24 プレゼント
「しかし、珍しいな。獣人型の魔族か」
レイエルはこたつに半分乗り上げる形で、向かいに座るシロをしげしげと観察している。
「大きな耳と瞳が織り成す愛くるしい顔立ち。そして、いかめしい角。この対比がタクナの好みなのか」
私の好みを勝手に分析しないでほしい。
レイエルは私を見た。
「俺も角を生やしてみようかな」
「なぜそうなる?」
「別に角を生やすのは俺じゃなくてもいいんだ。どうだ、タクナ? お前、ケモ耳と尻尾と角をつけてみないか? きっと似合うぞ」
「黙れ。こっち見るな」
私が投げた座布団はレイエルの鼻先にぶつかる寸前で急停止した。
魔法ってのは便利だ。
「ねえ、レイエル」
シロは何かに気づいたという顔をしている。
「なんだ? シロシッポ」
「レイエルってタクナのこと好きなの?」
「ぐボふッ……」
盛大に白湯を噴くレイエルであった。
「ど、どうして、そんな風に思う?」
「だって、ずっとタクナのこと見てるし」
「見てない」
「見てるの見てたし。時間も数えてた。合わせて130秒だった」
「違う。せいぜい30秒くらいだ」
30秒だろうと私は見られたくないわけだが?
「それにしても、立派な角だな」
レイエルはあからさまに話題を逸らした。
「魔族の強さは角の大きさで決まるんだ」
「強さって。いつまで戦乱の時代を引きずってんのさ」
「いや、タクナ。こいつは本当に強くなるぞ。俺に2週間ほどあずけてみろ。空を飛べるようにして返してやる」
うちのシロにそんな機能はいらん。
私は薪を取るために席を外した。
薪を置いてある裏庭に来たところでレイエルが追いついてきた。
「熊が出たら危ないからな。べ、別にお前のことが好きとかそういうのじゃないんだからな。心配でついてきてやっただけだ」
ユミエみたいなツンデれ方だ。
心なしか顔かたちも似ている気がする。
「シロ、いつか消えるのかな?」
私は気になっていたことを吐露した。
私が消えろと念じれば、シロは消えてしまう。
春の雪だるまのような儚い存在だ。
消えろと言わずとも、ふとしたことで消えてしまうのではないかと恐ろしい。
「その点は、心配いらないんじゃないか。魔族も生まれて時間が経てば存在が安定してくる。ほとんど人間と同じだからな。人間は溶けたりしないだろう」
そう言ってもらえると心強い。
ついでに、もうひとつ確認しておこう。
「ほとんど人間ってことは、子供とかも作れるの?」
「人間と魔族の間に子が生まれたという話はいくらか聞いたことがある。どちらの性質をより濃く受け継ぐのかは知らないがな」
そこまで言ったところで、レイエルの顔から血の気が失せた。
「ま、まさかタクナ……。シロシッポと……」
「卑猥な想像しないでくれない?」
発想がおっさんなのよ。
黙っていれば見られたものなのに、もったいない。
薪を持って家に戻る。
「怪我しているから手伝ってくれて助かったよ、レイエル」
「怪我? お前、どこか悪いのか?」
私は左腕の袖をまくり上げた。
「狼にガブっとされちゃってね。もう治りかけなんだけど」
「どうして早く言わないんだ!」
急に大きな声を出されたので私はびくりと身を震わせた。
「来い」
レイエルは私の肩を押して暖炉のそばに座らせた。
作り物のように整った顔が患部をよく見ようと近づいてくる。
暖炉の火に照らされた瞳はルビーみたいに輝いて見えた。
「よかった、化膿はしていないようだな。すぐ治してやる。少しも傷まないから大丈夫だぞ、タクナ」
「それは……ありがとう」
礼を言い終わって数秒としないうちに、私の腕から傷は消えていた。
綺麗なもんだ。
もはや、どこに傷があったのかさえ定かではない。
「お前を傷つけた狼はどこだ? 俺が始末してやるが」
「もう食べたよ」
「そうか。それはなによりだ……え?」
「おいしかったよね、シロ」
私は半笑いでこたつに舞い戻った。
気のせいか、シロは浮かない顔をしていた。
「タクナ、怪我治ってよかったね」
「おう。これで寝返りを打つたびに叫ばなくてすむよ」
「……」
やっぱりだ。
シロの顔がこわばっている。
原因はなんだろうと思案してみる。
答えはすぐに出た。
私の怪我が治ったからだ。
シロは怪我した私の面倒を見るためにここにいる。
傷が癒えれば、この家にいる口実を失うことになる。
出て行けと言われた気分なのかもしれない。
そんなこと言うわけないんだけどね。
私は目をつむった。
コウルベールから飛ばした飛行機がもうすぐそこまで来ている。
――。
目を開けると、真っ青な空が見えた。
眼下に広がる雲海に私はプロペラをフル回転にしてぶつかっていった。
着氷して前が見えなくなる。
これは誤算だ。
ドンダーフに頼んで改良してもらわないと。
前が見えずとも本体の座標はわかる。
私は本体を目印にして着陸体勢に入った。
――ごん!
まあまあの勢いで何かにぶつかって止まった。
「なんだ? 外に何かぶつかったようだが」
本体に戻ると、そんな声が聞こえた。
外に出たレイエルが飛行機を持って戻ってくる。
機首が凹んでいる。
可哀想に。
「タクナ、お前の魔力を感じるぞ?」
「私が操っていたやつだからね。コウルベールから飛ばしたんだ」
「またずいぶんと遠いところから飛ばしたんだな。……む? でも、どうやって買い物したんだ?」
その辺の説明はまた今度してやるとしよう。
中空の胴体部分から買ったものを引っ張り出す。
手鏡やら化粧品やらは、今はどうでもいい。
「あった!」
私は手袋を持ってシロの隣に座った。
「あんたの髪、真っ白だからね。白い手袋を選んでみたんだ。肉球の刺繍があるやつね」
私はシロの小さな手に手袋をはめてやった。
「どう?」
「あったかいけど」
「そうだろうとも」
「……これつけて出てけってこと?」
「ネガティブなやっちゃな」
シロは気丈に振舞っているが、ちょっと扱いを間違えれば泣き出してしまいそうだ。
私はシロの頭をなでて、肩を抱いた。
「男の子はすぐに大きくなるからね。その手袋、小さくなったら私に言いな。新しいの買ってあげるから」
遠回しな言い方をしたけど、意味は伝わったらしい。
ここにいてもいいよ、って意味が。
シロは安堵したように肩の力を抜いた。
私に頭をあずけてくる。
可愛いもんだ。
姉弟のように寄り添う私たちをレイエルが離れたところから見守っていた。
父親みたいなツラをしているが一体何様のつもりなんだろう。
あんたはパパじゃない。
ただの隣人……いや、変人だ。
さっさと家に帰って馬鹿な魔法の実験でもしていなさい。




