Episode8:交易は楽しい(儲かりすぎて笑いが止まらん)
それからさらに数か月が経ち、アユムがこの世界に落とされてから1年と半年が過ぎた。
「ご主人さま、ワタリ領についてでございますが、すでにグレイシア王国に納める税額がどの領主よりも最高額となりました。引き続き領民から税を徴収しなくても宜しいのでしょうか?」ソアラは心配そうに問いかけた。
「ソアラの心配はわからないでもないが、ワタリ領は意外に効率的に運営出来ている、生産品の利益率も高い、未来工業も順調で社員も増えている、商業ギルドからも特許使用料も入って来るし、来月からは海運業も始められそうだ。なんてったって、温泉が観光資源となったのは大きな誤算だよね。」
ソアラは大きく頷きながら「それも、みんなご主人さまの教えの通り行動したからでございます、引き続きご指導をお願いします。領民もあっと言う間に2000人を超え、誰もが胸に奴隷紋を刻むほど、ご主人さまに忠誠を誓っております。」
するとアキナも「ご主人様、防衛力も当初の倍の規模になっております。常時、攻め100名、守り100名、休暇100名の兵員配置で運用できており、最低でもBランク冒険者並みの力を有しており、4割はその上のAランクに匹敵する戦闘能力があります。また、獣人部隊も加わり、斥候や隠密行動などを行える部隊も出来ています。また、休暇中の部隊の中には町の治安維持のために活動しているものもいます。」
「そうなの、休暇なんだから休めばいいのにな、その者たちには、治安維持手当を支給してあげて下さい。でも休暇もちゃんと取っているかも気を付けておいてね!」
「はい、ではこれからは正式に、ご主人様が以前仰っていた ”ケイサツ” 機構を取り入れたいと思います。」
「そうだね、今ではアユム村をはじめ、温泉施設のあるアタミ村と未来工業近くに作ったトヨタ村の3つの村も出来たからね…。そうだアキナ、海に適応できる兵を選抜して、海軍も作ってもらえるかな、そろそろ海運事業も始めることだしね。」
「承知しました。」
メグとルビアがやって来た「ご主人様、お話があります。」
「なんだい?」
「メグが面白い物を作りまして、その用途を考えておりましたら、こんなものが出来ました。」と言い、細長い2本のロープをアユムに見せた。
「なんだ。コレは?」アユムはメグに尋ねると「はい、ご主人様、これは、前に見せてもらったグラスファイバーを真似して、魔石を加工して同じようなものを作ってみたの、曲げ過ぎると折れちゃうけどね。」
ルビアは「これを調べると、魔石の特徴である魔力の伝導率がそのままなんです。」
「という事はどういう事に使えるのかな?」
「はい、長距離は無理かもしれませんが、ご主人様の言われる電話に近い物ができるかと!」
「それはいい、凄いぞ、メグ、ルビア!!、では領主館を中心に各施設と連絡が取れるように、設置してくれるかな、できれば王室にも秘密裏に設置できればいいな、後は、各国にいる者たちとも・・・」
「ご主人さま、各国の者とは彼らの事ですか?」
「そう、武装国家ワルシャーで料理屋を始めた妖狐族カゲロウ、ジング国で雑貨屋始めた人族タクミ、メリア国で酒場を始めた鷲族ホーク、モスナ国で宿屋を始めた虎族ミルコ、グナン魔国で交易商を始めた魔族ドラキュラ種クリスファー達だよ。」
「いくら何でも、海を越えるそんな長距離は不可能でございます。」
「そっか、でも彼らの情報が、一番早く知りたいものなんだけどな、残念だな。」
するとアヴァランチがアユムに「主さま、私たち ”厄災のルーイン” と同じく、守りのお役目をつかさどるモノとして ”絶防のオクタージス” と言う盾が存在します。これは各魔法属性に対して鉄壁、すなわち無効化を実現する盾でございます。、この盾は魔法属性ごとに、絶炎のアリエス、絶水のアクエリ、絶岩のヴァルゴ、絶風のタリアス、絶光のカプリコ、絶闇のライブラ、絶重のグラビデ、絶無のタウラスの8つの部位に別れております。それらをお探しになられて、”リペア”を唱えて頂ければ、カタストロフと私同様、8つの部位は念話が可能になるかと…」
