Episode9:初陣、少数精鋭(またもや褒章独り占め)
「ギース様、ワタリ子爵と兵士50名がお着きになりました。」
「なっ何!たった50名の兵士だと・・・一体何を考えておるのだ。」
「ギース様、子爵の派兵としては一般的な兵の数かと思われますが・・・。」
「まぁ、良い、会おう!」そう言うとギースは到着した一行を出迎えた。
兵たちを見たギースは、驚き目を見開いていた ”なんと本来兵とは冒険者でいうCからBランクが基本であるが、ほとんどがAランク、隊長に至ってはSランクに相当するゾ、なんと質の高いことか!”
「ワタリ子爵、ようこそギースへ!」
「これは、ギース伯爵、お会いできて光栄です。」
「早速ではあるが、現状を説明したい、どうぞこちらへ。」
アユムはアキナと共に部屋に通された。
「さて、ワタリ子爵、現状は国境沿いに武装国家ワルシャー国軍の7割、2万人の兵が集結している対してこちらは2千人だ、全軍で攻めてこないのは、あちらもグレイシア王国軍が出てこられることを良しとしないからであろう。ただ何度か2,3千人の兵で攻められ、こちらは全軍で応戦しているのが現状だ、見ての通り兵も疲れ切っている。」
「そうですか、あちらの内政を崩壊させるためとは言え、あまり時間はかけられませんね。当面はわれらの兵が、ワルシャー軍のお相手を致しますので、ギース軍は休息を取られて・・・」
「たった50の兵力で何を言っているのだ、ワタリ子爵は!」
「別に相手を殲滅しに来た訳ではありませんよギース伯爵、内政崩壊までの時間稼ぎに来た訳ですから。こちらに来る途中、ワルシャーの斥候に我らワタリ子爵の旗印を十二分に見せて来ました。相手の中にも ”ワタリ子爵のメテオール” の話は伝わり知れているかと思われますし、ワルシャー内部でそう吹聴するようにもすでに仕向けております。」
「なんと、既にワタリ子爵は行動されていたという事か…しっ、しかし、メテオールはもう使えないのではなかったか?」
「それは、相手にはわからない事でございます。使えたとしても後の事を考えますと、あの威力の魔法はやはり使ってはならないと考えております、『使うかもしれない』と思わせるだけで十分なのです。」
「そんなに簡単に敵も考えるものだろうか。」
「最初の相手の出方によっては、相手の兵に数名の死者や怪我人を出すことになるかもしれませんが、人が傷つくのは最小限にして、相手の兵力を削いでいきます、近日中に2万の兵を半分にしたいと考えます。」
「なんだと、どうしてそんなことが出来るのか?…ふん、よかろう。それなら、ワタリ子爵のお手並みを拝見させて頂こうか。」
一方、ワルシャー国内では料理屋を営む妖狐族 カゲロウが誰彼ともなく、”ワタリ子爵、メテオール、6万の魔物を一瞬で殲滅” の噂を吹聴し、さらにそのワタリ子爵がギース伯爵領に入ったとも噂していった。
数日間は、ワルシャー側も様子を見ているようで動きがなかった、睨み合いが続いていた。
時を同じくして、ワルシャー国内に大きな影響力を持つ交易商に対し、ワタリ領から密命を受けた者たちが、交易と称してワルシャーに入り、グレイシア王国の品々の売買交渉を進めていた。アユムはすでに交易を通じワルシャーの権力者達に対しても揺さぶりをかけていた。
見せる品々は、目を見張るものばかりで、グレイシア王国と正式に和平を締結し正規ルートでの交易となれば価格はもっと下げられるが、今はワルシャー国王が多額の関税を掛けているために取引でも数も限られ、高額となっていることを吹聴していった。
服、宝石、スイーツをはじめ、見たことのない農工具などは、ワルシャー国内の多くの貴族から関心をもたれ、ワルシャー交易商に価格交渉や数量契約、納期などの問い合わせが止むことはなかった。
アユム達も交易商からの要望に対して、”ワルシャー国王が多額の関税を掛けているうちは、これ以上の事は出来ない” と厳しい姿勢をとっていた。
料理屋を営む妖狐族 カゲロウからも、”交易に対して国王が多額の関税をかけそれを着服している” などと噂を広め、国民感情を煽っていた。
