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延長線

作者: Saya
掲載日:2026/02/23

「中学二年の十月」


知り合ったのは中学二年の十月だった。

画面の中で始まった関係だった。


悩みを書き込む場所で、

私はただ文字を読んでいただけだった。


その中に、あの人がいた。


最初は名前とアイコンだけ。


でも返信を重ねるうちに、

なんとなく、その人の文章の癖が分かるようになった。


やわらかいのに、どこか端が鋭い文章。


個別で話すようになったのは、自然な流れだった。


最初から重い話ばかりだったわけじゃない。


学校のこと。

部活のこと。

先生の愚痴。


夜更かしして、どうでもいい話を続ける日もあった。


通話もした。


最初の通話は、少しぎこちなかった気がする。


でも数回目からは普通だった。


画面越しなのに、距離はどんどん近くなっていった。




「夜の通知」


「消えたい」とよく言っていたのは、

それから少し経ってからだ。


私にだけじゃない。


裏のアカウントでも、夜中にぽつぽつと呟いていた。


既読をつける前に、深呼吸することもあった。


また落ちていないか。


どこまで沈んでいるか。


私は特別な言葉を持っていなかった。


正しい答えも知らない。


それでも、返信した。


長文で送られてきたら、

私も長文で返した。


夜中の二時、三時。


眠いのに、画面を閉じられない日もあった。


支えたいと思っていた。


救う、というより。


ただ、いなくならない側でいたいと思っていた。


それが正しかったのかは分からない。


でもある日、言われた。


"居てくれて良かった。"


大きな場面じゃない。


泣いている最中でもない。


本当に、いつもの会話の途中で。


あの一文だけは、今もはっきり覚えている。




「少しの距離」


時間が経って、「消えたい」は少しずつ減った。


完全に消えたわけじゃないけれど、

頻度は明らかに減った。


そして、現実で恋人ができた。


幸せそうだった。


電話は減った。


LINEは続いていた。


少しだけ寂しかった。


でも、その寂しさは大きくなかった。


相手が笑っているなら、それでよかった。


私は私で、友達と笑っていたし、

生活はちゃんと進んでいた。


関係は細くならなかった。


形を変えただけだった。




「2024年10月14日」


晴れ。


十月にしては暖かかった。


東京ドームシティの最寄り駅。


十一時。


相手はもう着いていた。


人混みの中で迷わなかった。


"あの人かな?"とは思わなかった。


探す感じがなかった。


ただ、そこにいた。


"おまたせ。"


それだけで会話が始まった。


声は、いつも通り。


手も震えていない。


目は最初少し合わせにくかったけれど、

時間が経てば普通に戻った。


思っていた通りの人だった。


雰囲気は知っていたけれど、

ちゃんと見るのは初めてで、

やっぱり可愛いと思った。


大きなモニターがいくつも並ぶ店に入った。


私はピザ。

相手はパスタ。


向かいに座って話す。


内容はいつものLINEと同じ。


恋の話。

友達の愚痴。

北海道と東京の違い。


たくさん話したはずなのに、

沈黙の時間も多かった気がする。


でも気まずくはなかった。


それぞれがスマホを触る。


たまに、ちらっと顔を見る。


同じ空間にいるだけだった。


その日、プリクラも撮った。


"せっかくだし"と自然な流れで。


機械の中で並ぶ。


距離は近い。


でも、何かが変わる感じはなかった。


出来上がった画像を見て、

本当に会ったのだと少しだけ実感した。


夕方。


父が迎えに来たと言って、解散した。


あっさりだった。


帰り道、思い返す。


晴れていたこと。


暖かかったこと。


ピザとパスタ。


沈黙の時間。


楽しかった、と思った。


それ以上でも、それ以下でもなかった。




「4月の東京」


中学二年の十月から、四年以上。


画面の中で始まった関係は、

形を変えながら続いている。


毎日ではない。


夜通し通話することも、今は少ない。


それでも、必要なときには自然に繋がる。


来年の四月、相手は東京に出てくるらしい。


何度も画面越しで話してきた街に、

今度は住む側として。


それを聞いたときも、

大きな感情は湧かなかった。


"そっか"と思った。


少しだけ、現実味が増しただけだった。


また会うのかどうかも、

いつ会うのかも、まだ決めていない。


でも、会わなくても続いてきた関係だから、

会える距離になっても、

きっと同じように続いていくのだと思う。


それだけで、十分だ。


私たちは、きっとまだ延長線の上にいる。

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