「それらを介して連絡を取り合えるという事か・・・なんかいいね、今度時間をとって探しに行こう!」
「是非に、私共をお供にお願いいたします。」
カロラが嬉しそうに話しかけた「みんなも各国に配置できたし、海運もできるし、いよいよ交易ができます、ご主人さま。交易で取り扱う商品もかなり豊富な品ぞろえとなりました。」
「そうだね、いよいよだ、今は、グレイシア王国の各村と、隣接する武装国家ワルシャーの少しの村との交易が始まっているが、そこで生み出される財はかなりのものだよ。それだけでもグレイシア王国一の納税額となっているんだから、海を隔てた他国との交易が軌道に乗れば、いったいどれくらいの財と富をもたらすことか、考えると笑いが止まらない。ただ、王国にはその旨をお伝えし、武器に転用できる品は交易品にしないと約束をしておく必要があるね。」
酒造りのタカからもうれしい報告があった「旦那様、酒については、エール、ワインに加え、ビール、ウィスキー、酒、焼酎も交易に間に合いますぜ。」
「もうそんなに・・・試飲したとき、僕はビールを少ししか自分の国でも味わったことがなかったから、出来栄えを心配していたんだけどね。」
「へぃ、成分も鑑定して頂き合格でしたし、味も私が保証します、どれも良い物になっております。」
「よし、じゃあ交易で扱う商品をもって、国王に会いに行こう!」
アユム達は早朝王国を訪ね、国王に謁見、交易品を説明を始めた。
品数の多さ、珍しさなどもあり、国王はその日の予定をすべてキャンセルし、アユムの説明に時間を費やしていた。
「アユム子爵よ、これらはすべてグレイシア王国の宝と言っても過言ではない。よくぞここまで産業を育ててくれました、この功績は伯爵への陞爵も考えねばならんな。」
「ははっ、ありがたきお言葉、努力を重ねます。」
「それに、各領主を迎賓館に招きもてなすこと、評判が大変良いと聞き及んでおる。王国内の安定に一役買ってもらっておるようで礼を言う。して、これらを海を渡った各国と交易を始めるという事で良いのか?」
「はい、国王様、それと…」アユムは海軍の話、魔伝話機の話を続け、余は更けて行った。
翌朝「よし、交易の準備は整ったな。」そこへユイがやって来た「おはようございます、ご主人様、迎賓館でお出しする、料理やデザートの評判が良く、是非。交易品として扱ってもらえないかと、それと水洗トイレにも関心がおありのようで、ご要望頂いておりますが、いかが致しましょう?」
「ついに、そんなところにまで評価が高まって来たか、ユイたちのお陰だよ。、でも生ものを交易に乗せるわけには行かないな。」”…待てよ、冷凍ならどうかな?、時間をかけて考えるか。”「トイレも仕組みは便座に座るとタンクに水を貯めるよう魔道回路が働き、その水を流すだけなんだが、その後の設備つまりインフラが胆なんだよね、これは難しいね。」
「そろそろ、いい時期かもな、ワタリ領に第四の町を作ろう、商業を中心にした町だな、そこはデパート、そう、大型商業施設を作るんだ!」
ユイは「デパートとは、何でしょうか、ご主人様?」と尋ねた。
「いろんなお店を一箇所に集めた建物だよ。そこに行けばなんでも揃うんだ、食堂ももちろんある、生活品はお手頃価格で、高級品はそれなりの価格帯で販売するんだ、きっと人が集まるだろうな。」
そこへハルも加わり「であれば旦那様、グレードを付けた宿泊施設も必要ですな。定期的にグレイシア王国やアタミ村を結ぶ乗合馬車も準備しましょう、道路整備もさらに充実させましょうや。もちろん地下街も繋げましょう。メグの作った風車の力で回すギアボックスは、いろんな力に変換できます、ギアの組み合わせで村と村を旦那さまが言っていたベルトコンベアなるものをロープ型のロープトウにして物流に役立ててますし、ここでモノを売るのであれば、必要になるでしょうから。」