2週間が過ぎたころ、ワルシャー兵の一部がギース領内に攻め入ってきた、アユム達は出陣の準備をしていた。
ギース伯爵が「いよいよですな、相手は3000人と聞いています、どのような策をとられるのか、しかと拝見させて頂こう、ご武運を!」と言ってきた。
アユム達は戦闘隊形のまま、アユムの移動魔法であっという間に敵の正面に移動し、拡声器魔道具の大音量で警告したのだった。
「無益の戦闘は避けられるべし、これ以上領内に攻め入るのであれば、小型のメテオールであるメテオラにて迎え撃つ、これは警告である!」というと、敵兵の動きが止まったが、しばらくして突撃の再号令にて兵たちは動き始めた。
アユムはできるだけ敵兵の前方へ砲撃するように命じ「大魔法メテオラ」と唱えると同時に大砲を発射した。
ドカーン、ドカーンと敵兵のすぐ手前に落ち大爆発を起こした、地面には大きな穴があき、爆風で吹き飛ばされるもの、玉の中に入れた釘などが飛び散り当たって血を流すもの、たった4発の砲撃で、敵兵を恐怖のどん底に陥れたのだった。
「たっ、退却だーっ」敵が撤退の指示を出し、国境線よりもさらに奥に兵を下げたのだった。
それからアユム達は国境ギリギリのところへ砲撃を時間をおいて繰り返し放ったのだった。やがては、国境沿いに爆発により、多くの穴があき、それが繋がり堀のようになっていった。
アユム達は、夜は敵部隊の野営地上空に照明弾を、国境沿いには引き続き砲撃を放っていた、これを三日三晩繰り返した。
そして四日目はすべての攻撃を止め夜を待った。夜間、敵野営地に潜行させた隠密部隊に眠り薬を焚かせ、疲れ切った敵兵を眠らせることに成功し、何か所かに集めさせ、アユム本人が移動魔法で、アユム領の地下街収容所に連れ去ることを夜が明けるまで繰り返したのだった、その数八千人。
兵達を受け入れたソアラらは、地下街からは出さないが、おいしい食事と酒、ふかふかなベット、大浴場、娯楽など最大限のもてなしを ”ワタリ子爵の命によるものだ” と言いながら行っていった。
朝には野営地では、八千人の兵が逃げ出したと混乱し、統率が取れない状況に陥っていた。
アユム達は、再び、夜は敵部隊の野営地上空に照明弾を、国境沿いには砲撃を放っていた。二日目にはワルシャー兵達は国境沿いから姿を消していた。
ギース伯爵は数日間の戦いを見て、改めてワタリ子爵の軍事力と作戦に恐怖さえ覚えたが、戦いの勝利に最大の感謝を送ったのだった。アユムは引き続きギース領防衛をアキナに任せ、一時戦線を離れた。
カゲロウはこの後、”八千人の兵を見殺しにした国王” と言う噂を吹聴した。
このころワルシャー国内では、噂が独り歩きし”税を着服する国王”、”兵を見殺しにする国王”、”王政を倒さないとワルシャーは滅びる”と噂は広まり、王政崩壊の機運が高まっていた。当然、ワタリ子爵の大魔法メテオラの噂も広まっていた。
戦線を離れたアユムは、地下街に収容したワルシャー兵たちに向け、命の保障と現状の生活環境を事が終わるまで保障することを伝え、アユムが考える理想をイメージ写真付きで時間をかけて説明していった、中にはワタリ領で働きたいというものまで出てきたが、再び戦争が起きれば結局どちら側かに立って傷つけ合う事になるから、戦争を無くすことに協力して欲しいと説得するのだった。
さらにアユムは根回をしていたワルシャー交易商からワルシャーの有力貴族数名と密会を行い、これからの事、アユムが考えていることをわかりやすく話し、説得し、一人また一人と説き伏せて行った。
一番相手の心をうったのは、ホログラム魔道具によるグレイシア国王 グレイス五世の和平を呼びかける立体映像であった、この技術に関して到底太刀打ち出来ない、戦うより協力こそ発展できると各貴族は悟ったのであった。
アユムが戦闘に参戦して一か月が経った頃、武装国家ワルシャー国王からグレイシア国王へ不可侵条約の締結と平和交易の打診がもたらされたのだった。
当初アユムが考えていた王政崩壊とは行かなかったが、国王を改心させ不可侵条約を締結する事が達成できた。
