布団防衛戦
初投稿
春ですが布団から出るの辛いですよね。
子息付きの侍女から、身支度のため部屋に訪れたが声がけしても布団に包まったまま動かないと相談を受けた時は珍しく駄々を捏ねている程度の認識だった。
侍女に促されるまま執事は部屋に入り銀鼠色の瞳を大きく見開いた。
子息のベッド上には布団に包まったというよりも布団要塞と呼んだ方が良さそうな物体があった。
「布団を剥がそうと試したのですが四隅をしっかり巻き込んでいらして…」
八の字に眉を下げて侍女はオロオロ俯いた。
この屋敷で執事として働き始めて数年経つがどこからも我儘を聞いた事がない子息だけに侍女の困惑も納得だ。
下がるよう侍女に声をかけ執事は薄い唇を真一文字に結び一呼吸整え布団要塞に近寄り手を伸ばした。
四隅を巻き込んでいるとはいえ空気を取り込む隙間は空いているだろう布団を剥がす方法はある筈だ。
「朝です、何時まで寝ているおつもりですか?」
サァ…っと侍女が空気の入れ替えを行うために開けた窓から吹き込んだ風がカーテンを揺らした。
カーテンの揺れる音に混じり本来なら聞こえるはずのない微かな音が布団要塞から漏れ聞こえ真一文字に結んだ薄い唇を緩めた。
「旦那様には私からもお口添え致します。だから…」
「ホント?」
全てを言い終える前にぴょこんと子息が布団から顔だけをだした。
布団の中でくしゃくしゃになったダークブラウンの巻き毛に藍色の瞳を輝かせてはいるが子息の瞳の下には薄っすら隈が浮かんでいる。
「もしや、夜通し布団の中で暖めていらしたのですか?」
布団の塊…背の付近にそっと手を添えると姿は見えないが消え入りそうなミィィ…という返事が布団の奥から聞こえた。