「そうだね、デパートでは、ワタリ領の各村の特産品の農業生産品や未来工業の品々、服、宝石なんかは勿論だが、これから各国との交易も始まれば、各国の物産展なんかも開けるだろうし、それから、おもてなし料理を出す食堂、デザートを楽しめる喫茶店もいい、ここでは武器防具、魔道具、スキルスクロールもポーションや漢方薬も売れるだろう、みんなも何か売りたいものがあればどんどん言ってきてくれ。」
漢方薬の話を聞きセリカがやって来た「ご主人さま、漢方薬のお話ですが、ご主人さまの鑑定スキルなどで、各種の病気と治療用の漢方薬が準備出来ました、領民にはわずかな料金でお出し、効果も確認しております、ただ…。」
「なにか問題がありそうだね。」
「はい、たくさんの量を飲んだり、塗ったりと薬の用法・用量を守らぬものも出ております、量を間違えれば悪化してしまう場合もありますので…。」
「そうか、言っても守らない、ましてや識字率もまだまだだしな、ワタリ領は学校やいろいろと学びの場もあるが、外から買いに来る者たちには、もっと伝わらないかもな。」とアユムが言うとメグは「こんなのはどう?」と簡単な絵で説明を書いた。
「なるほど、面白いね。ピクトグラムとマンガの中間だな、早速これをそれぞれの薬で作って、患者に渡してみて反応を見てみよう。」
カロラが「ワタリ領のみんなが買うのは少量だけど、遠くから来た人が作物を沢山買ってくれるものでしょうか?」と首を傾げた。
「確かにな、ワタリ領産の作物ならば、交易馬車を待てば良いが、そこでしか変えない物産品となるとな、未来工業にも大型商品もあるし、大きなものは敬遠されるかもしれないな、せめて移動魔法でも使えたらな・・・。」
カタストロフが「主さま、歴代魔王様も移動魔法Lv3までは皆お使いになられていましたので、そこに行けば少なくとも移動魔法のスクロールが魔王様おひとりから3つ、四人から合計12個のスクロールが採取できると思われます。そして適任者にLv2まで使えるようにすれば、数名の荷運びが出来るものが育てられると思いますが。」
「一個は僕がLv4にするために使っちゃうから、残りは11個か、うまく使わないとな、移動魔法や魔獣馬を使った宅配便なんかも考えてみようか・・・ルビア!異空間収納が使える者はいるのかな?」
「はい、ご主人様、運べる量に制限はありますが、いるとは思います。」
「うちの兵士にも欲しいところでもあるな、いっそ何人か奴隷商とか冒険者ギルドで頼んでみよう!」
「そうですね、戦いで使う、各種バリスタ兵器や大砲など大型武器はそのまま運ぶには進軍速度に影響を与えますから、ご主人様を裏切らない奴隷がよろしいかと思いますが。」
「そうだ、ルビア、アイテムボックスを作ることは出来ないかな?研究してみて!」
「承知しました。最近、武装国家ワルシャーと国境を接するグレイシア王国のギール領の間できな臭い動きがありますので、戦争になるやもしれません、研究を急ぎます。」
「そうしてくれ、それまでの間は奴隷に頼るか。」とアユムは奴隷商に話に行った。
何日かしてシンがアユムに会いに来た「旦那様、馬車の方ですが、魔獣馬用が4台、一般用が8台完成し運用しております、サスペンションなるものすこぶる乗り心地も良く、荷も壊れません、良い物です。」
「そうか、乗合馬車も至急作ってくれるかい?各村とグレイシア王国なんかを定期的に往復させたい、もっと乗り心地の良い物を頼むよ。」
「へい、かしこまりました。それと旦那様、魔獣馬のそばで、他の魔獣も飼育したいんですが、ダメでしょうか?」
「他の魔獣って?」
「ケッコーという鳥から卵を、ヨークシャボアからは肉を、ホルスカウからはミルクを取りたく思います。」
「なるほど畜産か、いいね。ただ肉をとるだけにヨークシャボアを飼育するのはね、冒険者ギルドから今はまだ仕入れる方がいいだろうね、後のはいいよ、是非やって!」
「かしこまりました。」
更に数日後、ルビアが魔伝話機の事でアユムに報告した。
