6 ユミエの誘い
「ごめんなさい! あたし、てっきりアンデッドだと思っちゃって……!」
弓の女は髪が下につくほど腰を折って陳謝した。
耳が長い上にとんがっている。
そういう種族はほかにもいるが、目鼻立ちが異様なまでに整っているのを見るにエルフ族だろう。
爺さんが言っていた。
この世で最も醜悪かつ残忍な種族だと。
根絶やしにせねばならないのだと。
ドワーフ流のジョークだと思っていたが、挨拶代わりに矢を射掛けてきたことを思えば、あながち笑い流すことはできないのかもしれない。
というのは冗談だ。
「あ、あの……。あたし、あんたの顔、思いっきり射ちゃったけど大丈夫?」
『当たり所がよくて奇跡的に無傷だ。それに、紛らわしいことをした私にも非はある。謝らなくていいよ』
「よかったぁ。また誤射っちゃったかと思ったわ……」
エルフの女は心底安堵した様子で、雪の上に脚を投げ出した。
「また」の部分にはツッコミを入れたほうがいいのだろうか。
『あんたたちは冒険者なの?』
私は三人の身なりを眺めて、そう尋ねた。
防寒コートの下に革の鎧が見えている。
狩人というには少々物々しい装いだが、兵士にしては装備に統一感がない。
「そうよ。私はユミエルフィーナ。ユミエでいいわ。こう見えて、冒険者歴50年の大ベテランなの」
弓の女ことユミエが自慢げに胸を反らした。
少なくとも、50歳以上か。
『てっきりハタチ前かと思った』
「私に貫禄がないって言いたいの? 失礼しちゃうわ」
おっと、若く見られたいのが一般的な女性心理のはずだが、エルフ族は例外らしい。
今度から気をつけよう。
「オレはグラーシュ。剣士だ。斬りかかっちまって悪かったなァ」
無精ひげの男が私の背中をしたたかに叩いた。
ごーん、と鐘のような音がしたので、中がカラだとバレやしないかとヒヤヒヤした。
「僕はランズというものです。呪いの鎧とは珍しいですね。ぜひ詳しくうかがいたいものです」
槍を持ったノッポの男が丸眼鏡越しに好奇の目を向けてくる。
3人はいわゆるパーティーを組んでいるのだろう。
『私はタクナだ。呪いを解く方法を探して方々旅して回っている』
と、私はスラスラと嘘をついた。
どうせ嘘なのだから、偽名を名乗るんだったなと少し後悔。
『よかったら、町まで案内してくれないか? この辺にコウルベールって町があるはずなんだが、どこも似たような景色だからすっかり迷ってしまって』
「もしかして、あんた、冒険者を目指してんの?」
ユミエが尋ねた。
『まあ、そうだが。でも、どうしてそう思ったの?』
「だって、あそこは冒険者の町だもの。コウルベールを目指すのは冒険者か行商人くらいのものよ」
そうなのか。
全然まったく知らなかった。
「お前さんにはすまねえが、オレら今から依頼をこなさにゃならんのよ」
「町まで案内するとなると、その後になりますかね」
グラーシュとランズがバツの悪そうな顔をした。
その横で、ユミエがポンと手のひらを打つ。
「ちょうどいいじゃない。ねえ、タクナ、あたしたちと来なさいよ。あんたみたいに素性のわからない奴が冒険者になろうと思ったら、ほかの冒険者からの推薦がいるのよ。推薦に値する奴かどうかあたしたちで見極めてあげるわ」
『その話、乗った!』
私は腹を空かせたフナのように食いついた。
渡りに船とはこのことだ。
『でも、少し待ってくれ』
「なによ?」
『いや、ちょっと日課の座禅をだな……』
私は雪の上にあぐらをかいてスキルを切断した。
いったん、本体に戻る。
目を開けると、私の寝顔をしげしげと眺めるシロと至近距離で目が合った。
「いいかね、シロ」
「なんだよ?」
「私にはね、突然眠り込んでしばらく起きなくなるという謎の才能があるんだ。私が寝ているときはそっとしといてくれ」
シロは力強く頷いた。
「わかった。僕が見てるからタクナは安心して寝てていいよ?」
「見んでよし。逆に不安になるわ……」
ということで、私はわずかな懸念を抱えたまま鎧に戻った。
とりあえずまあ、これで冒険者への一歩目を踏み出せそうだ。
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