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7 依頼内容


 ユミエたちのパーティーに同行することになった。

 私に冒険者の素質があるか見てくれるそうだが、ひとつ心配事もある。


『ちなみに、どんな依頼なの?』


 私は誰というでもなく尋ねた。

 もし全長100メーターのドラゴンを狩るとかいう依頼なら、今からでも来た道を引き返したほうが賢明かもしれない。


「ゴブリン狩りよ」


 答えたのはユミエだった。

 ゴブリンか。

 名前は聞いたことがある。

 でも、見たことはない。

 超極寒のドシュネーは生息環境に適していないのだろう。


『雑魚魔物ってことであってる?』


 私のゲームや漫画知識を参考にすると、ゴブリンはスライムに次ぐ雑魚モンスターだ。

 雑魚モンスター。

 素晴らしい響きだ。

 ナントカドラゴンよりずっといい。


「雑魚だなんてとんでもない!」


 ランズが声を荒らげた。


「彼らは人間ほどではないにせよ高度な知能を持つ動物なのです! 彼らの社会に祭司階級の個体がいることはかねてより知られていましたが、最近になって、なんとなんと、固有の宗教を持っていることが確認されたのですよ! 人間以外で信仰の概念を獲得した唯一の生物! それがゴブリンなのです! 彼らは大地の神を崇め、少しでもその力にあやかろうと地下深くに営巣するようです! また非凡な音楽の才を持つことも知られており、原始的な打楽器にとどまらず、複雑な音色を奏でる管弦楽器をも弾きこなすことができるのです! 一説によると、文字を使う個体もいるのだとか! ゴブリン! ゴブリンはとても美しい生物なのです! いやぁ、興味深い!」


 ものすごい早口でそうまくし立てられた。

 丸眼鏡の奥の血走った目がまばたきひとつせず私を見つめている。

 ちょっと怖い。

 よく見たらハンサムだが、それが完全にかき消されるほどの狂気を感じる。


 私はユミエに顔を寄せた。


『彼、魔物オタクなんだ』


「そうなの。変わっているところはあるけど、ヤバイ薬とかはやってないわ。将来は魔物学者になりたいそうよ」


 冒険者は野外研究フィールドワークの一環ということか。


 その後もランズは早送りしているみたいな甲高い声でゴブリン美学を説いてくれたが、私は興味が持てなかった。

 話を戻そう。


『知能が高いってことは厄介そうだね』


「だから狩んのさ。大きな依頼ヤマが控えてっからなァ。その前に露払いをしなきゃなんねーわけだ」


 短剣で無精ひげを剃りながら、グラーシュが言った。

 歩きながらよくやるな。


「タクナ、奴らは結構手ごわいんだぜ? オレは尻に毒矢をもらって丸1ヶ月寝込んだことがあんだ。ほらよ、ここ見てみィ」


『……』


 グラーシュが半ケツを出して私に見せつけてくる。

 雪のような白い肌がまぶしい。

 もしや私の尻より綺麗なのではあるまいな。

 謎の敗北感で私は打ちのめされた。


『大変そうな依頼だけど、私が飛び入り参加してよかったの? 和を乱す自信しかないや』


「あたしたちも今回だけの仮パーティーだから大丈夫よ」


 ぶっきらぼうに言ったユミエは続けて深いため息をついた。


「しっかし、野郎ばっか増えてもねえ……」


『野郎? それ、私のことかい?』


 もしかして私、男だと思われているのだろうか。

 いや、絶対思われているな……。

 こんなナリだから性別が判然としないし、鎧の中で複雑に反響した声は男とも女とも言えない響きになっている。

 なにより、「タクナ」は男の名だ。

 爺さんが私の性別を確認する前にテキトーに名付けたせいで、こんな悲劇が起きたのだ。

 おのれ、ジジイめ……。


 そうこうしているうちに、私たちは樹氷林にやってきた。

 高い木々で空がまったく見えなかったが、日差しが雪に乱反射して林の中は異様な明るさがあった。


「この辺りがゴブリンの遭遇多発地点です」


「ここからは陣形を組んで進むわよ」


先頭ポイントマンは剣士のオレが引き受けるぜ」


 慣れた様子で布陣する3人に余計な口を挟んで悪いのだが、ちょっと一言いいだろうか。


『ポイントマンは私じゃダメか?』


「おいおい、先頭は一番危険なポジションなんだぜ? 素人の出る幕じゃねえよ」


 グラーシュが即座に難色を示した。

 でも、危険だからこそ私が引き受けるべきだ。

 私はただの暇つぶしで冒険者ごっこをしている。

 そんな奴のために誰かが傷つくなんてことはあっちゃならない。


 それに、私なら槍で串刺しにされようが、火炙りにされようが、砲弾で粉微塵に吹き飛ばされようが痛くも痒くもない。

 毒矢でもなんでも好きなだけ撃ってきやがれというわけだ。


『まあ、ここで死ぬようなら推薦する価値もないってことで笑ってくれ』


 私は有無を言わさず前に出た。

 グラーシュが感心したように息を吐いた。


「ハッ。なかなか肝が据わってやがるぜ。オレはこいつ気に入ったぜ? もし、生きて戻れたら推薦でもセイスンでもなんでもしてやらァ」


 言質は得た。

 頑張ろう。

 私は意気揚々と歩き出した。


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