48 こたつでのんびりする
「タクナ、見てー! レイエルが雪で犬作る魔法教えてくれたー!」
こたつでぬくぬくしていると、シロが駆け込んできた。
腕の中に四つ足の氷像を抱えている。
犬と言われれば犬に見えるが、忌憚のない意見を言わせてもらえるなら「犬のような何か」と称するのが妥当であろう。
「雪で犬を作る魔法? そんなのもあるんだ」
「犬じゃない。狼だ。まあ、狼というにはいささか迫力が不足しているけどな」
レイエルが肩に積もった雪を払いながら言う。
「教えたのは水属性魔法『氷獣の術』だ。聖級相当の魔法なんだがな。まだ未熟とはいえ、こうも易々とものにされると思うところがあるな」
レイエルはちょっと悔しそうにしている。
魔法の天才でも習得にはそれなりの苦労を要したのだろう。
「獣ということは猿やキジも作れるの? 桃太郎ごっこできるじゃん」
「もも? なんだか知らんが、獣ならばおおかた作れるぞ。だが、シロシッポは狼系獣人の気質があるからな。狼が一番相性がいいだろう」
氷でできた犬もどきはぎこちない足取りで土間を駆け回り、そして、自分の脚につまずいて転んだ。
がしゃんと割れるのを見て、シロが少し悲しそうな顔をする。
詳しい原理はわからないが、あれも遠隔系の魔法なのだろう。
「おーし、シロや。あとでポチの墓を作ってやろうね。それより、何か気づかないかい?」
「ん? ……なんかいい匂いする」
シロが小さな鼻をピクピクと動かした。
「なんの匂い?」
「ナンの匂いだよ」
私は石窯からひらべったいパンを取り出した。
本当はふっくらしたパンを焼こうと思ったのだが、失敗して潰れてしまったのだ。
まあ、味のほうは大丈夫だろう。
「肉の匂いもするっ! タクナ、お前、僕に内緒で肉食ったな! 意地汚いやつ!」
「私の意地はたしかに汚いけどさ、でも、子供に隠れて食ったりしないっつの。食うなら堂々と見せつけるように食うね。なんせ意地汚いからね」
なんということはない、ただ、ナンの中に肉を詰めているだけのことだ。
半分に切り分けてやると、湯気と一緒に分厚い肉とたっぷりの肉汁があふれ出してきた。
うまそうだ。
「塩漬けにした肉を南国の赤い香辛料と一緒に炒めたんだ。刺激的な味だと思うよ」
私の説明を最後まで聞かなかったシロが口から火を噴くような仕草をした。
赤い香辛料はギルが持ってきたものだけど、南国の果実としか聞いていない。
まあ、十中八九、唐辛子だろう。
「なんか、口の中ヒリヒリする……。でも、めっちゃうまい!」
そりゃ、なによりだ。
「どれ。俺も試してみようかな」
レイエルが小さいほうのナンを取ろうとしたので、私はベシッと叩いてやった。
「何するんだ、タクナ」
「レイエル、客人が遠慮するんじゃないよ。こっちの大きいのをおたべよ。ほらほらー」
「悪いな。助かる。……だが、お前、ちょっと悪い顔していないか?」
「私はいつも悪い顔しているでしょ?」
「それもそうか」
レイエルは大きいほうのナンを手に取り、大胆にも大口を開けてガブリと噛みついた。
「ほう。肉汁の香りが生地によく……」
食レポ中だったレイエルが時間停止魔法をくらったみたいに固まった。
顔が赤くなり、見る見るうちに汗が噴き出してくる。
「ゴフ、お、俺を舐めるな、よ……フぐご」
「おーっ! レイエル、いけるクチだねー!」
大量の唐辛子を混入するという鉄板のいたずらを仕掛けておいたのだが、レイエルは気合で呑み込んだ。
「う、ぐぐ……。これはこれで、なかなか……。タクナの手作りだと思うと、なんでもうまいな」
「そうかい? 今度、泥団子も作ってしんぜよう」
