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第三章:個性的すぎる近所の住民たち

【挨拶回り作戦開始】


翌朝、俺と美咲さんは新婚夫婦として初めての共同作業に臨んだ。近所への挨拶回りである。


「緊張しますね」


美咲さんが手土産の箱を抱えながら言った。3万円の高級和菓子である。俺の1ヶ月の食費より高い。


「俺も緊張してます。でも一緒だから心強いです」


「ありがとうございます」


美咲さんが微笑んだ。朝日に照らされた彼女は、まるで女神のようだ。俺みたいなコンビニ店員上がりには勿体ない相手である。


「それでは、まず隣の家から行きましょう」


隣の家は確か、謎の発明家が住んでいるとサモナイ・キングが言っていた。毎日何かを爆発させているらしい。


「あの、爆発って大丈夫ですかね?」


「きっと大丈夫ですよ。発明家さんなら安全に配慮してるはずです」


美咲さんは楽観的だ。でも俺は不安だ。


【天才博士との初対面】


隣の家は洋風の一軒家で、外見は普通だった。しかし、よく見ると煙突から黒い煙が立ち上っている。そして庭には謎の機械がいくつも置かれている。


「すみませーん」


俺がインターホンを押した瞬間、家の中から爆発音が聞こえた。


「うわあああ!」


俺は飛び上がった。美咲さんも驚いて俺にしがみついた。柔らかい感触にドキドキする。


「大丈夫ですか?」


「あ、すみません。今のは実験の音です」


インターホンから男性の声が聞こえた。


「新しい住民の方ですね。今開けます」


ドアが開くと、白衣を着た髪の毛がボサボサの男性が現れた。顔は煤だらけで、眼鏡が割れている。まるで漫画の博士キャラそのものだ。


「やあやあ、お隣に越してこられた方ですね。私、発明家の天才博士と申します」


「天才博士?」


俺は困惑した。それ、本名じゃないよね?


「本名は田中博士ですが、皆さん天才博士と呼んでくれます」


田中博士...俺と同じ苗字だ。何かの縁だろうか。


「こちら、私の発明品です」


天才博士が差し出したのは、なんだかよくわからない機械だった。手のひらサイズで、いくつものボタンが付いている。


「これは何ですか?」


「全自動靴下配達ロボットです」


「靴下配達?」


俺は首を傾げた。


「そうです。朝起きたらこのロボットが新しい靴下を足に履かせてくれるんです」


天才博士は誇らしげに説明した。確かにすごい技術だが...


「でも需要ありますか?」


「ないです」


即答だった。


「え?」


「全くありません。でも作るのが楽しいので続けてます」


なるほど、趣味の発明家か。悪い人ではなさそうだ。


【天才博士の発明品紹介】


「他にも色々作ってるんですよ」


天才博士が嬉しそうに庭の機械を指差した。


「あれは『自動芝刈りドローン』です」


「おお、それは便利そうですね」


美咲さんが興味を示した。


「はい。でも芝生の代わりに花壇の花も刈ってしまうのが欠点です」


「それは問題ですね」


「そちらは『全自動洗濯物取り込みアーム』です」


「それも便利そう」


「でも雨の日も洗濯物を外に干してしまうのが欠点です」


どの発明も惜しい感じだ。


「あの大きいのは何ですか?」


俺が一番大きな機械を指差した。


「あれは『思考読み取り装置』です」


「思考読み取り?」


「はい。人の考えていることがわかります」


それはすごい発明だ。でも...


「でも読み取れるのは『お腹すいた』『眠い』『トイレに行きたい』の3つだけです」


「微妙ですね」


「まあ、そうですね」


天才博士は苦笑いした。


【天才博士の親切な申し出】


「あ、そうそう。新居の電気系統で何か問題があったら言ってくださいね」


「ありがとうございます」


「私が改造してあげます」


「改造?」


俺は不安になった。


「より便利にですよ。例えば、思考で電気がつくとか」


「いえ、普通のスイッチで十分です」


俺は慌てて断った。思考で電気がつくなんて、絶対に壊れそうだ。


「そうですか。残念です」


天才博士は本当に残念そうだった。


「でも何かあったらいつでも声をかけてください。夜中でも大丈夫です」


「ありがとうございます」


俺は愛想笑いをした。でも夜中に爆発音がしたら起きちゃいそうだ。


「それでは、これからもよろしくお願いします」


「こちらこそ」


天才博士と握手した。手が煤で汚れた。


【向かいの家へ】


次に向かいの家を訪問した。ここは元マッドサイエンティストの家らしい。


「マッドサイエンティストって、世界征服とかする人ですよね?」


「元マッドサイエンティストだから、今は普通の人じゃないですか?」


美咲さんは楽観的だ。でも俺は心配だ。


向かいの家は洋風の家で、庭には色とりどりの植物が育っている。でもよく見ると、なんだか普通じゃない色の植物もある。青い花、紫の葉っぱ、虹色のキノコ...


