突進する。


 俺は壁を蹴って横へ逃げる。地面が裂け、瓦礫が飛び、頬を石片が掠める。その隙にアズがもう一度低く潜った。


 今度は迷いがない。


 彼女の剣は脚そのものじゃなく、“脚が遅れる一点”だけを刺した。


 金属が悲鳴を上げる。


 白い機騎の姿勢がわずかに崩れた。


 アズ「……いま!」


 瑠香が、続けて光弾を撃つ。


 顔を狙ったんじゃない。視界の縁、センサーの死角、その境目へ叩き込んでいる。眩しさに紛れ、白い機騎の予測がほんの刹那だけ遅れた。


 ネリュアがその遅れへ術を重ねる。


 ネリュア「愛斗!」


 風の流れが俺の足元へ集まる。


 身体が軽くなる。


 いや、軽くなったんじゃない。流れが俺を前へ押していた。


 その一瞬で、全部が繋がった。


 アズが崩す。


 瑠香が逸らす。


 ネリュアが通す。


 俺が断つ。


 ただし、壊さずに。


 俺は踏み込んだ。


 白い機騎の懐へ入る。剣の間合いより内側。そこなら、大剣の重さが一番邪魔になる。


 レオヴァルトの目が、わずかに見開かれる。


 でも遅い。


 俺は拳を作らない。


 手刀の形で、胸部の装甲へ指先を当てる。


 光を、線へ絞る。


 斬るのは装甲じゃない。


 核でもない。


 そのあいだを走る、“繋がり”だけだ。


 愛斗「……そこだ!」


 【光断(レイディアント・)一閃(セヴァー)


 細い。


 細い一閃だった。


 白い光が、胸の中心を走る。だが装甲そのものは割れない。ただ、その奥で何か一本、目に見えない線だけが断ち切られた感触があった。


 機騎が止まる。


 音が消える。


 さっきまで唸っていた駆動が、嘘みたいに沈黙した。


 白い外殻を走っていた術式が、一つずつ消えていく。


 そして、膝から崩れた。


 重い音。


 石畳へ白い機体が沈み込み、胸部の光が暗くなる。その中から、レオヴァルトがよろめきながら這い出てきた。


 血は出ていない。


 だが呼吸は乱れていた。


 俺も膝をつきそうになる足へ無理やり力を入れながら、三人の方を見る。


 ネリュアは壁に片手をつき、アズを支えていた。瑠香も立ってはいるが、魔道具を握る手が震えている。全員、無傷ではない。


 勝った。


 いや、止めた。


 でも、ぎりぎりだった。


 俺はレオヴァルトへ視線を戻す。


 愛斗「……俺たちは、お前らの理の中にはいない」


 レオヴァルトは答えなかった。


 静かに俺を見つめている。その目には怒りも憎しみもない。ただ、本当に理解できないものを見る目だけがあった。


 その時、周囲で新しい足音が増えた。


 衛兵だ。


 一人じゃない。複数。それもあちこちから来る。金属の擦れる音、号令を飲み込んだ呼吸、囲い込む気配。


 逃げ道が、また狭まる。


 俺は拳を握り直した。


 まだ終わっていない。


 ここから先は、本当に全員を守りきれるか分からない。しかも、今の俺には“殺さずに止める”手札がまだ少なすぎる。


 胸の奥で、その事実が鈍く痛む。


 ネリュアが背中へ手を当てた。


 その手は熱くも冷たくもなく、ただ静かだった。


 ネリュア「……愛斗」


 愛斗「なんだ」


 ネリュアは一瞬だけ迷う。


 だが、すぐに息を吸い込んだ。


 ネリュア「信じてくれるか?」


 愛斗「ああ」


 答えは、迷わなかった。


 ネリュアが少しだけ笑う。


 その笑みは疲れているのに、不思議と強かった。


 その横で、アズが白い機騎の残骸を見つめていた。


 アズ「……そこ、つながってた」


 愛斗「分かってたのか」


 アズはこくりと頷く。


 アズ「こわしたら……しんじゃう」


 俺は白い残骸を見る。


 たしかに、さっき俺が断ったのは機体と操縦者を結ぶ線だけだ。核ごと壊していたら、たぶんレオヴァルトは生きていない。


 愛斗「だから、そこだけ切った」


 アズが小さく息を吐いた。


 それは安堵にも、確認にも見えた。


 周囲の足音は、もう近い。


 でも、今この瞬間だけは、四人のあいだに同じ理解があった。


 壊すだけじゃない。


 殺すだけじゃない。


 それでも、生き残る方法を見つけなきゃいけない。


 俺は立ち上がり、呼吸を整える。


 まだ終わらせる気はない。

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