アユムはカゲロウに、”国王は民のために、グレイシア王国と和平を結んだ” と触れ回るよう指示を出し、ワルシャー兵を祖国に帰すことに奔走したのだった。
そして、国王から招集令状が届き、各貴族は大広間に集まった、名を呼ばれたアユムは国王の前へと進み出た。
「子細はこのギースから聞いておる、なんでもたった50の兵と共に、そなたは2万の兵を相手にしたと。敵の攻め入る正面に瞬く間に兵を動かし威力を落としたという大魔法メテオラを放ち返り討ちにしたとも聞いた。さらには三日三晩国境沿いにメテオラを放ち続け、夜を昼に変える魔法も用いた。そのメテオラにより国境には深い谷間ができたそうだ。さらには夜襲にて、あっという間に敵兵の半数を捕らえ連れ去ったとも聞いた。またワルシャー国内においても様々な情報戦を用い、今回の勝利を勝ち取ったとな・・・わしはワタリ子爵が味方で良かったと思うておるぞ。」
”大分盛っているけど、まぁいいか” 「ははっ、恐悦至極に存じます。」
「皆も良いか、私はワタリ子爵の有言実行を高く評価したい。よって、これからは ”ワタリ” を改め ”メテオラ” と名乗ると良い、そして伯爵の爵位と白金貨300枚を、さらには以前も話したであろう東側の土地を贈呈する事とする、良いなメテオラ伯爵。」
「有難き幸せ、頂いた名に恥じぬよう精進いたします。」会場は、再び大きな拍手の中で幕を閉じたのであった。
ワタリ領に戻ると、皆にこのことを伝えた。
カタストロフが「主さま、おめでとうございます。」と真っ先に喜びの声を上げた。
ソアラは「東側の土地ですか、これでグレイシア王国の5分の1の大きな領地となりましたね。」
ハルからは「今後はワタリ領ではなくメテオラ領になるんですかい、旦那様?」と聞いてきた。
「そうだね、国王も名前から大魔法を連想させたかったんじゃないかな?、有難く受け止めるよ!」
アキナからも報告があった「ご主人様、ワルシャー兵の一部が、我が兵に加わりたいと申し出ていますが如何しましょうか?」
「一部ってどれくらいかな?」
「はい、ざっと千名ほどになります。」
「領地も大きくなった事でもあるし、今後は伯爵として今以上に多くの派兵を求められるから、いいだろう、アキナ、ちゃんと鍛えてあげてね。」
「かしこまりました、ご主人様」
「しっかし旦那様、東の土地となると、この西の地の ”ワタリ領” より大きい・・・失礼しましたメテオラ領ですかい・・」サブは咄嗟に言い直した。
「いいんだよ、サブ。言い慣れた土地の名だ、僕はそれを残そうと思うよ。今からこの西の地は ”ワタリ州”、東の地は母方の性から ”イシハラ州” と呼び、これらを合わせて ”メテオラ領” にする。」
「この際だソアラ、住所を作って戸籍を管理してくれる。」
「ハルは正式に ”未来工業” の社長に就任させる。」
「建築会社 ”永住建設” を設立し、サブを社長に。”栄豊運輸” の会社では輸送関係を社長はシンだ。”宝実酒造” 会社で酒造りは頼むぞタカ社長、大きな工事は ”善進重工” だなジョージ社長が請け負う。最後は造船・貿易の ”曙海運” だ、良いかトバ社長。みんな頼んだよ!」
「かしこまりました。」
「早速だがシン社長、この広大な領地に鉄道網を構築したい。今出来る物と言えば蒸気機関車なんだが、この辺は。メグやルビアとも相談して、蒸気や魔道とか、何が効率が良いか考えて進めてくれるかい。」
「東の地には、私の故郷のような都市も作りたい、5階建ての建物が立ち並び、公園なども作るんだ、未来型都市。他にも文芸・音楽・演劇などを中心とした町も創りたいね。未来型都市の町長はメグ、文化型都市の町長はルビアが兼務してもらえると助かる。」
するとソアラが「それにはもっと領民を増やさなければなりませんね」と言うと、アユムは「優秀な人材を奴隷商に手配してもらおう、お金は少しかかってもいいだろう、勿論今までと同じで、”奴隷ではなく” ね、それと結婚を認め、子供を生んでもらおう。子育て支援を充実させ、立派に働けるようになるまで支援するんだ。」
「となると住宅もいろんなモデルが必要になるなサブ社長!・・・」そんな話が夜まで尽きなかった。