「なんか変な植物がありますね」


「園芸が趣味なのかもしれませんね」


そして庭からは、なんだか怪しい煙が立ち上っている。


「すみませーん」


今度は爆発音はなかった。代わりに、中から美味しそうな匂いが漂ってきた。


「はーい」


出てきたのは、意外にも普通のおばさんだった。エプロンをつけて、とても穏やかそうだ。全然マッドサイエンティストに見えない。


「あら、新しい住民の方ね。私、元マッドサイエンティストの佐藤と申します」


「元マッドサイエンティスト?」


美咲さんが興味深そうに聞いた。


「ええ、昔は世界征服を企んでたりしてたんですけど、今は主婦やってます」


「世界征服って...」


俺は驚いた。本当にマッドサイエンティストだったのか。


「若い頃の話よ。今は旦那と息子のために料理作ったり、庭でハーブ育てたりしてます」


佐藤さんは笑顔で答えた。確かに今は普通のお母さんって感じだ。


しかしながら初対面の自己紹介で「元マッドサイエンティストでした」と言ってしまう感覚もやはり元マッドサイエンティストなのだろう。


【元マッドサイエンティストの現在】


「あの青い花は何ですか?」


美咲さんが庭の植物を指差した。


「あー、それは記憶を消すハーブね」


「記憶を消す?」


俺は驚いた。やっぱり普通じゃない。


「うちの旦那がうっかり秘密を漏らしそうになった時用よ」


「秘密?」


「私の過去とかね。近所の人にはただの主婦ってことにしてるから」


なるほど、秘密保持のためのハーブか。

なぜ俺には明かした。


「でも今は平和に暮らしてますから、ご安心ください」


「そうですか」


「たまに間違えて爆発する調味料作っちゃうくらいで」


「爆発する調味料?」


「味は普通なんだけど、食べると口の中で小さく爆発するの。息子の友達には好評よ」


マッドサイエンティストの血は完全には抜けてないようだ。


【佐藤さんの料理】


「今ちょうど昼食の準備をしてたの。よかったら食べていく?」


「いえいえ、お気遣いなく」


俺は慌てて断った。爆発する料理なんて怖すぎる。


「大丈夫よ。今日のは普通の料理だから」


「普通の?」


「ええ。ただちょっと色が変なだけで」


佐藤さんが鍋の中を見せてくれた。中には虹色のスープが入っている。


「すごい色ですね」


美咲さんが感心していた。


「食べると一時間だけ超人的な力が出るの」


「超人的な力?」


「車を持ち上げたりできるのよ。息子の運動会では重宝したわ」


やっぱり普通じゃない。


「でも副作用で一時間後にすごく眠くなるのが欠点ね」


「なるほど」


俺はとりあえず相槌を打った。


【子育てエピソード】


「息子さんはおいくつですか?」


美咲さんが聞いた。


「高校生よ。でも最近反抗期で大変なの」


「反抗期ですか」


「『お母さんの過去が恥ずかしい』って言うのよ」


確かに、マッドサイエンティストの母親は恥ずかしいかもしれない。


「でも私の作った『反抗期解消薬』を飲ませたら、すっかり素直になったわ」


「薬で解決したんですね」


「ええ。でも今度は逆に甘えん坊になりすぎて困ってるの」


薬で性格を変えるのはどうなんだろう。


「まあ、反抗期よりはマシかしら」


佐藤さんは苦笑いした。


【旦那さんの話】


「旦那さんはどんなお仕事を?」


「普通のサラリーマンよ。経理の仕事してるの」


「そうなんですか」


「でも時々、私の昔の実験道具を使って家計簿つけてるわ」


「実験道具で家計簿?」


「DNA解析装置とか使って、レシートの偽造を見破ったりしてるの」


「レシートの偽造?」


「息子が小遣いをごまかそうとした時とかね」


すごい技術の無駄遣いだ。


「でも今度、DNA解析装置が壊れちゃって」


「それは大変ですね」


「天才博士に修理をお願いしたんだけど、逆に進化しちゃって」


「進化?」


「今度はレシートを見ただけで、買い物した人の性格まで分析するようになったの」


「すごいですね」


「でも使い道がないのよね」


確かに、そんな機能は必要ない。


「あ、そうだ。なぜかあなたたちに過去の話をしちゃったけど青いハーブを食べていかない?周りにバラされると昔の仲間がやってくるのよね。」


「いえ、口外しないので大丈夫です。本当に。」


「頼むわね。せっかくのご近所さんがいなくなったら寂しいから。」


「は、はい。」


本当に、近所の人に過去を内緒にしているのか?