「ご主人様、魔伝話機の設置完了しました、グレイシア王国はまだもう少し時間がかかります。」
「そう、もう出来たか、じゃあ西の港湾施設に連絡してみようかな・・・もしもし?」
するとトバが応答した「はい、良く聞こえます、旦那様!」
「こっちも良く聞こえる、ばっちりだ。ついでだ何か困ったことは無いかい?」
「まずは報告を、大型商船は完成しております、それと小型ではありますが、速さと小回りが利く護衛船を2隻、前方に大型バリスタ兵器、左右に大砲を2門づつ備え付けています。さらに護衛船をもう2隻を建造中でございます、旦那様からお預かりしていますゴーレムたちがそりゃもう期待以上の働きでして大変助かっております。」
「いいね、困ったことは無いの?」
「それが、ハルから聞きましたが、なんでもデパートを作って、外からくるモノにワタリ領の品々を販売するとかで、是非こちらの海産物も販売して頂きたいのですが、何分鮮度が持ちません。勝手ながら、何とかならないかメグに相談しているところです。」
「そうだな、それは僕も考えていたんだ。やり方は加工するか凍らせるかなんだろうけどね、取りあえず、干物や煮物を作る食品加工場を建設してくれる、あとある程度の大きさの倉庫もね・・・今できることはそんなとこかな?」
「はい、わかりました、では失礼します。」
「ルビア、これすごくいいよ、うん、使えるね!」
「光栄です、ご主人様。それとワタリ領の各所に拡声魔道具を設置しております、ワタリ領全体に一斉通話も可能です。」
「それもいい、非常事態の時には役立つが、非常時だけじゃあもったいないね、何か・・・」
「そうだ、まずは時間を伝えよう、9時と12時と15時と18時に違った音楽を流すんだ、それとそれ以外は耳障りの良い音楽、スマホからJPOPでも流すかな。」
「JPOPが何かはわかりませんが、記憶魔石に音を入れて頂ければ、指定時間に流すことは可能でございます」
ある日を境にワタリ領には、時報代わりの音楽と耳障りの良い音楽が流れるようになり、それも他の領地の者たちから評判の良い物となった。
そして、国王から招集令状が届き、急ぎアユムは駆け付けた。移動魔法で駆け付けたので、まだ大広間は閑散としていたが、徐々に各領主が集まってきた。
国王からは、度重なる武装国家ワルシャーから国境を接するグレイシア王国のギール領への侵略行為についてであった。ギール領 ギール・スミス伯爵からも窮状の訴えもあり、やはり戦争ムードが高まっていた。
誰からかわからないが ”ワタリ子爵のメテオーラで根絶やしにしろ” という強硬発言もあったが国王がそれをおさめた。
国王は右腕であるギール伯爵の窮状を解決すべく対応を急ぎたいが、王国全土で戦争となることは避けたいという事は表情から読み取れた。
どこからかの ”ワタリ子爵” という掛け声に応じたわけではないが、アユムは国王に確認をしてみた。
「恐れながら国王様、今回の件は、国家間の戦争にならないように武装国家ワルシャーの度重なる侵略行為をやめさせる、つまりは武装国家ワルシャーを滅亡に追いやるのではなく、不可侵条約を結べれば良いという事でしょうか?」
「うむ、それが出来れば良いだろう。」
ギース伯爵が言う「しかし、こう何度も攻め入られては、我が領の兵も疲弊しております。」
アユムは続けて「国家間で遺恨が残る形では争いが収まりません。ワルシャー内部で現王政が崩壊するよう仕向け、新政権と不可侵条約を結ぶのが最善。しかし、時間がかかってはギース領の兵だけでなく領民、経済も悪影響があるので、その間の対応も考える必要があると言う事ですね。」
ギース伯爵がまた口を挟んだ「そううまく行くだろうか。」
国王が宣言をした「今回の件はギース伯爵とワタリ子爵で対応してもらえぬか?どうだできるかワタリ子爵よ。」
「仰せのままに、拝命いたします」二人は口を揃えた。
アユムはすぐにワタリ領にもどり、今回の件を指示した後、ギース領へと向かったのだった。