「前言撤回だ。ごフ……」
窓辺でキンキンに冷やしておいた水をカップに注いでやる。
舌を冷やしなされ。
「タクナ、おかわり!」
「仕方ない奴だね。私のを半分やるよ」
「半分かよ。ケチ」
「図々しい奴め。脇を出しやがれ。くすぐってやらぁ」
「うわあああ! 鬼ババアに襲われるうう!」
そんなことをしていると、玄関のほうでドゴンと重たい音がした。
熊がぶつかり稽古でもしているのかと思ったが、違った。
丁寧なノックが聞こえるので玄関扉を開けてみると、ギルがいた。
それと、なぜか木箱が山のように積み上げられている。
「顔を見に来た。タクナ、元気そうでなによりだ」
ギルは表情筋を一切使わずにそう言った。
「またお前か。来るなと言っているだろうに」
「何を言われても来ますよ。足繁く通います。ちなみに、お兄ちゃんの顔は見たくもありません」
「俺だってそうだ」
喧嘩になる前に上がってもらう。
木箱を運び込むと、土間がいっぱいになった。
中身はなんだろう。
香ばしい匂いがする箱もある。
「どれもコウルベールの市場で買ったものだ。雑貨やら果物やらとりあえず片っ端から買い込んでおいた。もらってくれ」
ギルは早くもこたつに潜り込んでいる。
「さては、もので釣る作戦だな。私ゃそんなに安っぽい女じゃないぞ?」
「チョコレートなんかもあるぞ」
「えへへ、ギル好きー」
「お、おい、タクナ……! そんな奴にしなだれかかるな!」
レイエルがヤイヤイとうるさい。
まぶしいしうるさいし、自己主張の強い兄貴だ。
「でも、こんなに貰っていいの?」
「お前には妹を助けてもらったからな。報酬とは別に感謝を示したつもりだ」
そういうことなら、遠慮なく貰い受けよう。
シロと一緒にチョコクッキーを作れば最高の暇つぶしになりそうだ。
「む? それはなんです? お兄ちゃん」
レイエルの前に置かれた皿にはまだ激辛ナンが半分ほど残されている。
「これか? これはタクナの手作りナンだ」
「タクナの手作り、だと……」
ギルの顔が見る間に歪んでいく。
その様子をレイエルは勝ち誇った表情で迎え撃った。
「いやぁ、おいしかったなぁ。タクナの手作りナンは。もちろん、この残りも俺が食べるぞ。あー、うまい。……ゴフ、がふ。辛っら……いや、うまいな。あーうまいゲフ。災ナンだったな、ギル。ナンだけに。お前の分はないんだよ」
「決闘です。いいえ、殺し合いをしましょう、お兄ちゃん」
「望むところだ」
出てけーと言うまでもなく、馬鹿どもは出て行った。
そして、ほどなく空爆みたいな音が雪山に轟いた。
「大人って思ってるよりガキだよな」
シロは膨れた腹をさすって、こたつ寝を始めた。
まったくだ。
でも、あの手の馬鹿のおかげで私は退屈しないですむ。
迷惑にならない範囲で是非ともドンパチやってくれ。
私もこたつの中にごろんした。
人間は食って寝てりゃ生きていける。
だけど、人生ってのはそれだけじゃ豊かにはならない。
やっぱり夢中になれることがないとね。
ドシュネーでのんびり過ごして、コウルベールで大冒険。
私は今のところそんなヘンテコな暮らしに夢中になっている。
どうやら私の人生は当面の間、退屈しなくてよさそうだ。
明日もおいしいもの食べて、こたつの中で冒険しよう。
その前にちょっとお昼寝だ。
「おやすみ、シロ」
私は真っ白な髪をさらりとなでて、目をつむった。
外うるせえな、と思いながら。
中途半端ではありますが、これにて完結です!
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