初対面の俺たちにすら口が軽すぎるぞ。


実は何かに混ぜて青いハーブを食べさせているんじゃ。


【斜め向かいの占い師】


「それでは次に、斜め向かいのお宅にも挨拶に行きましょう」


「気をつけてね」


佐藤さんが手を振った。


「あの占い師さん、ちょっと変わってるから」


「変わってる?」


「まあ、会えばわかるわよ」


俺たちは斜め向かいの家に向かった。そこは和風の家で、玄関には水晶玉やタロットカードの看板が掛かっている。


「いかにも占い師って感じの家ですね」


「そうですね」


「すみませーん」


ドアが開く前に、中から声が聞こえた。


「あー、新しい住民の方ね。もう来ることわかってたわ」


「え?」


ドアが開くと、派手な衣装を着た中年女性が現れた。ターバンを巻いて、大きなイヤリングをつけている。まさに占い師という格好だ。


「私、占い師のマダム・ミステリーよ。あなたたちの未来、見えてます」


「私たちの未来?」


美咲さんが興味深そうに聞いた。


【マダム・ミステリーの予言】


「うーん...あなたたち、本当は夫婦じゃないわね」


俺と美咲さんは顔を見合わせた。バレてる?


「でも愛は生まれる。半年後くらいに」


「愛?」


「そうよ。最初は偽物でも、だんだん本物になっていくの。よくあるパターンよ」


マダム・ミステリーはニヤリと笑った。当たってるのか外れてるのかよくわからない。


「あと、あなたの正体もバレるわね」


マダム・ミステリーが俺を指差した。


「正体?」


「企業の社長じゃないでしょ?本当はもっと普通の人よね」


完全にバレてる。


「でも大丈夫。最終的にはハッピーエンドよ。みんな幸せになる」


「みんなって?」


「ここの住民全員よ。このセレブ街、実は問題だらけなの」


「問題だらけ?」


「ええ。でもあなたたちが来たことで、すべてが良い方向に向かう」


マダム・ミステリーは水晶玉を見つめながら言った。


【占いの精度について】


「あの、マダム・ミステリーさんの占い、よく当たるんですか?」


美咲さんが遠慮がちに聞いた。


「当たる時もあれば、外れる時もあるわね」


「普通の占い師と一緒ですね」


「でも今回の予言は確信があるわ」


「なぜですか?」


「だって、とても分かりやすい展開だもの」


確かに、俺たちの状況は分かりやすすぎる。


「ただし、一つだけ注意点が」


「何ですか?」


「町内会長には気をつけなさい。あの人だけは...ちょっと特殊よ」


やっぱり町内会長は要注意人物らしい。


【マダム・ミステリーの商売】


「ところで、普段はどんな占いを?」


「色々よ。恋愛占い、仕事占い、健康占い...でも一番人気は競馬の予想ね」


「競馬?」


「ええ。でも最近調子悪くて、当たらないのよ」


「そうなんですか」


「だから今は『外れない占い』をメインにしてるの」


「外れない占い?」


「『今日は何かが起こる』とか『明日は昨日の翌日』とか」


確かに外れない。でも意味もない。


「でもお客さんには『深い』って好評よ」


「そうなんですか」


俺には理解できない世界だ。


【町内会長の家へ】


最後に町内会長の家を訪問することになった。一番立派な家で、門構えも重厚だ。まるでお屋敷のようだ。


「緊張しますね」


「そうですね。でも皆さん、気をつけろって言ってましたから」


「きっと厳格な方なんでしょうね」


俺たちは恐る恐るインターホンを押した。


「すみませーん」


すぐに反応があった。


「はい、どちら様でしょうか?」


「新しく越してきました田中と申します」


「あー、新住民の方ですね。お待ちしておりました」


門が自動で開いた。重厚な音を立てて。


【町内会長との初対面】


玄関まで歩く間、俺たちは緊張していた。どんな恐ろしい人が出てくるのだろう。


玄関に着くと、立派なスーツを着た初老の男性が出迎えてくれた。


「私、町内会長の山田と申します」


山田会長は丁寧に挨拶した。見た目は普通の上品な紳士だ。全然怖くない。


「こちら、妻です」


「美しい奥様ですね」


山田会長は美咲さんを見て微笑んだ。


「ありがとうございます」


美咲さんも礼儀正しく答えた。


「どうぞ、中へ」


俺たちは家に招かれた。内装も豪華で、美術品がたくさん飾られている。


【山田会長の意外な過去】


「ところで田中さん、お仕事は?」


「IT企業を経営しております」


俺は練習通りに答えた。


「おー、IT企業ですか。最近はAIとかVRとか、色々あって大変でしょうね」


「はあ、まあ」


俺は曖昧に答えた。AI?VR?何それ?


「実は私も昔、ITに関わる仕事をしておりまして」


「そうなんですか?」


「ええ。某大手企業で、人工知能の開発に携わっておりました」


山田会長は誇らしげに語った。意外にハイテクな過去がある。


「でも、倫理的な問題で会社を辞めることになりまして」


「倫理的な問題?」


「人工知能に人格を与える研究をしていたんです。でも、それは神の領域だと批判されて」


なんか重い話になってきた。そして危険な感じもする。


「今は隠居生活ですが、時々昔の研究を続けております」


「研究を?」


「ええ。地下に研究室を作りまして」


山田会長は家の奥を指差した。


「もしよろしければ、今度見学にいらしてください。面白い発明品がたくさんありますよ」


「ありがとうございます」


俺は愛想笑いをした。でも心の中では「絶対に行かない」と誓っていた。人工知能に人格を与える研究って、絶対ヤバイやつだ。


【町内会の活動】


「ところで、この町内会はどんな活動を?」


美咲さんが聞いた。


「主に防犯活動ですね。あとは親睦を深める行事とか」


「どんな行事ですか?」


「バーベキュー大会、運動会、クリスマス会...普通の町内会と同じです」


意外に普通だ。


「でも参加者がちょっと個性的でして」


「個性的?」


「天才博士は毎回新しい発明品を持ってきますし、佐藤さんは変な色の料理を作りますし、マダム・ミステリーは勝手に皆の未来を占い始めますし」


確かに個性的だ。


「でも皆いい人たちですよ」


「そうですね、皆さん親切でした」


「それは良かった。きっとすぐに馴染めますよ」


山田会長は優しく微笑んだ。


【歓迎会の提案】


「そうそう、今度歓迎会を開催しましょう」


「歓迎会?」


「ええ。新住民の歓迎会です。住民の皆さんにも参加していただいて」


「ありがとうございます」


「来週の土曜日はいかがでしょう?」


「大丈夫です」


俺は答えた。でも内心は不安だ。個性的な住民たちが集まったら、どんなことになるんだろう。


「それでは楽しみにしています」


「こちらこそ」


【帰路での感想】


家に帰る途中、俺と美咲さんは今日の感想を話し合った。


「皆さん、思ったより普通でしたね」


「普通ですか?」


俺は首を傾げた。


「発明家で、元マッドサイエンティストで、占い師で、人工知能研究者ですよ?」


「でも皆さん、いい人でした」


「それはそうですけど」


確かに悪い人ではなさそうだった。でもちょっと変わってる。


「情報収集の成果はどうでしょう?」


「うーん、まだよくわからないですね」


今日は挨拶だけだった。本格的な情報収集はこれからだ。


「でも皆さんと仲良くなれれば、色々教えてもらえそうです」


「そうですね」


美咲さんは前向きだ。


【夜のサモナイ・キングへの報告】


その夜、俺はサモナイ・キングに電話で報告した。


「住民の皆さんに挨拶してきました」


「そうか。どんな感じだった?」


「皆さん個性的ですが、いい人たちでした」


「それは良かった。で、何か有益な情報は?」


「まだ挨拶だけなので...でも来週歓迎会があります」


「歓迎会か。それは情報収集のチャンスだな」


「はい」


「頑張れよ」


電話を切って、俺は今日を振り返った。


確かに住民たちは個性的だったが、思ったより親しみやすかった。これなら情報収集も上手くいくかもしれない。


【美咲さんとの距離】


美咲さんとの関係も、少しずつ自然になってきた。最初は緊張していたが、一緒に住民たちと話していると、だんだん本当の夫婦みたいに感じてくる。


「勇司さん」


美咲さんが俺の部屋にお茶を持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「今日お疲れ様でした」


「美咲さんもお疲れ様でした」


「明日からも頑張りましょうね」


「はい」


美咲さんが微笑んで去った後、俺は一人考えた。


偽装結婚だとわかっていても、こんな美しい人と一緒にいると、だんだん本当の気持ちが芽生えてくる。


マダム・ミステリーが言っていた「愛は生まれる」という予言は、当たるかもしれない。


【明日への期待】


明日からは、もう少し積極的に住民たちと交流してみよう。情報収集が目的だが、それ以上に皆と仲良くなりたいと思った。


天才博士の発明、佐藤さんの料理、マダム・ミステリーの占い、山田会長の研究...皆それぞれ面白そうだ。


そして何より、美咲さんとの偽装夫婦生活も悪くない。


俺の新しい人生は、予想以上に楽しくなりそうだ。


※天才博士の新作発明「自動挨拶ロボット」は、なぜか関西弁でしか話せない仕様となっている。

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